2013年3月1日(金)
きょうの潮流
はや3月。だんだんと草木が芽吹く季節です。春が近づくにつれ、色とりどりの花も開きます。開花はまだですが、ボタンにまつわる逸話を安倍首相が施政方針演説で口にしました▼江戸時代の学者、貝原益軒(かいばらえきけん)はボタンの花を大切に育てていた。ある日、それを留守番の若者が折ってしまった。怒られると心配する若者に、益軒は「自分がボタンを植えたのは、楽しむためで、怒るためではない」と許したというお話▼寛大な心を教えるための逸話は、戦前まで尋常小学校の科目だった「修身(しゅうしん)」の教科書にのっています。道徳教育が好きで、それを上から押しつけようとする安倍首相ならではの引用でしょうか▼しかし、この政権がやろうとしていることをみれば、とうてい「寛容の心」などもてません。施政方針でも原発の再稼働を明言。TPPの交渉参加、普天間基地の辺野古「移設」や集団的自衛権の行使にふみこみ、さらに憲法改正の意欲まで鮮明にしたのですから▼ふたたび日本を破滅へと導く政治。いくら希望を連呼し、強い日本や世界一をさけんでも、この国の未来が閉ざされてしまえば元も子もないでしょう。国民が求めているのは「今、そこにある生活」の充実であり、世界の人々と仲良くしたいという平和への思いです▼「養生訓(ようじょうくん)」にあるように、益軒は、人としての生き方や人生の楽しみ方を説きました。健康に留意して、花をめでる心を大切にすごす―。首相が学ぶべきは、人間の当たり前の生活を大事にする姿勢でしょう。