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2021年8月3日(火)

変わり果てた自宅

熱海土石流から1カ月

 静岡県熱海市の伊豆山(いずさん)地区を襲った土石流災害から3日で1カ月となります。これまでに22人の死亡を確認。被害にあった建物は131棟で、約300人が避難生活を続けています。大量の土砂の除去は困難を極め、行方不明者5人の捜索も難航しています。現状と、復興へ向けた住民の思いは―。(武田祐一)


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(写真)土石流で壊れた自宅の状況を見に来た男性(左)と、同行調査した小坂市議=7月31日、静岡県熱海市

 「ああ、これは2階でした。1階の奥に干した洗濯物はそのまま残っている…」。男性(28)は7月31日、約1カ月ぶりに自宅を訪れ、変わり果てた姿を目の当たりにしました。

 家は集落の最上部にあり、すぐ横を逢初(あいぞめ)川が流れます。建物は下流方向に倒れ込み、1階部分は押しつぶされていました。海に向かって土石流の痕が続き、集落を埋めているのが分かります。にごっていた川の水だけが清流に戻っていました。

 男性は6月末に引っ越してきたばかりでした。7月2日に東京から最後の荷物を運び入れ、いよいよ新生活をはじめようというときに被災しました。

 「土石流は午前10時半くらい。あの日、私は10時20分まで家にいて、車で熱海駅前に買い物に出ました。それっきり家に戻れなくなりました」

 住民票の登録がまだだったため、避難所のホテルに入るのも一苦労でした。相談を受けた日本共産党の小坂幸枝熱海市議が交渉し、避難所に入ることができました。

 土石流は業者が不適切に造成した盛り土が原因ではないかと調査が進んでいます。土砂除去の作業を高台の道路から見ていた高校1年生(16)は話します。「あの日、ここから土石流を見ました。トラウマになって、怖くて夜、眠れませんでした。地元では、ここは地盤が強いと聞いていたのに、まさかこんなことになるなんて。盛り土のことを知って人災だと感じる」

先見えぬ不安 被害の補償を

避難生活 住民の交流なし

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(写真)住宅に入った土砂を取り除く作業をするボランティアなどの人たち=7月31日、静岡県熱海市伊豆山

 伊豆山地区を襲った土石流で被害を受けた住民は、市内の二つのホテルで避難生活を送っています。自宅が被災した男性(64)もホテル暮らしです。

 「食事は朝夕がバイキング形式なので困っていない。ただ仕事ができないし、先の見通しが立たない。うちは農家でミカンやレモン、野菜をつくっていたが、農業機械や農機具が流され、やりたくてもできない」

除去作業に不信

 男性は土砂の除去作業などに不信感を持っています。「家の前の軽トラックが被災直後には無事だったのに、ニュース映像を見るたびに移動されて損傷がひどくなっている。作業小屋にあったバイクも行方不明になった。誰が補償してくれるのか」

 また、ホテルでは住民同士の交流がなく「今後どうしたらいいのかを話し合う場がない。この状況を何とかしたい」と訴えます。

 海沿いのホテルに避難している男性は、「このホテルには、自宅が被災していないが、土砂災害の危険性があって規制されている地域の住民が避難している。ホテルに避難できる期限は6日まで。その先どうなるのか。長期に帰宅できない者への補償はないのか、不安だ」と話します。

 路線バスは、複数の区間で運行が休止しています。女性(65)も自宅の被害をまぬがれましたが、ホテルで避難しています。「高齢の母やペットの犬のことを思うと住み慣れた家に戻りたい。でも自宅がある集落は家も道路も流されてしまい、うちの前もまだ捜索の拠点になっている。いつ戻れるのか、この先、戻っていいのかも分からない。せめて集落までバスを通してほしい」

 土石流で通行止めになっていた国道135号は7月29日午後から開通しました。男性(76)は、国道の逢初橋近くにある自宅の玄関前に60センチくらいの土砂が積もりました。「妻の具合が悪く、ずっと自宅で生活している。幸い家や車は無事だった」

 しかし土砂が流れこんだ周囲の家は住民が戻れる状態ではありません。「近所はまだ半分くらいホテルに避難している」と話します。

家中カビだらけ

 ボランティアによる支援活動は、熱海市民限定で始まっています。7月31日には、国道周辺の浜地域で店舗や住宅に入った土砂を小型の重機やスコップで除去する作業をしていました。

 伊豆山神社の参道の階段近くに住む男性(88)は1カ月ぶりに帰宅したら、冷蔵庫は壊れ、家中カビだらけだったといいます。「家具やじゅうたんをボランティアの人に始末してもらった。買い替えるのにお金がかかり、何か補償はないものか」と悩んでいます。

 家族で弁当の店を営む女性(49)は、ボランティアや観光客に氷水を提供していました。「店に土砂はこなかったが、道路の土砂を洗い流す水で壁が汚れた。こうした被害の補償はない。1カ月近く営業できず、冷蔵庫が故障した。多くのお客さんも被災し、この先、伊豆山はどうなってしまうのか不安だ」

 地元出身のボランティアの女性(44)は、「土砂をどけた後の掃除をした。被害の程度によって要望が違うので、被災者一人ひとりの声をよく聞いて支援をしてほしい」と話しました。


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