しんぶん赤旗

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日本共産党

2018年4月30日(月)

きょうの潮流

 心に残る童謡はありますか。今の季節なら「こいのぼり」「背(せい)くらべ」「からたちの花」などでしょうか▼今年は「童謡誕生100年」と言われます。1918年、大正デモクラシーを背景に児童文学者の鈴木三重吉が児童雑誌『赤い鳥』を創刊し、そこから今も歌い継がれる多くの童謡が生まれたからです▼そもそも童謡は、明治政府の文部省唱歌への批判から作られたものでした。国家に資する国民を育てるための教材だった唱歌には、しばしば天皇崇拝や国粋主義的な歌詞が見受けられます▼鈴木は創刊に際し〈世間の小さな人たちのために、芸術として真価ある純麗な童話と童謡を創作する最初の運動を起こしたい〉〈現在の子供が歌っている唱歌なぞも(略)実に低級な愚かなものばかりです〉と記し、同誌に「ゆりかごのうた」「この道」「あめふり」など多くの童謡を寄せた詩人の北原白秋も〈自然の中にありの儘(まま)に放たれた児童そのものの真純な生活、それさながらの香気と生彩とを私は私の童謡に希(こいねが)つてゐる〉と書きました▼唱歌批判から始まった童謡はしかし、後に植民地政策の道具ともなりました。在日の詩人・金時鐘(キム シジョン)さんは「私にとって植民地朝鮮は、いとも優しい日本の歌としてやってきた」と語っています。「夕焼け小焼け」を歌いながら天皇の赤子(せきし)になることを夢見ていた、と▼批評を持たない叙情が人々を支配していく怖さ。「童謡100年」の年、甘美な郷愁と追憶のみで歴史を塗り替えてはならないことを心したい。


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