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2016年6月25日(土)

EU離脱 英国民選択の背景は―

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 欧州連合(EU)離脱か残留かを問う国民投票で、英国民は僅差ながら離脱を選択しました。背景には国内でのEUに対する不満・反発や、英国政府が進めてきた構造改革・緊縮政策に対する批判など、政治の現状に対する不信があります。

 (片岡正明)


金融支援・難民・経済格差…

反EU感情を刺激

 離脱の機運を強めるきっかけとなったのは2010年のギリシャ危機と昨年の難民危機です。ギリシャ危機では、債務危機に陥った南欧諸国への金融援助に英国の税金を投入することの是非が問題となりました。

 昨年からの難民大量流入では、EUの難民割り当てや仏カレーからの違法難民が問題になりましたが、難民問題を契機に焦点が当たったのはEU諸国からの移民問題です。東欧諸国がEUに加盟した04年から10年間の英国への移民流入数は約100万人の純増。離脱派の「移民が仕事を奪い、英国の社会保障を受けている」という主張に、一部の英国民の反EU感情がかきたてられました。

 その奥には経済格差の問題があります。英政府が進めてきた構造改革の影響を受け、産業が衰退した地方都市は、総じて離脱に傾きました。

 構造改革は、1979年からのサッチャー保守党政権が手を付けました。以来、国営企業だった鉄道、エネルギー、電気通信などを民営化、石炭などの産業が斜陽化しました。

 一方、金融ビッグバンで、金融街「シティー」を象徴とする金融業やサービス業が栄え、格差が拡大。英ロイター通信は「グローバル化に取り残された数百万人の人たちが離脱に走った」と評しました。

 この格差が政治不信となり、行き詰まった現状を変えたいという思いが離脱票になりました。

 また、EUの規制で漁獲量を大幅に減らした漁民や、EUからの移民と競合する単純労働者などの不満が蓄積してきたと現地からの報道は伝えています。

新自由主義への傾斜・緊縮押し付け…

EUと市民間に溝

 もともとEUは二つの世界大戦後、戦争の悲劇を繰り返さない決意が原点にあります。それまで対立していたドイツとフランスの和解を進めるために、1952年に資源の共同管理をする「欧州石炭鉄鋼共同体」(ECSC)が発足したのがEUの発端です。

 ECSCが発展した欧州共同体(EC)は関税を撤廃。EUとなってから単一通貨ユーロをつくりました。EU加盟国28カ国のうち22カ国とスイスなどEU外の4カ国が「シェンゲン協定」に参加し、パスポート検査などの出入国審査なしで互いの国境を行き来することができます。域内で人(労働)、物(商品)、お金(通貨・資本)の動きが自由になり、経済活性化をさせようというのが狙いでした。

 しかし、EUの単一市場は域内での自由競争を促進。欧州の左翼は「新自由主義的性格を強めた」と批判しています。財政協定で各国の予算の赤字の規模を縛り、欧州金融危機時に緊縮政策を各国に押し付けたのもEUで、欧州労連(ETUC)や南欧各国での緊縮反対運動が活発になりました。

 一方でEUは政治的な統合を目指し、「大統領」や共通の外交・安全保障政策を担う「外相」のポストを創設。EU独自の法律であるEU指令を出し、それに合うように加盟国の法律を変えさせました。

 EUが巨大な官僚機構を生み出したことへの批判もあり、欧州議会選挙での低投票率は、各国市民とEUとの間の隔たりを象徴していました。

GDP縮小・各国での離脱の動き…

政治と経済に激震

 英国はEU内でドイツに次ぐ第2の経済規模の国で、その離脱は英国のみならず、EU全体にとって政治、経済で大きな影響を与えます。

 経済面ではEU全体の国内総生産(GDP)が17%も縮小。また国際通貨基金(IMF)によると、ヨーロッパ市場への自由なアクセスを失う英国の実質GDPは、EU残留の場合と比べて2019年には最大5・6%押し下げられるといいます。

 政治的にはEU発足以来、初めて加盟国が離脱する例をつくることになり、極右政党などを中心とした他国の離脱への動きを刺激。デンマークやオランダ、イタリアでも離脱国民投票実施の可能性が出てきます。トゥスクEU大統領は、EUがばらばらになる危機だと警告しています。

 また、英国の中でEU残留を望むスコットランドや北アイルランドが英国から分離し、EU加盟に動く可能性もあります。

 英国は、EUの基本条約であるリスボン条約に基づいて離脱に向けた交渉を始めます。交渉の期限は原則2年。EUが定める貿易や投資、関税など経済活動に関する約500の規定など、約1000の協定に参加している英国が、これらに代わる新たな協定をどれだけ早く結べるかどうかが注目されます。

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