2024年3月19日(火)
主張
日産の減額強要
下請けいじめの構造にメスを
日産自動車が、多数の下請け企業に支払代金の減額を強要する下請けいじめを長年続けてきたことが発覚しました。下請け側に何の責任もないのに、コスト削減を目的に一方的に支払代金を減額していたとして、公正取引委員会から下請法違反で勧告を受けました。
円安で日産など輸出大企業は巨額な利益をあげています。一方、下請け企業は原材料費や人件費の上昇分を取引価格に転嫁できずに苦しんでいます。発注者の強い立場を利用した下請けいじめは許されません。日本経済全体の成長も阻害します。
氷山の一角にすぎない
減額した総額は、2021年1月から23年4月までの間で約30億2400万円にのぼります。下請法違反としては過去最大です。日産は、これをすでに返金したといいますが、それで済まされる問題ではありません。
減額は数十年にわたり続けられた可能性があります。下請け企業側は、取引関係が打ち切られることを恐れて減額を受け入れさせられてきたのでしょう。
自動車製造業は、タイヤホイールやエンジンなど膨大な数の部品が必要で、日産のような自動車メーカーを頂点に1次下請け、2次下請け、3次下請けと、ピラミッドのような階層をともなった下請け企業群が積み重なっています。
21年3月にはマツダが、下請け企業に手数料名目で総計約5100万円を支払わせていたとして、下請法違反で、勧告を受けるなど、類似の事例が発生しています。
重層的下請け構造のもと、下請けいじめの単価たたきが横行し、不当な取引の見直しを求めることや告発自体、大変困難です。
それでも、下請法に関する公正取引委員会への相談件数は22年度に約1万4000件にのぼり増加し続けています。それに対し、同委員会による勧告は年1桁台にとどまり氷山の一角にすぎません。抜本的な改善が求められます。
立ち入り検査などの強い権限がある専任の下請け検査官は、公正取引委員会で122人、中小企業庁で57人にとどまっています。専任の下請け検査官の大幅増員は急務です。同時に、不公正取引への罰金額の抜本的な引き上げ、被害額の3倍の被害救済の違反金制度を創設するなど、単価たたきが「割に合わない」ようにすることが必要です。
下請振興法は、振興基準で、単価は、下請け中小企業の「適正な利益」を含み、労働条件の改善が可能となるよう、親企業と下請け企業が「協議」して決定しなければならないと定めています。
中小企業が潤ってこそ
しかし、中小企業庁の調査によると下請け企業のコスト上昇分の取引価格への転嫁率は45・7%で半分以上が転嫁できていません。
同庁の自動車産業の下請けへのヒアリングでは、「価格交渉を申し出たところ、コスト上昇の根拠資料を求められたため提出したが、回答期限までに回答はなく、その後音沙汰なしとなっている」などの声があがっています。
コストカット型経済を改め、雇用の7割を占める中小企業が正当な利益を受け、そこで働く人が潤ってこそ、経済の好循環につながります。下請振興法に実効性をもたせることに政治の責任で取り組まなければなりません。