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2016年11月1日(火)

2016焦点・論点

介護保険「軽度者」負担増 政府が狙う

全国老人福祉施設協議会在宅サービス委員長 武藤岳人さん

利用控え広がり重度化を招く 自立支援の考え方にそぐわない

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 政府は、介護保険制度見直しで、要介護1、2の生活援助や通所介護を保険給付から外すことを検討してきましたが、反対世論におされ今回は見送りました。しかし、厚生労働省は要介護1、2の「軽度者」の利用料の1割から2割以上への負担増などを提案し、来年の通常国会への法案提出を目指しています。全国老人福祉施設協議会(約1万2000事業所・施設加盟)在宅サービス委員会の武藤岳人委員長に、「軽度者」の負担増問題について聞きました。(内藤真己子)


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(写真)むとう・たけひと 1971年山梨県生まれ。同県職員を経て、2002年、社会福祉法人壽光会入職、2011年から施設長
撮影・片桐資喜

 ―今回の介護保険制度見直しの経過について、どう考えますか。

 全国老人福祉施設協議会では、財務省の財政制度等審議会が、要介護1、2の通所介護や、訪問介護の生活援助を保険給付から外し、市町村による地域支援事業への移行を提示したことについて、「介護離職ゼロと逆行しかねない、多くの課題を有する」と文書で厚生労働相に申し入れてきました。他団体も同様に働きかけるなか今回、地域支援事業への移行(保険給付外し)が見送られる方向になったのは当然のことです。

退所検討した人も

 ―一方、厚生労働省は審議会で、要介護2までの「軽度者」について利用料の1割から2割以上への引き上げ方針を示しました。

 「軽度者」の負担割合を2割以上に引き上げると広範囲な利用控えが出てくるでしょうね。財務省が求めるように生活援助が3割など「大幅」な負担増になるとお金のある人以外は、最低限の利用回数か、利用をやめることになるでしょう。

 “中重度者との負担の均衡”を言いますが、介護保険のこれまでの考え方は、軽度のうちからサービスを利用し、自立を支援して重度化を防ぐことです。軽度者の負担割合を引き上げると、要介護3以上の中重度者が頑張って要介護2になると負担が重くなる。リハビリの意欲がそがれるでしょう。法の理念とも矛盾します。

 また軽度者でも、同居家族の有無や就労などの社会的要因によって、必要なサービス回数は異なります。ですから現実には、必ずしも、軽度者が中度者より利用者負担額が低いとは限りません。

 利用料には負担の上限額が設定されています。しかしそれも今回、一般的な所得層の負担限度額を、月3万7200円から4万4400円へ引き上げる方針が打ち出されています。

 昨年8月から一定以上の所得がある人が2割負担になりました。私の施設では特別養護老人ホームの退所を検討した方もおられました。サービス利用の「適正化」はケアマネジャーによる「適切なケアマネジメント」によってなされるべきであり、サービス利用を負担増によって抑制することは、アセスメントにもとづき、自立支援を促すケアマネジメント、ひいては介護保険の考え方にそぐわないのではないでしょうか。

長期には財政圧迫

 ―軽度者の負担増は何をもたらしますか。

 要介護1、2になった方というのは外出ができにくくなり、家に閉じこもりがちになる時期です。そのときデイサービスに通えば、他の人との交流を通じて社会性を保つことができ、表情も変わり活動・参加への意欲が高まります。訪問介護による支援で生活に張りも出てきます。この段階でサービスを使いにくくすれば、要介護3以上の中重度者が増えてしまうことが懸念されます。

 利用控えで介護保険の財政は一時的に支出が抑制されるかもしれませんが、長い目で見ると重度化が進み、財政を圧迫することになりかねません。

専門職支援できぬ

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(写真)デイサービスでの認知症予防の体操=山梨県山梨市

 ―厚労省は、生活援助の「人員基準の見直し」を打ち出しました。事業者やヘルパーにどんな影響が出ますか。

 訪問介護の生活援助は、掃除や買い物、調理、洗濯などの家事をおこない在宅介護を支えています。

 定期的に訪問介護員が自宅に入り利用者さんと関わる中で、食べ残しやゴミの状況から体調を観察します。好みや買い物の内容の変化に気づいて認知症の進行を把握し、必要な介護サービスにつなげています。これは専門職だからこそできるもので、ただお掃除などをするだけの事業者のサービスではできません。

 「人員基準の見直し」の内容によりますが、無資格者による生活援助への基準緩和だとすると専門職の支援が期待できず、特に認知症の独居の人などにとって在宅生活の維持が難しくなります。

 すでに前回の法改定で、要支援1、2の訪問・通所介護が保険給付から外れ、市町村による地域支援事業に移行することになりました。来年度からすべての自治体で実施されます。

 同事業で導入された「緩和した基準によるサービス」は、一定の研修を受ければ資格なしで訪問サービスができます。自治体が事業所に払う報酬は介護保険の報酬の7、8割程度にする自治体が多いと感じています。

 しかし訪問介護員は他のサービス以上に人員不足で困っています。これ以上、時給を下げたら資格が必要ないといっても、やっていこうという人はいないのではないでしょうか。一定の報酬が保障されるから、資格を取得して、他人の家に1人で入っていくという困難だが、やりがいのある仕事に就いているのです。

 訪問介護事業所の経営はいまでもかなり厳しいのが現状です。さらに介護報酬が引き下げられたら大半の事業所の赤字転落は免れない。撤退する所も増えるでしょう。在宅介護を政策の重点にしても、そのためのサービスが足りなくなることが考えられます。

自然増削減再考を

 ―政府は社会保障費の自然増の削減を続ける姿勢です。

 高齢者が増えていくので社会保障予算は増えています。湯水のごとく使っていいとは思いませんが、ある程度、やはり人口の動態に合わせた予算を確保していただきたいと思います。時期的に増大しているものに予算を重点化していくというのが普通だと思います。

 人口が減っているのに新たなインフラ整備が必要なのでしょうか。景気浮揚のための国策で大型の公共事業予算が増える一方、社会保障の自然増経費が削られるのは再考していただきたいと思います。


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