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2016年9月3日(土)

警官が身分隠して唾液採取

東京高裁 DNA違法収集を断罪

判決「令状主義の精神を無視」

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 警察官と名乗らずに捜査対象の男性に近づいて、お茶を飲ませ、コップについた唾液から採取したDNA型鑑定をもとに逮捕した窃盗事件で、東京高裁(植村稔裁判長)は8月23日、捜査方法が刑法の「令状主義の精神を没却(無視)する重大な違法」として埼玉県警を断罪、一部無罪としました。どんな捜査だったのでしょうか。


 2015年1月。荒川の河川敷でテント生活を送っていた男性(58)に黒っぽい帽子をかぶったジャンパー姿の男性2人が話しかけてきました。

 この2人、実は埼玉県警の捜査官。男性に正体を明かすことはありませんでした。男性も2人が警察官だとわからず、河川敷を管理する国土交通省の職員だと思っていました。【イラスト1】

 そして2人は男性にお茶が入った紙コップを差し出しました。飲み終えた男性は、空コップを「捨ててくれるのだろう」と男たちに渡しました。男たちが窃盗のことを聞くことはなく、やりとりの一部始終は写真撮影されていました。【2】

 男性から紙コップを受け取った捜査官たちは唾液からDNAを採取。これが窃盗事件の現場に残された犯人と思われる人物のDNAと一致しました。この結果をもとに、Aの逮捕状を裁判所に請求し、男性を逮捕。【3】

 捜査官たちは、逮捕した男性から再びDNAを採取し、その鑑定結果を証拠として提出しました。【4】

 一審のさいたま地裁では、罪に問われた2件の窃盗事件でいずれも有罪判決となりました。

 公判で被告の男性は「警察官と名乗っていれば、お茶を飲んだりしなかった」と主張しました。

 二審の東京高裁は「個人識別情報であるDNA型をむやみに捜査機関に認識されないことは重要な利益である」と指摘。令状なしで、被告の意思に反して唾液を違法に入手した県警の行為を違法だと断罪しました。違法入手したDNA鑑定を逮捕の決め手とした窃盗事件1件については、無罪としました。


現状に鋭い警鐘 法的規制が急務

 岩田研二郎弁護士(日弁連刑事法制委員会委員長)の話 判決は、「個人の究極のプライバシー」と言われるDNA型情報の取得が、警察により違法に行われている現状に令状主義の観点から鋭い警鐘を鳴らすもので、大きな意義があります。警察庁は、2005年に「DNA型記録検索システム」の運用を開始し、DNA型鑑定を活用した捜査手法が進んでいます。

 日弁連は、07年12月、その捜査手法に関して、被疑者からのDNA型情報の採取は裁判官の令状によるべきであるとし、例外的に同意を得て任意の採取を行う場合も、採取の意味、利用方法などを書面で示して十分に説明することを提言し、DNA型情報の採取や保管、データベースの運用は国家公安委員会規則でなく、法律で規制すべきだと提言しています。

 最近は、警察が捜査のためにGPS位置情報、顔画像から生成する顔認証データなどのプライバシー情報を収集利用することが増えており、法律による規制が早急に必要です。


 令状主義 逮捕や勾留、差し押さえ、家宅捜索など、当事者の人権や身体、財産などに制約を加える強制処分を行うには、裁判所や裁判官が発付する令状を必要とする原則。

図:「DNA違法収集を断罪」解説イラスト

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