2014年3月16日(日)
「大阪都」構想の本質は
市を廃止、分割、従属化
立命館大学教授 森裕之さんに聞く
23日投票の「出直し大阪市長選」で橋下徹前市長が幻想を振りまいている「大阪都」構想の問題点について、立命館大学の森裕之教授に聞きました。
(藤原直)
「大阪都」構想とは、政令市である大阪市を廃止、分割し、内部団体化するものです。ただの分市ではありません。市の重要な権限や財源が「都」に吸い上げられ、再編後の特別区は従属団体とでもいうべき状況に陥ります。「維新の会」は、あたかも、特別区では住民サービスが充実するかのような宣伝をしています。しかし、現に彼らが進めているのは住民サービスの削減や民営化であり、脆弱(ぜいじゃく)な特別区になればその方向性は一層強まります。
予算めぐり深刻な争いも
「都」構想で市側の財源はどうなるのか。2011年度決算で試算したところ、市の普通税3税と地方交付税合計約5000億円が「都」の「財政調整財源」に吸い上げられることになります。そのうち24%(約1200億円)を「都」が奪い、76%(約3800億円)だけを特別区に戻します。また市の都市計画税・事業所税の一部(約400億円)も「都」に吸い上げられます。市から「都」に吸い上げられるのは約1600億円。市の教育費(約1200億円)を上回るほどの額です。
さらに制度開始後は、事務分担と財源配分をめぐって不安定な政治的争いが繰り返されることになります。そのとき、東京の特別区に比べても自治拡充の伝統や財源に乏しい大阪の特別区が「都」より立場が弱くなるのは目に見えています。また、大阪市はバラバラの特別区になって大きな財政力格差が生じます。この格差を埋めるための特別区間の財政調整では、各区の住民間で予算をめぐる深刻な争いが延々と繰り返されます。住民は大変不幸な事態に陥ります。
効果算出も構想と無関係
そもそも維新は「都」構想の財政効果について、府と市の「二重行政」を解消し年間4000億円の財源を生み出すとしていました。しかし、昨年の制度設計案では約900億円しか計上できませんでした。しかもその中身の大半は、大阪市での地下鉄民営化や市民サービスの削減など「都」構想の実現とはまったく関係のないものです。ほとんど詐欺といっても過言ではありません。
一方、設計案では初期コストに約280億円、ランニングコストに年間約60億円かかるとされています。
展望を開く民主主義の力
大都市は歴史的に形成された有機体であり、市民の故郷です。現在の大阪市民も、先人の努力や文化を受け継いで存在しています。自治体として日本初の公営地下鉄を通すなど、先人が脈々と発展させてきたものの積み重ねの上に現在の大阪市があるのです。市が一体だからこそ享受できる、福祉的なサービスも少なくありません。それを権力者が好き勝手に、人為的に分断することが許されるのでしょうか。
維新が一世を風靡(ふうび)したのは大阪の暮らし・経済・自治の衰退に付け込んだからです。
では、これを再生へと向かわせるにはどうすればいいのでしょうか。
「一人のリーダー」に委ねる「お任せ主義」ではなく、民主主義の力で展望を切り開くべきなのです。都市内分権のあり方も、上からではなく市民自身が地域にあった制度を考案していけばいいのです。また、大阪の産業の力によって、環境・福祉・防災を包摂した都市像の下での経済発展をはかるべきです。
私は「都」構想にはもはや実質的な目的はないと思います。あるのは、維新の存続という党略的な目的だけです。そんなものに振り回されてはいけません。