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「しんぶん赤旗」日曜版 2012年4月29日・5月6日合併号より

日曜ワイド

再生どころか破壊!
「大阪維新の会」が狙う橋下「改革」の危険

国政の青写真は“弱者切り捨て”


 橋下徹大阪市長(前府知事)が率いる「大阪維新の会」。国政進出をねらっていますが、どんな国づくりをしようとしているのか。「維新の会」が示す「維新八策」(原案)と、府と市政の「実績」から見えてくるものとは―。 (豊田栄光記者)

弱肉強食国づくり/「格差拡大ノー」を敵視

「維新八策」

 「グレートリセット」―。「維新の会」が好む言葉です。「壮大なやり直し」といった意味で、次期総選挙に向け開講した「維新政治塾」のレジュメ(「維新八策」原案=3月10日)と、大阪市が進める「施策・事業の見直し(試案)」(4月5日)の表題で共通して使われています。

 問題は「リセット」する方向です。その方向性は、橋下氏の言葉に端的に表れています。

 「『弱者切り捨てはだめ、格差拡大もだめ、競争もだめ』―こんな甘い言葉は本当に危険だ。国家が成り立たない」(3月24日、「維新政治塾」開講式あいさつ)

 橋下氏の思想の根底には、格差拡大を是とする「競争主義」と「新自由主義」と呼ばれる弱肉強食の考え方があります。これを土台に国政進出後の〝青写真〟を描いた「維新八策」は、危険な内容のオンパレードです。

社会保障
 負担能力のない弱者は切り捨てる「受益と負担の明確化」を打ち出し、国民皆保険制度を破壊する「医療保険の一元化・混合診療解禁による市場原理メカニズムの導入」も明記しています。

経済政策
 「産業の淘汰(とうた)を真正面から受け止める」「衰退産業から成長産業への人材移動」を表明。農業は項目すらなく、逆に日本農業に壊滅的打撃を与える環太平洋連携協定(TPP)や「自由貿易圏の拡大」は推進の立場です。

雇用政策
 非正規労働者の数をさらに増やす「労働市場の流動化、自由化」を押し出しています。

税制
 大金持ちへのさらなる所得減税となる「超簡素な税制=フラットタックス」と「消費税は地方税」を提起。橋下氏は「消費税は上げる方向しかない」(1月4日、記者会見)と語っています。

敬老パス有料化、黒字地下鉄は売却へ

市政・府政で

 こうした理念にもとづき、いま大阪市では「施策・事業の見直し(試案)」で、住民施策の切り捨てが始まっています。「民間にできることは民間に」「団体運営補助は原則廃止」などを基本に、443事業を見直し、3年間で合計548億円を削る計画です。(別項参照)

 昨年の市長選では「敬老パス制度を維持」と約束していたのに、有料化を提案。保育条例を改悪し、0歳・1歳児の1人当たりの保育面積を5平方㍍以上から1・65平方㍍に狭めました。

 中学、高校での演奏指導などで市民に親しまれている音楽団(吹奏楽)の民間移管も打ち出しました。音楽団を持つのは自治体では大阪市だけ。

 橋下氏は「収益優先。高い入場料金を取って質を高めればよい」(4月17日、担当部局との会議)と言い放ちました。

 年間200億円を超す黒字の市営地下鉄は民営化。〝もうかる事業は民間へ〟という発想です。4月からは私鉄副社長が交通局長に。市民の優良資産を民間に売り飛ばそうという算段です。

 府知事時代には、「大阪府は破産会社」と宣伝し、障害者団体や福祉作業所などの補助金をカット。中小企業振興費も削減し、交響楽団への補助金は廃止しました。

 その一方で橋下氏は、湾岸部の大規模開発がしたい関西財界の要求を受け、同エリアにある超高層ビルWTC(ワールド・トレード・センター)を府庁舎にするとして購入を強行しました。

 2010年度には購入費用だけで約85億円、改修・引っ越し費用などと合わせて94億3900万円を支出しました。

 しかし、WTCはもともと耐震問題が指摘されており、東日本大震災では震度3で天井や壁が多数崩落し、エレベーター4基も損傷しました。修繕費だけで約1億円、追加耐震補強にも約10億円かかり、WTCへの全面移転は中断されました。巨額のむだを出しても、橋下氏に反省はありません。

 住民サービスは切り捨て、民間大資本には大サービス。これが橋下「改革」の実態です。

主な施策・事業の見直し

  • 国民健康保険料の軽減措置見直し
  • 上下水道料金の福祉減免廃止
  • がん検診など検診推進事業の見直し、廃止
  • 敬老パス有料化
  • コミュニティ系バス運営費補助の削減
  • 新婚家賃補助の募集停止、廃止へ
  • 保育料軽減措置見直し
  • 民間保育所職員の給与改善費の廃止
  • 学童保育補助金の廃止

憲法9条改悪/「日米同盟が基軸」が信条

 「維新八策」は、憲法9条や96条(改正)などの条文改憲を正面から掲げています。

 橋下氏は「憲法9条は、自分が嫌なことはしないという価値観だ。自己犠牲しないなら、僕は別の国に住もうかと思う」(2月24日、記者団に)とまで言っています。

 改正発議要件を、衆参各院の総議員の「3分の2以上」から「2分の1以上」の賛成に変え、改憲への敷居を低くすることをねらっています。

 安全保障で橋下氏は、「日米同盟が基軸」と繰り返しています。米軍普天間基地の沖縄県内移設を決めた「06年日米ロードマップ」については、米国への気遣いから「核心部分は引き継ぐ」(3月12日、記者団に)という姿勢です。

独裁・人権抑圧/職員に「市長の顔色うかがえ」

 「今の政治に必要なのは独裁」。橋下氏は知事だった昨年6月の政治資金パーティーのあいさつでこう言い放ち、一方で「大きな方向性、価値観を示し、それが支持されたのであればその範囲である種の白紙委任となる」(3月18日、橋下ツイッター)と言い切っています。〝当選すれば何でもできる〟といわんばかり。それが橋下氏のいう「決定できる民主主義」です。

 実際に、市長の業務命令で労働組合や政治活動に関する「職員アンケート」を実施。市職員以外の国民の氏名を記入するよう求める項目までありました。各界から「思想調査」との批判を受け、アンケートの回収データを破棄しましたが、橋下氏は謝罪を拒否しています。

 「維新の会」は大阪府・市議会でともに、「日の丸」掲揚、「君が代」斉唱を教員・職員に義務付ける条例を制定、憲法で保障された思想・信条の自由を侵しています。

 橋下氏は「君が代は気をつけして歌うこと」と強調し、歌う姿勢までチェックし始めています。

 「維新の会」は教育への政治介入に道を開く教育基本条例と、公務員を「全体の奉仕者」から〝首長の下僕〟にする職員基本条例を府議会で制定し、「維新八策」では、その全国化をめざしています。

 橋下氏は大阪市の新規採用職員発令式(4月2日)で、「あなたたちは国民に命令する立場になった」と訓示。さらに「市役所の組織で、市長の顔色をうかがわないで誰の顔色をうかがうのか」(4月13日、市議会財政総務委員会)と述べました。

 これこそ独裁、恐怖政治です。

(2012年4月29日・5月6日合併号)


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