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2018年4月15日(日)

北朝鮮問題 6カ国に要請文

志位委員長に聞く

 日曜版15日号に掲載された北朝鮮核・ミサイル問題にかんする志位和夫委員長へのインタビューを紹介します。


写真

(写真)志位和夫委員長

 対話による平和的解決の方向に動きつつある北朝鮮の核・ミサイル問題。日本共産党の志位和夫委員長は「朝鮮半島の非核化と北東アジア地域の平和体制の構築を一体的、段階的に進める」ことを6カ国協議の関係国(アメリカ、韓国、中国、北朝鮮、日本、ロシア)に求める要請文を発表(6日)しました。要請文は関係各国の大使館などを通じて伝達。9日には安倍晋三首相と党首会談を行い、その内容を提起。安倍首相は「よく検討します」と応じました。要請文のポイントを志位委員長に聞きました。(聞き手・山本豊彦日曜版編集長)

なぜいま要請文を?

平和的解決へ歴史的チャンス

  ――なぜいま、こういう要請を行ったのでしょうか。

 志位 私たちは北朝鮮の核兵器・ミサイルの開発に断固反対する立場をとってきました。同時にこの解決のためには、経済制裁強化と一体に、対話による平和的解決をはかることが唯一の道だということを一貫して主張してきました。

 そういう立場から節々で声明や談話を発表し、関係各国に働きかけてきました。世界は、この間、その方向に劇的に動いてきました。

 4月27日には南北首脳会談が、その後、初の米朝首脳会談も行われる予定です。要請文をつくったのは「対話による平和的解決の歴史的チャンスをぜひ実らせてほしい」という強い思いからです。

 要請文を作成するにあたってとくに心がけたのは、米国や北朝鮮を含め6カ国のすべてにとって受け入れ可能な内容にすることでした。したがって特定の国の批判などはしていません。今後、対話と交渉を進めるにあたってとくに重視してほしい二つの点を提起しました。

「一体的に進める」とは?

非核化と地域の平和体制づくり

 ――どのような内容ですか。

 志位 第一は「朝鮮半島の非核化と北東アジア地域の平和体制の構築を一体的・包括的に進める」ことです。

 北朝鮮の核武装はもとより絶対に容認できません。「朝鮮半島の非核化」は今後の対話と交渉の最大の目標とすべきです。問題はどう実現するかです。要請文にはこう記しました。

 「非核化を進めるためには、朝鮮戦争の終結をはじめ戦争と敵対に終止符を打ち、地域の平和体制を構築し、北朝鮮を含む関係国の安全保障上の懸念を解決することが不可欠です」

 米朝間では朝鮮戦争(1950~53年)が国際法上、いまだに継続しています。休戦協定を結んでいますが戦争は終結していない。そのもとで北朝鮮は「核兵器がないと米国から攻撃される」といって核・ミサイル開発に突き進んできました。

 私たちはどんな理由であれ核兵器開発には絶対反対です。同時に、実際に非核化を進めようと思ったら、戦争状態に終止符を打ち、北朝鮮に「核兵器がなくても安全だ」と感じさせる環境をつくることがどうしても必要です。具体的には、南北、米朝、日朝の緊張緩和・関係改善・国交正常化を進めていく必要があります。

 “非核化のためには北朝鮮が膝を屈するまで圧力をかけ続けるべきだ”という議論があります。しかし軍事を含む圧力一辺倒で対応すれば、北朝鮮はますます核兵器を強く握りしめてしまうことになるでしょう。それは一触即発の危険な事態を招くでしょう。「非核化」を強く求めながら、それと一体で「地域の平和体制」をつくる。そのことによって初めて道は開けます。両方を一体的に同時並行で進めてこそ、両方を実らせることができます。

 そして、そのことは2005年9月19日の「6カ国協議に関する共同声明」で、すでにいったんは各国が合意していることなのです。

05年「共同声明」とは?

