しんぶん赤旗

お問い合わせ

日本共産党

赤旗電子版の購読はこちら 赤旗電子版の購読はこちら
このエントリーをはてなブックマークに追加

2019年7月10日(水)

丸木舟、与那国島に到着

台湾出航45時間後、黒潮横切る

3万年前の航海再現

写真

(写真)与那国島に到着した丸木舟チーム=9日正午ごろ(国立科学博物館提供)

 国立科学博物館「3万年前の航海 徹底再現プロジェクト」は9日、日本列島人の祖先が大陸から来た航海の再現をめざして台湾を出航した丸木舟チームが、出航から約45時間後の同日午前11時48分に沖縄県・与那国島のナーマ浜に到着したと発表しました。

 丸木舟チームは7日午後2時38分(日本時間)に台湾東海岸を出航。直線距離206キロメートルの与那国島まで、最大で幅100キロメートル、秒速1~2メートルの世界最大規模の海流(黒潮)を横切り到達しました。

 実験航海は、当時の技術(石斧=せきふ)で製作した丸木舟に食料や飲料水を積み、地図やコンパス、時計はもたず、男性4人と女性1人が交代なしで、困難な航海を成し遂げました。実験航海の資金は、市民や企業から募った寄付を活用しました。


解説

遺跡に残らない“失われた人類史”

冒険で復元 人類学新たな一歩

図

 大陸にいた旧石器時代人は、丸木舟をつくって黒潮を乗り越え琉球列島に渡ることが本当にできたのか、どんな困難がありどうやって克服したのか―。今回の実験航海は、冒険の再現によって科学的な仮説の成立性を検証するという、人類学の新しい挑戦です。

 20万~30万年前にアフリカで誕生した現生人類(ホモ・サピエンス)は、4~5万年前ごろにはアジア各地に広がりました。日本列島へは3万8000年前(旧石器時代)ごろから渡来し急拡大したと考えられています。

 大陸から日本列島への移入ルートは三つ。(1)朝鮮半島から対馬を経て九州に至る「対馬ルート」(2)当時は大陸とつながっていた台湾から、琉球列島の島づたいに北上する「沖縄ルート」(3)サハリンを通って陸続きだった北海道に南下する「北海道ルート」―です。

 「3万年前の航海プロジェクト」は、難易度の高い沖縄ルートの航海の再現に挑みました。台湾から与那国島への航海の最大の難関は黒潮。また島影は、台湾の山からは見えても、海に浮かぶ舟からは近くに寄らないと見えません。太陽や星、風が手がかりです。

 この難関を乗り越えた祖先の航海を再現するプロジェクトは、海部陽介代表が6年前に構想。人類学のほか、考古学や海洋民族学、地球科学など多角的な検討で航海モデルを仮定し、探検家や職人たちの協力も得て試行錯誤で進めてきました。

 当時の舟は遺跡に残っていないため、縄文時代にあった丸木舟を超えない技術で黒潮を乗り越えられるかを検証しました。2016年から、草の舟や竹の舟でテスト航海を行った結果、速度と耐久性に難点があると判明。浮力と耐久性に優れ速度が出る丸木舟を採用し、転覆しやすい欠点を補う対策を施し最後の挑戦に臨みました。

 ようやく成功した再現実験。地図もコンパスも天気予報もない3万年前の人類の偉業に改めて思いをはせるとともに、遺跡に残らない“失われた人類史”を復元する、人類学の新たな一歩となりました。(中村秀生)


pageup