しんぶん赤旗

お問い合わせ

日本共産党

赤旗電子版の購読はこちら 赤旗電子版の購読はこちら
このエントリーをはてなブックマークに追加

2019年7月31日(水)

強権と行き詰まり安倍改憲

萩生田氏の議長交代発言 広がる批判

撤回も謝罪もせず

 自民党の萩生田光一幹事長代行が、衆参の憲法審査会で改憲案策定の論議を促進する狙いから衆院議長の交代論に言及(26日、インターネット番組)した問題―。野党側からは厳しい批判、与党内からも異論が出るなど、参院選後の安倍改憲路線が早くも行き詰まりをみせています。(中祖寅一)


議長人事に口を出す異常

 自民党の二階俊博幹事長は30日の会見で「立場を考えて慎重に」と、萩生田氏を注意したことを明らかにしました。萩生田氏からは、「言葉足らずで誤解を与えたようだ。ジャーナリストの発言を受けて議長の役割の重さについて解説した」などと“釈明”があったとしました。また萩生田氏は同日、同党の副幹事長会議で「メディアにうまく切り取られた」などとし、「大島氏にも説明して理解してもらった」と会議参加者に話したとされます。

 しかし、「言葉足らず」「メディアに切り取られた」などという弁明は成り立つのでしょうか。

 萩生田氏の発言は、「大島議長も立派な方ですが、どちらかというと調整型」「気を使いながら、審査(改憲論議)はやってもらうように促すのも議長の仕事だった」「今のメンバーではなかなか動かないとすれば、有力な方を議長において憲法改正シフトを国会が行っていくのが極めて大事」などというもの。“憲法審査会論議の促進へ改憲シフトを強めるべく議長を交代するべきだ”と言っていることは明らかで、「言葉足らず」といって釈明する余地はありません。重大なのは撤回も謝罪もしていないことです。

 萩生田氏は、安倍晋三首相の側近の一人で、日本会議国会議員懇談会の中枢メンバー。インターネット番組での対談相手は、日本会議のフロント組織「美しい日本の憲法をつくる国民の会」の共同代表を務める桜井よしこ氏など改憲派の人物です。「萩生田氏の発言は安倍首相周辺の気分を表したものであることは間違いない」(メディア関係者)のです。

 日本共産党の小池晃書記局長は29日の記者会見で「自民党の改憲策動というのは、自分たちが立てた議長が邪魔になるくらい行き詰まっているということだ。いよいよ改憲そのものが行き詰まっている」と指摘。「そもそも首相側近が議長人事に口を出すこと自体が、議会制民主主義の根本、三権分立の根本的な理念を踏みにじるものだ」とし、「言語道断」と批判しました。

 国会関係者の一人も「議長の交代は、衆院解散・総選挙後に行われるのが慣例で、いわば任期中にある議長を改憲のために交代させるという大義はない」と指摘します。

 29日には、自民党の高市早苗衆院議院運営委員長が「個人的に賛同できるものではない」と異論を表明し、公明党の石田祝稔政調会長は「そこまで言ったら、議長が各委員会全部に指示するという話になるが、そんなことはあり得ない。意図も含めて首をかしげる」と疑問を呈しました。さらに30日には、自民党の石破茂元幹事長が東京都内での講演で「一党の幹事長代行が衆院議長の人事に口を出すのは恐ろしいことだ」と述べるなど与党内からも批判が相次ぎました。

 自民党の憲法改正推進本部関係者は、「これでは野党側が対応を固くして動かない」と懸念します。

「上からの改憲」押し付け

写真

(写真)「9条いいね」「安倍はやめろ」とコールする若者憲法集会の参加者=6月9日、東京都港区

 安倍首相は、改憲勢力が3分の2を占める状況のもと、2017年5月3日に9条への自衛隊明記を提案。しかし、安倍改憲に反対する多数世論を背景に野党が結束して対応する中で、審査会を全く動かすことはできませんでした。

 業を煮やした安倍首相は、昨年秋、党や衆参の憲法審査会の要職に安倍側近の改憲強硬派を配置する「改憲シフト」を敷きました。自民党の憲法改正推進本部長に就任した下村博文元文科相は、抵抗する野党に対し「野党は職場放棄」と暴言を浴びせました。しかし、世論の厳しい批判と野党の抗議を受け、発言の撤回、謝罪に追い込まれました。

 驚くべきことに、安倍首相は参院選挙中の16日、野党は憲法審査会で「審議拒否している」とし、「議論をするために給料をもらっているのに職場放棄している」(新潟県内)と、下村氏と同じ暴言を繰り返しています。首相として最低限の判断すらできない状況を示します。

 首相は、選挙で改憲を前面に掲げることで、選挙後の議論の強行にお墨付きを得ようとしましたが、改憲勢力3分の2を割り込み、自民党は9議席減で単独過半数を失いました。得票も大きく減らし、絶対得票率は16・7%で第2次安倍政権発足以降最低です。

 選挙に示された民意は「性急な改憲を進めることには賛成でない」というものであることは明白です。選挙後の世論調査でも「安倍政権のもとでの改憲」に対して「反対」が増加し56%(共同通信)となっています。「民意の取り付け」には結局、失敗しているのです。

 それにもかかわらず首相は選挙結果について、「国民から力強い信任を得た」「少なくとも『議論は行うべきである』。これが国民の審判」などと強弁し、強硬姿勢を示してきました。

 萩生田氏の今回の発言は、こうした安倍首相の強硬姿勢と焦りをあらわにしたものです。

 首相は、改憲勢力3分の2を失ったことをめぐり「(与野党の)枠にとらわれることなく、幅広い議論をしていきたい。第1党として呼びかけていく。“3分の2”の形成に向けて努力を重ねていく」とし、野党勢力の取り込みを図る姿勢を示しています。

 しかし、萩生田氏の「議長交代」論を含め、これらの動きはすべて、権力者が強権と懐柔で「上からの改憲」を国民に押し付けようとするものです。

 安倍9条改憲反対の世論との矛盾は大きくなるばかりです。


pageup