 ――「共同声明」とはどういう文書ですか。

 志位 6項目からなる「共同声明」は、この問題での国際社会の到達点が記された、画期的な意義を持つ文書です。

 第1項で、6カ国協議の目標を「平和的な方法による、朝鮮半島の検証可能な非核化」だとしています。その中心的内容は、北朝鮮の核放棄と核不拡散条約(NPT)への復帰ですが、それだけではありません。米国と韓国にも核兵器の配備を認めていません。米国は朝鮮半島に核を持ち込まないし、韓国も持ち込ませないとしています。文字通りの「朝鮮半島の非核化」が目標として明記されています。

 第2項では、国連憲章の目的や原則、規範を順守することを6カ国として約束しています。米朝は「相互の主権を尊重」し「平和的に共存」して「国交正常化のための措置をとる」ことを約束しています。日朝は、日朝平壌宣言(02年)に従って、核・ミサイル開発、拉致、過去の清算などの諸懸案を解決し、「国交正常化の措置をとる」ことを約束しています。

 こうして、「共同声明」では、第1項で「非核化」を、第2項で「平和体制の構築」を規定し、この両方を一体で進めることを合意しているのです。

 この「共同声明」をはじめとする一連の国際合意に立ち返って、それに即して解決してほしいと要請文では求めています。

拉致問題解決の道は?

 ――要請文は、拉致問題にも言及しています。

 志位 いま拉致問題についても解決に向けた大きなチャンスが生まれていると思います。要請文にはこう記しました。

 「拉致問題は国際的な人道問題であり、その早期解決は日本国民の強い願いです。この問題を、05年の共同声明、日朝平壌宣言にもとづいて、核・ミサイル、拉致、過去の清算、国交正常化などの諸懸案を解決する包括的な取り組みのなかに位置づけ、解決をはかることを求めます」

 いま起こっているのは、朝鮮半島の非核化と地域の平和体制の構築を、対話と交渉で進めようという流れです。拉致問題をこの流れのなかに位置づける。この流れのなかで包括的に解決すべき諸懸案の一つに位置づける。それが解決の一番の王道になっていると思います。

「段階的に進める」とは?

相互不信を解消しつつ前進を

 ――「非核化」と「平和体制の構築」をどう実行するのでしょうか。

 志位 「非核化」と「平和体制の構築」は目標として合意されても、一足飛びに実現するのは困難でしょう。

 要請文で提起した第二の内容は「合意できる措置を話し合って、一つずつ段階的に実施して目標に近づいていく」――“段階的アプローチが現実的だ”ということです。

 なぜこのことを強調するか。互いに相手を信頼できない、強い相互不信があるからです。とくに戦争状態にある米朝の間にそれがきわめて強い。それを乗りこえていくためには、段階的措置を双方が誠実に実施することによって、相互不信を解消し、信頼醸成をはかりながら進む。これしかありません。

 05年の6カ国協議の「共同声明」でも、その第5項に、「六者は、『約束対約束、行動対行動の原則』に従い、……意見が一致した事項についてこれらを段階的に実施していく」と明記されています。これが一番現実的な方法です。

経済制裁をどうするか?

 ――経済制裁はどうすべきでしょうか。

 志位 要請文には、「行動対行動の原則」に従い、「北朝鮮が非核化の意思を表明し、それに向けた行動をとるまでは、国際社会が行っている北朝鮮に対する経済制裁は継続されるべき」だと記しました。

 ここでいう「国際社会」とは国連のことです。ここには“北朝鮮が非核化の意思を表明し、具体的な行動に踏み出せば、経済制裁を緩和していく道も開かれる”という意味も込めました。経済制裁についても「行動対行動」で対応するのが一番合理的だと考えています。

「行動」は始まっている

 ――「行動対行動」にてらして、いまの現状をどうみるべきでしょう。

 志位 第一歩ですが、「行動対行動」が始まっていると言ってもいいと思います。韓国の大統領特使・鄭義溶(チョン・ウィヨン)氏が北朝鮮に行って金正恩(キム・ジョンウン)委員長と会った。その際、北朝鮮の側から「非核化の意思がある」という表明がされた。同時に「核・ミサイルの実験は控える」との言明もあったとのことでした。これまでやっていたことを凍結する――これは一つの「行動」です。

 それに対し米韓の側は、今年の米韓合同軍事演習を縮小しました。例年では2カ月間にわたる演習が、今年は1カ月となった。原子力空母やB1戦略爆撃機なども、今回は演習に投入していません。海軍と海兵隊を動員した大規模な上陸訓練も中止しました。米韓の側も、合同軍事演習の縮小という「行動」で応じているのです。

 これは「行動対行動」の最初の第一歩です。「非核化」と「平和体制の構築」に向けて第二歩、第三歩と進めていけるかどうか。これが今後の課題になっていると思います。

過去の教訓を冷静に

約束を裏切ったのは?

