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2024年3月6日(水)

主張

権利条約批准10年

障害者の社会参加と平等こそ

 日本が障害者権利条約を批准して今年で10年です。同条約は、障害のある人とない人の平等性を強調しています。国連障害者権利委員会は2022年9月、条約に沿った日本の施策の進捗(しんちょく)状況を初めて審査し、総括所見を公表しました。そこで浮かび上がったのは、障害のない人と同等の社会参加という、条約がめざす社会からは程遠い日本の実態です。障害者団体などは、岸田文雄政権が総括所見の勧告を受け止め施策の改善をはかることを強く求めています。

「医学モデル」からの転換

 総括所見は、日本の障害者政策が障害者を人権の主体として捉えず、恩恵的に保護するという考えに立っていると指摘しました。例えば障害者が政治活動する場合は、当然の権利であるにもかかわらず、ヘルパーの付き添いなどの移動支援が使えないという制限があります。総括所見は、全ての障害者関連の国内法と政策を条約と調和させるよう勧告しました。

 日本の障害者施策では、本人にどのような精神的、知的、身体的な機能障害があるかに着目します。その程度によって障害認定や手帳等級が決まり、それに応じて行政から得られる支援の量が決まります。そのため必ずしも本人の希望する支援が得られない実態があります。こうした障害の捉え方を「医学モデル」といいます。

 他方、障害者権利条約は、障害は機能障害と環境との相互作用で生じるとします。周囲の態度や環境・法整備の違いで障害者が自身の障害の程度をどう感じるか変わります。こうした捉え方を「社会モデル」といい、これを基礎に障害者を人権の主体と捉えることを「人権モデル」といいます。

 総括所見は、「医学モデル」の要素をなくし、障害者一人ひとりが個別事情に沿って社会参加に必要な支援を、権利として得られるよう勧告しています。

 支援の支給量が本人の希望に応じて保障されるしくみに転換し、そのための予算を拡充することが必要です。

 総括所見が、相模原市の障害者施設「津久井やまゆり園」で16年に起きた殺傷事件を、「優生思想や非障害者優先主義に基づく考え方に対処する」ために検討するよう勧告しているのは重要です。同様の事件を二度と起こさないために、障害者は障害のない人と平等の市民だという認識を国の責任で広げなければなりません。

共生社会の実現に向けて

 総括所見は、長期入院や精神障害者の人権を侵害するような治療法を見直し、地域社会で暮らせるように施策の転換を要請しています。全国の精神科病院で入院1年以上の患者は約16万人、そのうちの4万4千人余りは10年以上に及びます。日本はOECD(経済協力開発機構)加盟国の中で、入院期間が異常なほど長く問題になっています。中には地域で支援が得られず「社会的入院」を余儀なくされる患者もいます。昨年2月には、東京都内の精神科病院で患者への虐待事件が発覚しました。

 内閣府の調査では、障害者権利条約を「知らない」人が7割以上にのぼりました(23年2月発表)。岸田政権には、社会に条約を周知し、障害の有無にかかわらず個人として尊重される共生社会の実現に向けて真剣に取り組むことが求められます。


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