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2015年11月4日(水)

2015 とくほう・特報

「介護離職ゼロ」どころか大崩壊

デイサービス 街から消える!?

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 各地で介護事業所の廃止が相次いでいます。売却され、経営者が変わる事業所もあちこちで報告されています。4月の介護報酬引き下げが影を落としているのです。安倍政権は経済政策「新3本の矢」で「介護離職ゼロ」を掲げますが、逆に地域では「介護大崩壊」ともいえる事態が進んでいます。 (内藤真己子)


政府の報酬削減が影響

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(写真)小橋さんが経営する小規模デイサービスで=東京都北区

 蛇行する隅田川にほど近い、東京都北区の商店街。シャッターが下りたままの店舗前に午前9時、デイサービスの送迎車が着きました。「おはようございます」。職員が声をかけて玄関に入ると、91歳の宮田清さん(仮名)が、長男の誠一さん(同)=62=に見守られて出てきました。

 清さんは食品店の元店主。十数年前、妻に先立たれ一人暮らしです。2年半くらい前から外出時に自宅に戻れなくなることが増え、認知症と診断されました。介護度は要介護2です。

 近くに住む誠一さんが毎朝来て、着替えを手伝い朝食を食べさせ、デイサービスに送り出してから出勤します。夕方は、誠一さんの妻がパートを終えてから食事をつくります。夜は誠一さんが再び来て、就寝まで見守ります。

 「介護が始まってから自分の時間はまったくないね」と誠一さん。それでも清さんが週5日デイサービスに行き、風呂にも入れてくれるので助かります。「できるだけ最期まで家で面倒みたいよ」

 デイサービスは在宅介護の柱。介護する家族にとってもかけがえのないサービスです。ところがその経営が危機に直面しています。清さんが通う同区の小規模デイサービスは定員10人。木のぬくもりが感じられる明るいフロアで、利用者2〜3人に職員が1人の手厚いケアと、家庭的な雰囲気が人気でした。

 8年前に開業した小橋博さん(64)は声を落とします。「4月の介護報酬改定で10数%の減収になり、“死刑宣告”されたに等しい。国は介護事業所つぶしを狙っているとしか思えません。人生を預かる仕事なので簡単には決められないが、厳しい経営判断を迫られています」

仕事続けられない

 安倍内閣は介護報酬改定で基本報酬を平均4・48%も引き下げました。職員体制に応じた加算などを上乗せできたとしても、引き下げ幅は2・27%と過去最大規模です。

 とりわけ小規模デイサービスは要介護者で平均9・2%以上の大幅減(利用時間が7時間以上9時間未満)。さらに小橋さんの事業所で17%を占める要支援1、2の人は、平均21%以上の引き下げです。加算は小規模事業所にとって条件が厳しく算定できず、基本報酬削減の影響をもろに受けました。

 対応策として職員の夏のボーナスを中止しました。小橋さんの役員報酬を大幅に減らし手取りは月8万円に。貯金を取り崩す生活です。施設改修の積み立てもできません。

 さらに介護改悪で、2017年には要支援1、2の人が保険給付から外され市区町村事業に移されます。いっそうの収入減の可能性が高まります。

 同事業所に父親を預けて働く誠一さんは、「安倍さんのやり方は強引すぎるよ。『介護離職ゼロ』なんて言ってるけど、こんなんじゃ、仕事を続けられない」と嘆きます。

収入減が7割にも

 大阪社会保障推進協議会は10月、府内のデイサービス事業所のアンケート調査結果を公表しました。介護報酬改定で収入減になった事業所は7割に及び、減収率は11・7%でした。とくに定員10人以下の事業所は85%が収入減と、大きな打撃でした。

 今後の事業展開については、「事業所の整理・縮小」が17%、「事業から撤退」が4%で全体の2割以上が撤退・縮小と答えています。なかでも定員10人以下では「整理・縮小」が2割、「撤退」が1割に上りました。

 人口約12万人の大阪市西成区。私鉄駅前のビルにかかる看板を確かめて上階のデイサービス事業所に行くと、ガラス越しに見えるフロアは静まり返っていました。同じビルに入る関連事業者は「5月末に閉鎖しています」と話しました。

 その隣の駅。駅前の有料老人ホームの1階にあるデイサービスを訪ねました。「6月末で閉鎖しました。利用者は別のところへ移りました」。ホームの従業員が答えました。

 同区内で小規模デイサービス事業所の管理者を務める志賀直輝さん(36)は打ち明けます。「うちも報酬改定で10数%の収入減になりました。加算は要件が厳しく取れません。正職員をパートに置き換えるなどして対応していますが、経営者サイドからは、閉鎖や規模縮小の話が出ています」

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(写真)千葉市の事業所に送りつけられた介護事業所の売却、買収の募集ファクス

譲渡申し込み激増

 「施設の売却相談急増中! 無料相談会を実施しています」「実は…同業者の社長も知らないところで、売却を検討しています!」。札幌市や千葉市で、介護事業所の売却を募るこんなファクスが大量に出回っています。

 ファクスを送った大手医療・介護人材紹介業のM&A(合併・買収)事業担当者は明かします。「譲渡の申し込みは昨年の2〜3倍に増えています。とくに小規模デイサービスの相談が多い。理由は圧倒的に経営難で、全体の7〜8割を占めている」

 千葉市中央区の小規模デイサービス事業所が7月末、閉鎖しました。マンツーマンで行う訓練が気に入って熱心に通っていた82歳の女性はその後、体を動かす機能が低下してしまったといいます。

 女性のケアマネジャーを務める居宅介護支援事業所・まちかど相談室(千葉市)の竹村育子さん(64)は証言します。「小規模ならではの良さがある丁寧な事業所でした。利用者さんは閉鎖と聞いてガックリしてしまい、別のデイを勧めたけど『行く気にならない』と、中断したんです」。竹村さんは続けます。「介護報酬削減で結局、一番の被害をこうむるのは多くの利用者とその家族です。政府は介護報酬を元に戻し、小さな事業所の経営も成り立つようにしてほしい」

倒産、過去最高に

 日本共産党の緊急調査によれば、今年4〜5月の在宅介護事業所の「廃止・休止」件数は前年同時期より15.8%増加。この傾向は大都市部で顕著で、東京都と20政令指令都市の「廃止・休止」は前年同時期比で33.8%増でした。

 さらに介護事業所の倒産は、民間信用調査会社によると9月までに57件。2000年の介護保険制度実施以来、過去最高を記録しています。


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