 ――そうはいっても05年の「共同声明」は実行されていません。「北朝鮮はいつも約束を裏切る」という議論があります。

 志位 要請文にこう書きました。「05年の共同声明は、その具体化の過程で困難に直面し実を結んでいませんが、その原因は『行動対行動』の原則が守られなかったことにあることを指摘しなければなりません」

 「共同声明」に反する行動をとったのが、基本的には北朝鮮だったことは明らかです。核実験やミサイル発射実験を行った。困難を引き起こした基本的な原因は北朝鮮にあります。同時に、「共同声明」の直後に、米国が北朝鮮の銀行口座を凍結するなどの行動をとり、それが「共同声明」履行のプロセスに困難を持ち込んだことも事実です。その全体を冷静に検証しなくてはなりません。

 外務事務次官をつとめた藪中三十二氏は、当時をふりかえって、「米国が国内法にもとづき、北朝鮮の金融資産を凍結してしまった。これによって北朝鮮の態度が硬化し、06年10月の核実験につながった。こうした過去のとりくみから教訓を引き出していくべきだと思う」とのべています。(17年10月、立命館大・韓国外国語大共催国際シンポジウム)

 韓国大統領統一外交安保特別補佐官の文正仁(ムン・ジョンイン)氏もつぎのようにのべています。「05年の6者協議の共同声明で北朝鮮が核放棄を受け入れた時は、直後に米国が北朝鮮の銀行口座を凍結しました。基本的には北朝鮮の疑わしい行動が問題ですが、彼らからすると合意を破ったのは米国だということになる」(「朝日」、4月3日付)

 こうした事実を念頭に、要請文では、「関係国が、過去の教訓を踏まえつつ、この原則(『行動対行動』)にそって、粘り強く交渉を進め、目標を達成していくことを要請する」とのべました。実際、今後の過程にはさまざまな困難がともない、それを乗りこえる粘り強い努力が求められると思います。

「対話は時間かせぎ」では?

 ――いまだに「対話は時間かせぎ」という議論もあります。

 志位 米国の北朝鮮問題専門家で、94年の米朝「枠組み合意」の交渉に加わったレオン・シーガル氏が、最近の論文(「核外交の25年は何を達成したのか」)で、対北朝鮮外交の歴史を総括し、“北朝鮮の核・ミサイル開発が進んだのは、交渉を継続しなかったからだ”という分析をしています。

 それを一番典型的に示しているのが、オバマ政権後半の時期です。この時期、米国は、北朝鮮に対して「戦略的忍耐」という政策をとっていました。「北朝鮮が核兵器を放棄する意思と行動を示さない限り対話には応じない」という「対話否定」政策です。しかし「戦略的忍耐」を実施していた12年から16年は、北朝鮮の核・ミサイル開発が急速に進んだ時期になりました。「対話は核開発の時間かせぎ」ではなく、反対に、対話を否定したことが核開発を許す結果になったのです。これも歴史の教訓として銘記されるべきです。

要請への各国の反応は?

