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2017年1月24日(火)

2017とくほう・特報

モザンビーク 人権侵害・貧困拡大深刻

安倍政権 ODAの実態

日本の予算が市民分断の工作資金に

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 国際貢献を目的とするはずの政府開発援助(ODA)が、現地の人権侵害を助長し、貧困を拡大している事例が問題になっています。安倍晋三政権が「国益重視のODA」を掲げるもとで、何が起きているのか―。モザンビークの事例をみました。(佐久間亮)


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 ODAは、開発途上国での平和構築や基本的人権の推進、人道支援などのために資金や技術を提供する制度です。日本では外務省が所管し、国際協力機構(JICA)が実施しています。

 安倍首相は、ODAの供与先として、今後経済成長が見込まれるアフリカを重視。昨年ナイロビで開かれたアフリカ開発会議で、3年間で官民合わせて300億ドル(3兆4000億円)の投資を約束しました。特に力を入れているのが地下資源の豊富なモザンビーク北部でのナカラ経済回廊開発です。

700億円を供与へ

 安倍首相は2014年に同国を訪問し、この回廊開発に5年間で700億円のODA供与を表明。ナカラ港や回廊沿いの国道整備、送変電網の強化などにODAを実施してきました。

 「同地域を日本の将来的な天然資源や農産物の供給基地と位置づけ」「回廊がこれらの供給ルートとなる」

 外務省ホームページには、ナカラ回廊開発の狙いがあけすけに書かれています。モザンビークを日本に都合よくつくりかえようとする安倍政権の姿勢に、現地市民組織は「アフリカ大陸とアフリカ民衆に対する企業支配、植民地主義的征服だ」(農村コミュニティ開発のためのアカデミック・アクション=ADECRU)と厳しく批判します。

土地収奪が激化

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(写真)モザンビークで日本が実施する農業開発事業・プロサバンナに反対する市民

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(写真)内部告発で明らかになった「プロサバンナコミュニケーション戦略書」

 なかでも深刻な問題を引き起こしているのが、日本がブラジルと組んで進める農業開発事業・プロサバンナ(日本・ブラジル・モザンビーク三角協力による熱帯サバンナ農業開発プログラム)です。対象面積は約1100万ヘクタール。日本の耕作面積の2倍以上です。家族経営による小規模農業が中心の同地域に機械や化学肥料、企業との契約栽培を導入して大規模化し、大豆や穀物の一大生産地にする構想が打ち上げられました。

 同国では近年、外国資本が小農を農地から追い出す土地収奪が激化しています。

 同国最大の小農組織・全国農民連合(UNAC)は、プロサバンナが新たな土地収奪の原因となり、深刻な人権侵害を引き起こしていると批判。横浜市で13年に開かれたアフリカ開発会議で、事業の緊急停止を求める公開書簡を安倍首相に手渡しました。

 安倍首相は公開書簡には回答せず、14年の同国訪問の際にプロサバンナ推進を表明しました。

 「回廊沿いで土地取引が急増している。企業が農民を脅したりだましたりして土地を奪い、プランテーションをつくる。土地や水を独占し、自給自足の生活を壊している」

 昨年11月に来日したADECRUのクレメンテ・ンタウアジ氏は「開発や投資で人々は豊かになるどころか貧困が深刻化し、食料の確保すら困難になっている」と批判します。

市民組織に介入

 昨年、同事業にかかわる公文書が国際NGOあてに大量に内部告発され、内容に衝撃が走りました。事業に反対する市民組織の影響力を低下させるための工作資金に、日本のODA予算が使われていたことをうかがわせる内容が書かれていたのです。

 「モザンビークの市民社会諸組織の重要性を奪うことで、モザンビークで活動する外国NGOの力をそぐことができる」「(住民らとの)会合では文書記録が作成されなければならず、またビデオと音声で記録されなければならない」

 55ページからなる「プロサバンナ・コミュニケーション戦略書」という表題の文書には、市民組織に対する「介入提案と行動計画」が列挙されています。

 「戦略書」が始動したのは12年12月。UNACがプロサバンナへの批判を強め、日本でもNGOや研究者が問題視し、外務省・JICAとの協議を開始しはじめた時期でした。約300万円の費用はJICAが提供し、複数の現地コンサルタントが受注。内部告発で明らかになるまで、外務省とJICAは公にしていませんでした。

 本紙の取材に対し、外務省は「戦略書はあくまで参考文書であり、公表する性格のものではない」と回答。「戦略書」に基づいて市民社会を分断したことはないといいます。

 同国を繰り返し訪れ調査してきた日本国際ボランティアセンターの渡辺直子さんは、農民・市民が参加する会合でのビデオ撮影など「戦略書」は実行されていると指摘。「撮影すれば住民は萎縮して自由に発言できなくなる」と語ります。

 ODA問題に詳しい恵泉女学園大学の高橋清貴教授は、人権や環境をないがしろにして開発優先と批判されたかつての姿へ、日本のODAが先祖返りしていると危惧します。

 「もはや経済成長のためにODAを利用する時代ではない。地球温暖化や貧困など世界的な課題解決にODAを位置付けていくべきだ」


 モザンビーク 面積は日本の約2倍、人口は2722万人。1975年にポルトガルから独立した後、長い内戦に苦しんできましたが、92年に平和協定署名。石炭やガス、アルミなどの鉱物資源に恵まれ、近年、日本企業も石炭採掘や鉄道事業に進出。ただ、ここ数年、急速に政情が悪化しています。


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