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2018年1月13日(土)

2018論点・焦点

いま731部隊の戦争犯罪を検証する

慶応義塾大学名誉教授 松村高夫さん

科学と学問を“軍事の僕(しもべ)”にさせぬ 加計学園獣医学部問題にも通じる

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 安倍政権のもとで強まる「軍学共同」に反対する大学人らの共同が広がっています。そのなかで改めて注目されているのが、科学と学問が戦争に加担した歴史です。戦前の陸軍731部隊(関東軍防疫給水部)の戦争犯罪を研究する慶応義塾大学名誉教授の松村高夫さんに聞きました。(聞き手・阿部活士)


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(写真) まつむら・たかお 1942年生まれ。慶応義塾大学名誉教授。専門は、イギリス社会史・労働史、日本植民地労働史。『裁判と歴史学〜七三一細菌戦部隊を法廷からみる』(矢野久と共著)など著書多数。

 ―作家・森村誠一さんの『悪魔の飽食』などで731部隊の人体実験など残酷な実像が明らかになったのが1980年代でした。それから三十数年、細菌戦の全体像についての研究がすすみました。

 細菌戦は、731部隊隊長、石井四郎という特異な医師の仕業でなく、陸軍中央の指揮のもと軍全体の戦争犯罪だったことがわかっています。被害は、731部隊による人体実験の犠牲者と、同部隊が製造した細菌兵器を中国の十数カ所で使用した犠牲者の双方があります。

 日中戦争が勃発した1937年、ハルビン郊外の平房で731部隊の建物建設が急テンポですすみ、各種実験室や発電所、専用飛行場など全体が40年にはほぼ完成しました。42年に軍医や軍属など日本人は家族も含めて約3500人を数えました。731部隊の姉妹機関として関東軍軍馬防疫廠(しょう)(100部隊)が、新京(現・長春)にありました。

 関東憲兵隊は拘束した抗日運動家らを部隊に特別輸送(軍用語で「特移扱」)し、「マルタ」と称して特別監獄に収容。日本人医師らがペスト、炭疽(たんそ)、コレラなど細菌ごとに研究するため人体実験をおこないました。京大、東大、慶応大などの医師が関与していました。

 細菌兵器のなかで、ペスト感染ノミ(PX)は731部隊独自の発明でした。ペストの生菌を空中から落とすと地上に着くまでに死滅しますが、飛行機から穀物と一緒にPXを布にくるんで落とすと、地上で穀物を食べにきたネズミに感染ノミがたかりペスト感染ネズミになります。さらにネズミから人間にまで感染するという兵器です。

 防疫給水部は、40年までに北京、南京、広東で、42年にシンガポールで設置され、日本軍中央の指揮のもと網の目のような細菌戦体制が編成されました。

 日中戦争での細菌兵器の使用は40年から42年に集中しています。細菌兵器は細菌が数次感染を起こし、疫病流行の原因が日本軍によることを隠すことが軍にとってのメリットでした。

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(写真)ハルピン平房にいまも残る爆破後のボイラー室旧跡(撮影・提供は、平和資料館・草の家副館長、岡村啓佐さん)

 ―戦後、今日にいたるまで731部隊の戦争犯罪とその責任が明らかにされてこなかったのは、なぜだと考えますか。

 ナチスの戦争犯罪は、アウシュビッツ収容所などで生き残った人が証言しましたが、日本の731部隊は敗戦時に建物を破壊し、「マルタ」全員を殺害し、生存者ゼロでした。また、アメリカは731部隊の膨大な研究成果提供の見返りに、幹部の戦争責任を免責したので、東京裁判では裁かれませんでした。さらに、人体実験をした医師や部隊関係者のほとんどが沈黙を続け、戦後の医学界や製薬会社、自衛隊などに“復帰”し社会的地位を保持しました。

 中国の人体実験被害者の遺族や細菌戦被害者が原告となって日本政府に謝罪と補償を求める裁判が95年と97年に起こされました。私も「意見書」を提出し、証人として加害の事実を証言しました。裁判では、人体実験の事実も細菌戦による被害も認定されながらも、法律論で原告敗訴とする最高裁判決が2007年にそれぞれ下されました。

 日本政府が現在でも731部隊の人体実験も、細菌戦をおこない犠牲者が出た事実も認めていないことは極めて重大です。

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(写真)自衛隊の内部誌『衛生学校記事』の第1号

 ―裁判といえば、現在、防衛省の陸上自衛隊衛生学校が発行していた内部誌『衛生学校記事』の開示・公開を求める裁判が東京地裁でおこなわれています。松村先生は「意見書」を提出しています。裁判の意義は。

 戦争責任を免罪された細菌戦部隊の幹部や医師は、戦後陸上自衛隊・衛生学校にもかなり入隊しています。たとえば、731部隊の軍医大尉だった園口忠男は、部隊の研究をもとに博士論文「赤痢菌族の分類に就て」を熊本医科大学に提出、博士号が授与されました。1956年に自衛隊に入隊し、衛生学校教育部教官や第8代衛生学校校長を務めました。

 陸軍省医事課長だった金原節三は、陸軍中堅将校として出席した参謀本部の打ち合わせなどを記録した「金原業務日誌摘録」を残しており、そのなかに細菌戦の打ち合わせ(43年4月)も記録されています。金原は、1955年に防衛庁に入隊し、翌56年に第4代衛生学校校長になり、『衛生学校記事』の初代編集委員長でした。

 このように、細菌戦の思想と知識・技術は自衛隊に引き継がれていると考えられます。内部誌の公開・研究は、過去の残酷な仕業の暴露ではありません。戦前の陸軍から戦後米軍と自衛隊に引き継がれた細菌戦の研究や情報を明るみに出す手掛かりとなります。

 ―いま、改めて731部隊を問う意味は。

 侵略戦争を肯定・美化する安倍政権のもとで、加害の歴史の事実を明らかにすることは重要です。なによりも科学や学問が戦争に加担した戦前のあやまちを繰り返してはいけません。

 いま大学人や医師が重大な疑いを持っているのは、安倍首相の肝いりではじまった加計学園獣医学部新設問題です。全国的に獣医は足りているのに、なぜ獣医学部を新設し、どんな獣医を養成しようというのか。その真のねらいは何か。地方創生相として新設に関わった石破茂氏の「4条件」が変遷していることに着目します。“生物化学兵器に対応するのも「新しいニーズ」だ”としています。同獣医学部には炭疽菌のような極めて危険な「バイオ・セーフティ・レベル」(BSL)3の実験施設を設置する計画であることが判明しつつあります。軍事的利用を射程にいれた獣医学部の新設は、絶対に許してはいけません。


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