賛同の声と「心強い」の評価が

 ――要請への各国の反応はどうですか。

 志位 すでに要請文は、大使館などを通じ、6カ国の政府に届けました。二つの反応が返ってきています。

 一つは、「この要請の内容は基本的に賛同できる」という反応です。

 もう一つは、「日本に日本共産党のような立場をとる政党が存在し、正論を主張しているのは心強い」という評価です。

 首相「検討する」

 ―日本政府はどういう反応でしたか。

 志位 9日に安倍首相と会談を行い、要請文を直接手渡し、その内容を説明して、「日本政府としても、こういう方向で、開始されている『対話による平和的解決』のプロセスを成功させるために、対応してほしい」と求めました。

 安倍首相は「対話による外交的解決をはかることが基本です」「ここ(要請文)にあるように北朝鮮が具体的な行動をとるまで経済制裁は続けていく。拉致問題も包括的に解決していくことが大事だ」とのべました。要請文については、「よく検討します」と応えました。

 首相も要請文に対する異論はのべませんでした。今後の日本政府の行動を注視していきたいと思います。

実れば情勢は一変する

 ――平和的解決の流れが実ったらどうなるでしょう。

 志位 この地域の軍事的な緊張関係が一挙に解消の方向に向かい、情勢が一変するでしょう。北東アジアだけではなく、世界の平和と安定にとっても巨大な変化が起こるでしょう。

 私たちは、第26回党大会で「北東アジア平和協力構想」を提唱しました。ASEAN(東南アジア諸国連合)が取り組んでいるような地域の平和協力の枠組みを北東アジアにもつくろうという呼びかけです。これが現実の課題として日程に上ってくることになるでしょう。日本の情勢にあたえるプラスの影響もはかり知れません。前途にはさまざまな困難も予想されますが、こういう方向に事態が進むよう、あらゆる努力をかたむけたいと思っています。

共産党の一連の行動の土台には?

激動の世界での綱領の生命力

 ――共産党の一連の行動の土台にあるものをお話しください。

 志位 北朝鮮問題に対する私たちの対応の土台には、04年に改定した新しい党綱領があります。綱領では米国の政策と行動を分析して「帝国主義」という規定をしていますが、綱領の立場は、米国のやることなすことを「すべて悪だ」と頭から決めてかかるというものではありません。事実に即してリアルにみる。複眼でとらえる。これが綱領の立場なのです。

 21世紀の世界は、米国であっても、いつでもどこでも帝国主義的政策を実行できるという世界ではなくなっている。一方で軍事的覇権主義を続けながら、一方で外交交渉によって問題を解決しようという「二つの側面」があらわれてきています。外交交渉で問題を解決しようという動きが起こったときは、私たちはそこに注目し、それを促すという立場で働きかけてきました。

 たとえば、オバマ前大統領が09年にチェコのプラハで「核兵器のない世界」をめざすと演説しました。これは実践されませんでしたが、演説自体には前向きの要素が含まれていました。私は、それに注目し、オバマ大統領にあてて、演説を「心から歓迎する」とともに、「核兵器廃絶を主題にした国際交渉を始めてほしい」と強く促す書簡を送りました。先方からは「あなたの情熱をうれしく思う」という返書が届きました。

トランプ政権も複眼で

 ――トランプ政権も複眼で見てきたのですか。

 志位 そうです。トランプ政権であっても、私たちは頭から決めつける態度はとらず、複眼でみてきました。

 私が注目したのは、昨年2月、トランプ大統領が、対北朝鮮政策について従来の「戦略的忍耐」――対話否定論を見直すと表明したことです。そのとき、トランプ氏は「あらゆる選択肢をテーブルの上に乗せる」という言い方をしました。「あらゆる選択肢」のなかには「先制攻撃」も含まれますが、「外交交渉」も含まれます。この変化をとらえ、私は、昨年2月のNHK番組で、「米国は外交交渉のなかで非核化を迫るべきだ」と提唱しました。

 さらに、昨年8月、米朝の間で軍事的衝突の危険が強まるもとで、声明を発表し、「米朝は危機打開のための直接対話にのりだすべきだ」と提起し、関係各国に働きかけてきました。この時も、私がこうした声明を出した背景には、トランプ政権のなかから、軍事的選択肢とともに、対話による解決という声が聞こえてきたということがあります。私たちが「米朝の直接対話を」と提起した土台には、党綱領の立場があるのです。

 トランプ政権が今後どう行動するかは、なお予断をもって言えません。ただ、「対話による平和的解決」の動きが、ある確かな歩みを開始したことは間違いありません。大激動の世界で生命力を発揮している党綱領の立場にたって、今後も知恵と力をつくしたいと決意しています。


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