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2016年7月14日(木)

南シナ海問題 仲裁裁判決が示すもの

紛争の平和的解決へ 外交努力促す

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 南シナ海問題で初の国際司法判断となった12日の仲裁裁判の裁定(判決)は、南シナ海の水域に対する中国の独自の権利主張について国際法上の「根拠がない」ことを明らかにするとともに、沿岸諸国が海域に公正な権利を持つことを基礎に、南シナ海の紛争を平和的に解決するよう求めるものとなりました。(井上 歩)


中国の「歴史的権利」に根拠なし

南沙諸島は「岩」―各国の主張にも影響

 中国は2009年5月、国連事務総長あての外交文書でU字形の「九段線」の地図を示し、南シナ海のほぼ全体に「主権的権利と管轄権」があると主張しました。国連海洋法条約で制度化した排他的経済水域(EEZ)と相いれないこの立場について、中国は同条約を適用されない「歴史的権利」があるとして正当化していました。

 この主張について仲裁法廷は、“国際法でどのように水域への権利が生まれるか”を検討。重視したのは、EEZ制度の成り立ちです。

 国際社会の交渉過程では、A国の伝統的な漁業の権利をB国のEEZ内でも保障するかという問題が検討されましたが、結局採用されなかったことを指摘。EEZ制度の成立で「中国の資源に対する歴史的権利の主張は消失した」と判断しました。

歴史事実も検討

 法廷は歴史の事実も検討し、中国と他の沿岸国が南シナ海で歴史的に漁業や採取を行っていても、それは独占的に管理・支配していたこととは異なり、排他的な権利や歴史的権利を生まないと指摘。「九段線」の主張は、国際法上「根拠がない」と結論づけました。

 法廷は第二に、紛争のもととなっている南シナ海の南沙諸島は、満潮時に海上に出ている地形でも、法的にはすべてEEZなどの権利を生まない「岩」だと判断しました。

 法廷は、南沙諸島の地形はいずれも「自然条件において、外部からの補充に頼らず、集団の安定的な居住や経済活動を維持できる客観能力がない」と踏み込んで判断し、海洋法上は「人間の持続的な居住や経済生活ができない」岩であると結論づけました。

 このように判決は、国際法上無理が大きかった中国の「九段線」の主張などに対して、海洋法条約や国際法の判断を毅然(きぜん)と示しましたが、重点を置いたのは、どちらかの国に軍配を上げることではなく、南シナ海の紛争の平和的解決を促すことでした。

 判決は、「紛争の根源は、どちらかの国に一方の合法的権利を侵害する意図があることにではなく、海洋法条約のもとでの権利についての理解の違いにある」と指摘。中国の立場自体を非難することは避け、“理解を正す”余地を残しました。

海上の緊張続く

 裁判が南沙諸島を岩と判断したことは中国だけを不利にしたわけではありません。フィリピン、ベトナム、マレーシア、ブルネイも、領有主張や実効支配をする南沙“諸島”に基づいたEEZは主張できなくなりました。

 南シナ海の情勢は悪化を続けています。判決は、中国によるフィリピンの漁業や石油探査の妨害、他国のEEZ内での人工島の建設などが紛争を悪化させたと指摘。他の沿岸国も同様のトラブルに遭っており、緊張が高まっていました。

 そもそも「九段線」は、他の沿岸諸国にとっては国際法の根拠のない主張で自国の権利水域を否定されることにほかならず、対立の種となっていました。

法的基盤を提供

 今回の国際司法判断は、南シナ海の紛争の平和的解決に向けて、各国に公正な法的基盤を提供し、前進の機会をつくろうとするものです。紛争エリアは狭まり、対立点も減少します。関係諸国は、平和的解決に向けた外交努力を促されたことになります。

 中国は、「問題の本質は(南沙諸島などをめぐる)主権紛争」などと述べ、裁判の管轄権を否定しています。しかし、今回の仲裁が取り扱ったのは明確に「海洋法条約に基づく権利水域」。昨年10月の管轄権裁定でも「中国の主権主張が正しいと仮定してもフィリピンの付託を取り扱うことは完全に可能」だと明言しています。

 にもかかわらず、中国が仲裁裁判に「茶番」などと激しい非難を浴びせつづけるのであれば、南シナ海の平和にとって重大な懸案が残ることになります。

 中国はじめ関係諸国が国際司法判断を尊重し、紛争の平和的解決に前向きな態度をとることが、地域の平和と安定を維持するうえでますます求められることになります。

写真

(写真)中国による埋め立てが進む南沙諸島の(左上から時計回りに)クアテロン礁、ジョンソン南礁、ヒューズ礁、ファイアリクロス礁=全て5月上旬撮影(フィリピン国軍関係者提供)


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