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2018年10月28日(日)

シリーズ検証 日米地位協定

ヘリ落ちようが 犯罪起こそうが…

世界に例ない米軍特権

 日本の全土に基地を置き、危険な飛行を繰り返し、犯罪や交通事故でも簡単に逮捕されない―。そうした米軍の特権を定めた日米地位協定について、米軍専用基地の7割が集中する沖縄県に加え、今年7月に全国知事会が提言をまとめるなど、改定を求める声が高まっています。世界でも例のない米軍特権を定めた日米地位協定を検証します。


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(写真)米軍CH53E大型輸送ヘリが不時着・炎上した民間牧草地付近に張られた規制線と警備する機動隊=2017年10月12日、沖縄県東村高江

改定求める声高まる

 沖縄・普天間基地と東京・横田基地に配備されている米軍機オスプレイは航空法で義務付けられている自動回転(オートローテーション)機能を有しておらず、本来なら国内で飛行できません。しかし、同機は日本全土を自由勝手に飛んでいます。

 昨年10月、沖縄県東村の民有牧草地に米軍CH53Eヘリが墜落しました。沖縄県警は現場に規制線を張り、立ち入り禁止に。土地の所有者すら立ち入ることができず、米軍は墜落地点の土壌を勝手に持ち去りました。

 さらに昨年末、同県宜野湾市の普天間第二小学校に米軍ヘリの窓が落下。警察は証拠物品である窓を差し押さえず、米軍に返却。事故検証のために自衛官が基地内に入ると合意したものの、いまだに実現していません。

 こうした日本の主権侵害の背景には、日米地位協定があります。

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(写真)オスプレイが墜落した現場付近に張られた規制線=2016年12月16日、沖縄県名護市安部

数々の特権列挙

 日米地位協定は1960年1月に改定された日米安保条約の第6条(基地の供与)に基づくもので、全28条からなります(表)。その内容は次の三つに大別されます。

 (1)基地の提供 米軍は日本全土に基地を置くことができ、「移動」のため日本中の陸海路、空域を使用できる。基地返還の際、原状復帰の費用は日本が負担。さらに日本側は地代など基地の費用負担を分担する。

 (2)基地の管理 米軍は提供された基地を排他的に管理し、火災や環境汚染などが発生しても日本側当局者は許可なしに立ち入れない。米軍は基地内に自由に施設を建設でき、どのような部隊も配備できる。無通告での訓練も可能。

 (3)米軍・軍属の特権的地位 国内で米兵や軍属が犯罪や事故を起こしても、「公務中」であれば米側が第1次裁判権を有する。被害者への補償は「公務外」の場合、示談。多くは泣き寝入り。また、納税や高速道路の利用料免除、旅券なしで出入国可能など、多くの特権が。

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処罰もされずに

 日米地位協定に基づく膨大な国内法も整備されています。たとえば、航空機が飛行中に物を落としたら航空法に基づいて処罰されますが、米軍機は航空法特例法により、普天間第二小のような部品の落下事故でも罰せられません。オートローテーション機能がないオスプレイが国内を飛べるのも、同法があるからです。

 また、事故現場の立ち入り規制は、地位協定合意議事録で、米軍の「財産権」が保障されていることを根拠にしています。

 さらに、地位協定は膨大な密約と一体で運用されています。たとえば、「公務外」の事件・事故の場合は日本側が第1次裁判権を有しますが、その場合でも日本側が裁判権を行使しないとの密約が存在しています。

日本は今も植民地状態 欧州・韓国 主権に関わると改定

根源は占領特権

 日米地位協定の前身は52年4月に発効した日米行政協定です。同協定は、占領軍として駐留した米軍が日本の独立後も基地を維持することを柱とした旧安保条約に基づき、米側の全面的な裁判権行使や無制限の基地管理権などを定めています。

 いわば米軍の占領特権をそのまま継続するものです。国民の批判をおそれた日本政府は52年2月まで公表せず、国会審議も行われませんでした。

 その行政協定の内容はほぼ、日米地位協定に引き継がれています。地位協定は今日まで一度も改定されていません。ちなみに、米軍機の低空飛行や危険飛行、欠陥機オスプレイの飛行などを「合法化」している航空法特例法も52年9月の公布以降、一度も改定されていません。

