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2015年12月12日(土)

2015 とくほう・特報

介護職員足りず施設入所制限も

処遇の改善なく“絵に描いた餅”

国の責任で賃金上げ 介護報酬引き上げこそ

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 安倍内閣は「1億総活躍社会」の緊急対策で、「介護離職ゼロ」にむけ介護施設などを「50万人分」増やすとしています。しかし介護施設はすでに慢性的な職員不足。閉鎖や受け入れを制限する施設まで出ています。(内藤真己子)


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(写真)台車を押し、おむつ交換に回る夜勤職員=兵庫県西宮市の特養ホーム・甲寿園

 六甲山麓の東端に建つ特別養護老人ホーム甲寿園(兵庫県西宮市)は定員168人。兵庫県内で3番目にできた老舗の特養です。

 午後8時半すぎ。戸外が冷気に包まれるなか、夜勤職員がオムツ交換と食事の片付けに追われていました。

 突然、廊下に電子音が響きました。ベッド脇に敷かれたセンサーマットが反応したのです。「あッ!」。職員がオムツ交換の手を止め、長い廊下をダッシュして駆けつけました。

 「お部屋が違いますよ」。認知症の人が迷い込んでいました。個室には酸素吸入し、肩で息をして眠っている利用者も。変化がないか絶えず気を配りながらの介助が続きます。

 「夜勤は、看護師がいないので急変が一番怖いです」。こう語るのは勤続13年目の川ア真吾主任(36)。「30歳すぎてから、休んでも疲れがとれなくなりました」

正規職員にしわ寄せが

 同園は介護職員の夜勤が月6〜7回あります。介護保険が始まった2000年には月4〜5回でした。なぜ増えているのか―。狭間孝園長(61)が明かします。

 「介護報酬が改定で引き下げられてきました。当園は国の基準より多く職員を配置していることもあり、正規職員を非正規職員に置き換えて対応せざるを得ませんでした。非正規は夜勤ができない人が多く、その分、正職員にしわ寄せがきた。人材確保の障害にもなっています」

 川内光子副園長(64)は言います。「年度途中に産休などで休職者が出て、求人をかけても職員が集まりません」

 主任の川アさんは、会社員からの転職組。「オムツに排せつしていた方が、介助でトイレにできるようになると、表情もガラっと変わってくる」。目を輝かせて仕事の魅力を語ります。しかし、介護福祉士の資格をとった専門学校の同級生の7割以上が、すでに介護職を離れています。

 4万3000人が特養ホームの入所を待つ首都・東京。介護職員不足のため、入所を制限する特養が恒常的に出ています。

 東京都高齢者福祉施設協議会が9月に行った特養453施設の調査では、8施設が入所を制限していました。ショートステイの閉鎖は3施設、受け入れ制限は4施設でした。

 多摩地域のある特養ホームも、100人定員のところ96人に入所を制限しています。政府の制度改悪で施設入所が要介護3以上になったこともあり、入所者の平均介護度は要介護4と重度化。利用者3人に職員1人の国基準では間に合わず、独自に職員を増やして対応しています。

 今年、3人の職員が相次ぎ退職。ハローワークはおろか人材派遣業者に頼んでも職員は集まらず入所制限を決断しました。「ネックは賃金。勤続10年の介護福祉士でも年収340万円程度しか払えない」と施設長。結婚を機に「寿退社」する男性職員もいます。「重度化に見合って介護職員の配置基準を見直し、介護報酬を引き上げないと人は集まらない」。施設幹部は口をそろえます。

賃金は安く責任は重い

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 ある区の施設はショートステイ20床の半分を閉鎖しています。「単独型ショートステイは建物の構造上赤字。特養の収入で補ってきましたが介護報酬減で補えなくなった。そこへ職員不足が重なったのです」。苦渋の決断をした施設長は続けます。

 「3年間、新卒採用はゼロです。学生が実習に来ても就職はしてくれません。ネットの求人サイトに年間100万円近く払っても問い合わせすらない」

 介護職員の職業紹介をする東京都福祉人材センター。都内の福祉職の有効求人倍率は5・57倍(2014年度)。全職種平均の1・61倍と比べてダントツです。

 「求職者数は横ばい。求人数がどんどん伸びている」と平賀由香人材情報室長。求人の増加理由は、新規開設の人材確保および職員の離職です。「離職要因のひとつは賃金が安いこと。責任の重さといった職務内容と賃金がマッチしていない」。同室の木村洋子専門員は語ります。

 実際、介護事業所の60%が職員不足と回答しています。不足理由の72%は「採用が困難」。その原因の61%が「賃金が低い」です(14年度「介護労働実態調査」)。介護職員の給与は、全労働者平均より月10万円も低いからです。

実態伴わぬ加算の増額

 政府は4月の介護報酬改定で「介護職員の安定的な確保」として介護職員処遇改善加算を増額しました。昨年度比月1・2万円相当の賃金改善効果があるとしています。

 ところが実態はそうなっていません。全労連介護・ヘルパーネットが8〜10月に実施した介護労働者約3400人のアンケートでは、月収と一時金を合算した賃金が「増えた」は16%にとどまりました。8割が処遇改善を「感じない」と。しかも「月収入が下がった」が6%、「夏季ボーナスが減った」は22%もいました。

 処遇改善加算が増額されたのに、なぜこんな状況になるのか。同ネット世話人の米沢哲さんは語ります。

 「新しい処遇改善加算を取得するには、賃金改善とそれに伴う法定福利費の増額も含め、加算をとる前より平均月2・7万円賃金を引き上げなければなりません。しかしすでに同種の加算を取得していた事業所は、その期間に経営努力(加算以外の原資)で行ってきた定期昇給等も引き上げ分とみなしていい」

 この条件を満たせば今年度賃金を上げていなくても過去の昇給分などが評価され、新しい加算がとれるという不合理な仕組みです。

 一方、事業所は、4月から基本報酬が大幅に削減され、かつてない経営危機に陥っており、賃上げができない事業所も生まれています。「4・48%減の基本報酬削減が大問題です。これをやめ、大幅に引き上げないと、加算だけ増やしても職員の処遇改善にはつながらない」と米沢さん。

 こんな状況で介護施設を「50万人分」増やすことは可能なのか―。全国福祉保育労働組合高齢種別協議会の横田祐事務局長(54)は「政府方針には処遇改善策がなく、絵に描いた餅だ」と批判します。「介護離職をゼロにするなら介護職員の離職をなくす対策をとるべきです。介護報酬引き上げとともに、国庫負担ですべての職員の処遇改善を実施することが急がれます」と語ります。


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