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2013年6月12日(水)

自衛艦あたご衝突事故 控訴を棄却 東京高裁

遺族 納得できない

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 千葉県房総半島沖で2008年2月、海上自衛隊のイージス艦「あたご」(舩渡健一艦長=当時)がマグロはえ縄漁船「清徳丸」に衝突、沈没させ漁師親子が死亡した事故で、あたごの当直士官(当時)、元水雷長の長岩友久3佐(39)、元航海長の後潟(うしろがた)桂太郎3佐(41)が業務上過失致死罪などに問われた控訴審判決が11日、東京高裁でありました。井上弘通裁判長は2人を無罪とした一審横浜地裁判決を支持し、検察側控訴を棄却しました。


写真

(写真)海自のイージス艦によって船体を真っ二つにされた清徳丸の損傷部分を鑑定する専門家ら=2008年2月、神奈川県横須賀市船越町の海上自衛隊自衛艦隊司令部

 高裁判決は、一審判決が両被告を無罪とした航跡図について細部ではつじつまがあわないと指摘しました。しかし、結論で「不合理とまでは言えない」と主張。検察側が主張した「被告人両名の過失を認定しなかった原判決には明らかな事実誤認がある」との起訴事実を退けました。

 海上衝突予防法が漁船の舷灯の光度を2カイリ以上としていることから相手船の視認最短距離を2カイリ先としています。井上裁判長は「そこで避航義務を課すことはできない」と衝突直前の航跡で判断したとしました。

 その上で清徳丸の直前の右転と増速で両船の見合い関係は成立せず、したがって被告の過失責任はないとした原判決を「その結論においては相当」と控訴棄却としました。

 判決を傍聴席の最前列で聞いた遺族の吉清美津男さん(62)らは「納得できない。こんな裁判は認められない」と悔しさをにじませました。

 海難事件に詳しい田川俊一弁護士は「裁判所は、目の前に大型船がきているのに清徳丸が右転と増速で突き進んだという被告の主張を容認した。この見識は、一審判決のままで、あまりにも海上技術の常識から外れている」と指摘しました。


 イージス艦衝突事故 2008年2月19日午前4時ごろ、千葉県房総半島沖で海上自衛隊イージス艦「あたご」が漁船「清徳丸」と衝突。清徳丸の船長吉清治夫さん=当時(58)=と長男哲大(てつひろ)さん=同(23)=が行方不明となり、死亡認定されました。横浜地方海難審判庁(当時)は09年1月の採決(決定)で、衝突の主因があたご側にあるとして再発防止を勧告。防衛省は同5月、当直士官の判断、指示や艦内の連携に問題があったとする最終報告書を公表しました。被告2人は停職処分、起訴休職となりましたが、一審無罪判決後に復職しています。

解説

衝突予防原則 棚上げ

 東京高裁判決は、横浜地裁での一審判決と同様、「衝突のおそれを未然に防ぐ」という海上衝突予防法の原則が棚上げされました。

 控訴審は11回の公判での審理、千葉県勝浦市の漁港での現場確認を行うなど、控訴審では異例の実質審理を行いました。しかし判決では、原判決が認定した清徳丸の航跡図に沿った判断の域を出ませんでした。原判決についていろいろ疑問がある、としながら結局は「不合理とまでは言えない」としました。

 最後まで争われた、あたごの避航義務も、海上衝突予防法が強調する「衝突のおそれを防ぐ」という安全最優先からの解釈ではありませんでした。

 海難事故の専門家は「予防法は衝突のおそれを防ぐことに力点をおいている。裁判所はこれを軽視している」と指摘します。

 あたごの2本のマストの間隔が通常よりも狭いことから、清徳丸が行き会い関係(相手船と正面から向き合う)と勘違いしたのでは、との裁判長の説明に異論が出されています。海事専門家は「行き会い関係ならばあたごの緑と赤の両舷灯が見えるはず。漁船がそれを見逃すことはない」と反論します。

 一方、速度、方位の保持を義務づけられている保持船である清徳丸はあたごが明らかに避航船でやがて回避する、と様子を見ていたものの、ついにあたごは回避せず、あわてて回避動作をしたのでは、と見ます。横浜海難審判庁の採決はそのことを示唆しています。(山本眞直)


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