 日本の空は今も植民地状態なのです。

沖縄の基地協定

 さらに、沖縄には日米地位協定を上回る米軍の特権を定めた取り決めが存在します。72年5月15日の本土復帰に際して日米両政府が作成したもので「5・15メモ」と呼ばれています。全面占領下での基地の自由使用を保証したもので、深夜・早朝の飛行訓練などの根拠になっているとみられます。しかも97年3月まで非公表となっていました。

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低空飛行なくす

 一方、同じ敗戦国でも、ドイツやイタリアの歩みは全く異なっています。ドイツでは、北大西洋条約機構(NATO)地位協定の補足協定(ボン協定)が4度も改定。とくに93年には大幅に改定されました。背景には主権や国民の権利保護を求める国民世論がありました。

 沖縄県が今年3月に公表した現地調査報告書によれば、両国の地位協定と日米地位協定を比較し、(1)国内法の適用が明記されている(2)基地の管理権や緊急時の立ち入り権を有している(3)訓練の実施に関与する―などの違いを指摘しています。(別項)

 93年の大幅改定の結果、ドイツでは米軍機の低空飛行が減少し、現在ではほぼ行われていません。(表)

 イタリアでも、1998年2月に発生した米軍機によるロープウエー切断事故(死者20人)を契機に、米軍の低空飛行の高度制限や時間制限を強化。県の面談に応じたディーニ元首相は「米国の言うことを聞いているお友だちは日本だけだ」と苦言を呈しました。

 また、米韓地位協定は朝鮮戦争休戦中の「戦時」に締結されたことから、日米地位協定以上に主権侵害の度合いが強いものでした。しかし、同協定もこれまで数回にわたって改定されており、基地内の建設は韓国との事前協議を必要とするなど、日本より進んでいる内容も盛り込まれています。

 これらの改定はいずれも、米国との同盟関係の是非ではなく、主権にかかわる問題として提起されています。

   ◆

 このシリーズでは次回から、条文ごとに日米地位協定の問題点を指摘していきます。

日米地位協定に定められた米軍の特権

2条 日本全土で基地の使用が認められる。自衛隊基地の使用も

3条 提供された基地の排他的管理権を有し、自由に出入りできる

4条 基地の返還の際、米側は原状回復・補償の義務を負わない

5条 民間空港・港湾、高速道路に出入りできる。利用料は免除

6条 航空管制の優先権を与える

7条 日本政府の公共事業、役務を優先的に利用できる

8条 日本の気象情報を提供する

9条 旅券なしで出入国できる

10条 日本の運転免許証なしで運転できる

11条 関税・税関検査を免除

12条 物品税、通行税、揮発油税、電気ガス税を免除

    日本が基地従業員の調達を肩代わり

13条 租税・公課を免除

14条 身分証明を有する指定契約者は免税などの特権を得る

17条 「公務中」の事件・事故で第1次裁判権を有する

18条 被害者の補償は「公務中」で75%支払、「公務外」は示談

24条 基地の費用を分担。日本政府の拡大解釈で「思いやり予算」の根拠に

25条 日米合同委員会の設置

地位協定とは

 米国は第2次世界大戦以来、地球規模での軍事作戦を可能にするため、平時でも海外に兵力を常駐させる「前方展開戦略」をとっています。米国防総省によれば、現在517の海外基地を有し、165カ国に米兵が駐留しています。

 これに伴い、米兵などの要員を「保護」し、受け入れ国の法律に制約されずに軍事作戦に従事できるようにするための枠組み=地位協定(SOFA)がつくられました。米議会によれば、米国は100カ国以上と地位協定を交わしています。

■全国知事会の提言(7月27日)要旨

1 米軍機による低空飛行訓練等で国の責任で騒音測定などを実施。訓練ルートや訓練の時期について事前情報提供を行う

2 日米地位協定の抜本的な見直し―航空法や環境法令などの国内法の適用、事件・事故時の自治体職員の立ち入りの保障などを明記する

3 米軍人等による事件・事故に対する具体的・実効的な防止策の提示、継続的な取り組みを進める

4 施設ごとに必要性や使用状況等を点検、基地の整理・縮小・返還を促進する


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