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私と資本論

マルクスを広く市民の教養に

神戸女学院大学教授
石川康宏さん

写真:石川康宏

 ぼくが初めて手にした『資本論』は大月書店から出ていた5冊セットの普及版でした。1975年の春、立命館大学の生協書籍部で購入したものです。

 資本主義の誕生からより進んだ新しい社会に席を譲っていくまでの必然性―社会自体が内部にもっている発展の法則―マルクスが生涯をかけて、その究明に挑んだこの本は、21世紀の現代でも日本と世界の動きをとらえる最良の文献の一つとなっています。

 西暦1999年にイギリスのBBC放送が、過去1千年間で「最も偉大な思想家」を広く問うた時、回答の第1位は圧倒的にマルクスでした。日本には「マルクスは死んだ」「自由競争万歳」といった浅薄な議論があふれていた時期ですが、ヨーロッパの視聴者ははるかに広く深い知性を示したのでした。

 マルクスは現代が「資本主義」の社会であること、資本は野放しにしておくと金もうけ第一の弊害をもたらすこと、弊害の是正には労働者・市民による資本の制御が不可欠なこと、それだけでなく人間社会は資本主義で終わることなく、さらに各人の自由な発展を目的とするより人間的な社会へ前進するだろうことなどを明らかにしました。

 そのマルクスを高く評価する西欧・北欧の社会は、国連の幸福度ランキングでも、世界経済フォーラムのジェンダー・ギャップ指数でも、IMF(国際通貨基金)の1人当たりGDP(国内総生産)でも、日本よりずっと「進んだ資本主義・人間社会」となっています。

 ぼくが『若者よ、マルクスを読もう』や『マルクスのかじり方』などの本を書いてきたのは、マルクスを社会科学の一般教養として読む知的な市民社会を日本に育みたいと思ってのことです。

 マルクスが亡くなった後、第2部・第3部をエンゲルスが編集した『資本論』に、マルクスの本意をより正確に読み取るための工夫をほどこした新版『資本論』が、新日本出版社から発行され始めています。老いも若きも、これを機会に、ぜひ人類の最先端の教養に挑んでほしいと思います。

「しんぶん赤旗」2020年1月31日


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