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2018年8月17日(金)

NHKの足元 委託事業もブラック

青年労働者たち 未払い賃金を提訴

働く権利知り 怒り湧いた

 NHKから放送受信料の契約・徴収業務の委託を受けたエム・アール・エス(本社・茨城県つくば市)の若い労働者らが未払い賃金の支払いなどを求めて、東京地裁に提訴しています(7月13日)。過労死が問題になったNHKの足元でも、「ブラック労働」がまかりとおっている形です。

 (松浦裕輝)


写真

(写真)自分で記録したタイムカードで未払い残業代を請求した佐山さん=6月6日、茨城県

 佐山悠太さん(28)=仮名=は、昨年5月から同社の正社員としてNHKの放送受信料の徴収や衛星放送の契約を結ぶ仕事をしてきました。

 平日は午前11時、土日祝日は午前8時半に出社です。訪問するエリアを決め、4人一組で車に乗り現地に向かいます。現地では1人ずつ分かれて訪問します。

 「相手になかなか会えない」と佐山さん。訪問や契約件数のノルマがあり、会社からは平日も土日祝日も、「夜9時まで訪問しろ」と命令されています。訪問先からは「常識を考えろ」と叱責され、社長からは「(契約)取れるまで帰ってくるな」と怒鳴られ板挟みです。

違法行為横行

 会社にはタイムカードがないため、佐山さんは自分で用紙を購入し記録。労働時間は1日平均11時間、残業時間は月80~100時間に及びます。残業代が支払われたことはありません。訪問エリアは県内全域にわたるため、会社に戻ると午後11時を過ぎることも。「体がぐったりして歩くのも大変。ストレスで20キロも太った」

 ほかにも違法行為が横行してきました。

 ―ノルマを「ポイント制」と称し、基準に達しないと基本給を減額する。

 ―労働基準監督署の指導で、支払う約束をした未払い残業代も実態とは違う低い金額しか払わず、「これ以上請求しない」という念書にサインさせようとする。

 「労働者に何の責任も負ってないような態度に腹が立った」と、残業代の支払いなどを求める訴訟を決意しました。

 知人を通じて日本共産党の平井誠下妻市議にも相談し「職場の中で仲間を募るのが良い」とアドバイスを受けます。

 佐山さんの呼びかけに若い労働者4人が応えました。その一人の上野和也さん(20)=仮名=は訴訟に踏み切ることにためらいもありました。上野さんにとって「安定して働きたい」と就職した初めての正規の仕事でした。しかし、労働者の権利を学び怒りが湧きました。「自分の時間が取れて、休みもあって、残業代が支払われる、当たり前の世の中になってほしい」

実態を相談も

 委託事業者は契約件数など成果に応じて費用が支払われる契約をNHKと結んでいます。収益を上げるためには契約数を増やすしかない仕組みが、「ブラック労働」が横行する背景にあります。

 佐山さんはNHK水戸放送局に働く実態を相談に行きましたが、同放送局は「NHKとしては回答する立場にない」と答えました。佐山さんは「公共放送の委託事業者がこんなにひどい働かせ方はおかしい。世間では過労死も問題になっているのに、なぜ改善しようとしないのか」と憤ります。

 元NHKチーフプロデューサーの永田浩三武蔵大学教授は「NHKのありよう抜きには語れない」と言います。NHKの不祥事やニュース報道への不満などで「構造的に長時間労働を強いられているのではないか」と指摘。「トラブルにNHKが関係ないというのは無理がある。委託事業先の労働環境悪化は改善が必要」と語りました。

 本紙の取材に対し、エム・アール・エスは「係争中のため回答は差し控えたい」。NHKは裁判中のため回答は差し控えるとしつつ、「委託先事業者において重大な法令違反が明らかになった場合は、適切に対応する」と回答しました。


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