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2018年4月16日(月)

2018焦点・論点

介護保険の「生活援助」

認知症の人と家族の会代表理事 鈴木森夫さん

完全に崩れた「利用制限」根拠 給付抑制狙う政府方針撤回を

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(写真)すずき・もりお1952年愛知県生まれ。愛知県立大学卒後、医療ソーシャルワーカー、ケアマネジャーとして働く。84年「呆け老人をかかえる家族の会」石川県支部結成に参画。金城大学非常勤講師。17年6月から現職。
撮影・山城屋龍一

 安倍政権は10月からホームヘルパーが高齢者を訪問し、調理や掃除をおこなう介護保険の「生活援助」を一定回数以上利用する場合、ケアマネジャーに市区町村への届け出を義務付けようとしています。利用制限を狙うもの。公益社団法人・認知症の人と家族の会(会員数約1万1000人)の鈴木森夫代表理事に話を聞きました。(聞き手 内藤真己子)

   ―厚生労働省は17日まで届け出基準回数案のパブリックコメントを募集し、今月下旬に告示する方針です。

 きわめて遺憾です。4日の厚労省社会保障審議会介護給付費分科会でも私たちの会から出ている委員が改めて撤回を主張しました。それは在宅介護の実態を無視した、根拠のない施策だからです。

 生活援助の利用制限の議論は財務省が昨年夏、“平均は月9回程度なのに月31回以上利用している人がいる”と無駄遣いであるかのように言い出したことが発端でした。これにたいして私たちは、認知症の人が在宅で暮らそうとすれば1日2、3回の利用は十分想定される、多数回の利用は認知症や独居の人を在宅サービスが支えていることを示す介護保険の理念に沿った好例だと反論してきました。

 そのことがはっきり裏付けられたのが昨年11月、厚労省が公表した生活援助を月90回以上利用している事例の自治体調査です。8割が認知症で、7割が独居でした。買い物に始まって3食の調理、配膳・下膳、服薬確認、掃除、洗濯など生活援助が在宅生活を支えていることがはっきりわかりました。ケアマネは適正なプランを立てており、自治体は96%の事例を「適切またはやむを得ないサービス利用」と判断していました。この時点で、利用制限を求める根拠は完全に崩れたのです。

 それにもかかわらず押し切ろうとしている背景には、何が何でも介護給付費を抑えようとする政府の狙いがあります。財政当局のいいなりになった実態に合わない介護保険の改悪が続いているのです。

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   ―平均利用回数にもとづく統計処理上の数字で届け出基準を決めようとしていますね。

 私は介護保険創設以来、ケアマネとして働いてきました。とくに認知症の人の場合、個別的な支援が大切で、サービスの必要性は同じ要介護度でも人によって違います。そのためケアマネがしっかりアセスメント(情報収集・評価)してケアプランを立てている。それを一律の数字で規制すること自体、介護保険の趣旨からかけ離れています。

 ケアマネが届け出たケアプランを医療・介護関係者らによる「地域ケア会議」にかけて「検証」するといいます。ヘルパーも利用者・家族もいないなかで判断するなど言語道断です。しかもプランの「是正」を求められた場合、ケアマネが利用者を説得する役割を担わされます。そんなことをしたらケアマネと利用者・家族との信頼関係は崩れてしまう。まじめにやろうとすればするほど苦しみます。「そんな大変なことになるなら」と、基準未満に自主規制することになりかねません。

   ―さらに財務省は11日、財政制度等審議会に、要介護1、2の生活援助まで保険から外し自治体事業に移行する方針を示しました。

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 政府はすでに、初期の認知症の人が含まれる要支援1、2の人の訪問介護と通所介護を保険給付から外し、自治体事業に移行させました。そこでは専門職ではない「住民の支え合い」によるサービスが推奨されています。

 しかし認知症の初期の人こそ専門職による支援が欠かせません。認知症は早期に診断を受け、治療を開始すると良い状態を長く維持することができます。それには地域で生活する条件を整える生活援助が欠かせないのです。病気の悪化を防ぎ、事故を防ぐ大きな意味があります。

 政府は生活援助の専門性が分かっていません。認知症の人は自分のことを十分に伝えられないので、ことばで表現できない訴えをヘルパーが生活ぶりやゴミの内容で観察して、どこが問題か、どう解決していくべきか考えていく。この力は非常に高度な専門性です。それには医療的な知識も必要だし生活歴も踏まえたアセスメントができなければなりません。

 政府は数年後には認知症の人が約700万人になると推計しており、今後、地域で暮らす認知症の人が増えます。ですから専門性のあるヘルパーを養成していかなければならないのに、今年度の介護報酬改定で生活援助の報酬単価を切り下げ、人員基準を緩和しました。今後を考えたとき“生活援助いじめ”は、日本の介護にとって禍根を残すといってもいいような象徴的なことじゃないかと思います。

 生活援助の利用制限は、介護保険からの生活援助外し、要介護1、2の軽度者外しの序章だと思います。私たちの会の資料をみると、軽度者外しを狙う政府の路線をなんとか押しとどめてきた歴史が分かります。だから利用制限の撤回をもとめていくことが、軽度者外しを許さないうえでも譲れません。関係団体に働きかけ、運動を広げたいと思っています。


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