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2020年11月1日(日)

きょうの潮流

 塚本晋也監督・主演の自主映画「野火」を見て衝撃を受けたのは、戦争法案が強行採決された2015年の夏でした▼太平洋戦争末期のフィリピン・レイテ島で、結核のため部隊を追われた1等兵がジャングルをさまよい続けます。飢えと孤独の極限状態での狂気、発作的な殺人、人肉食の欲望。戦場のおぞましい実態に震えるほどの恐怖を覚え、兵士を英雄として描く作品群がいかに欺瞞(ぎまん)に満ちたものかを思い知りました▼戦後75年の今、この映画の原作『野火』の著者でもある作家・大岡昇平の生涯と作品世界をたどる展覧会が、県立神奈川近代文学館で開催されています▼青春の日々に小林秀雄や中原中也らと交友を深め文学を志し、スタンダール研究家として知られた大岡は、1944年、35歳で臨時召集を受けフィリピン・ミンドロ島に出征。翌年、米軍捕虜となりレイテ島の収容所で敗戦を迎えました▼戦後、従軍体験を基に書いた『俘虜(ふりょ)記』『野火』『レイテ戦記』では、絶望的な攻撃と防御で肉体が吹き飛び、あるいは敗走の飢餓地獄の中で野垂れ死んでいく兵士一人ひとりの姿を克明に描出し、日本帝国の戦争とは何だったのかを告発しています▼「レイテ島の戦闘の歴史は、健忘症の日米国民に、他人の土地で儲(もう)けようとする時、どういう目に遭うかを示している。(略)どんな害をその土地に及ぼすものであるかも示している。その害が結局自分の身に撥(は)ね返って来ることを示している」。作家の渾身(こんしん)の遺言として胸に刻みたい。


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