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2015年6月3日(水)

橋下市長持ち上げ メディアの異常

持ち込まれた偽りの対立

民意が示した“維新政治ノー”

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 大阪市をつぶす「大阪都」構想の協定書が5月17日の住民投票で否決されてから2週間余り―。市民の審判の意義を改めて実感しつつも、在阪メディアの報道や橋下徹大阪市長の言動には、首をかしげざるをえません。

 というのも、多くのメディアでは、開票日の夜に笑顔で任期後の政界引退を表明した橋下市長の“いさぎよさ”ばかりが強調され、僅差とはいえ多数となった反対の民意の意味がまともに顧みられていないからです。

 いくつかのテレビ番組では出演者が「高齢者が若者の夢をつぶした」と言わんばかりの持論を展開しました。また、ある新聞社が橋下氏の引退は「惜しくてならない」と元担当記者が嘆く記事を配信したかと思えば、別のテレビ番組では大阪市を守れと活動する人たちの映像に「既得権益社会を作る者」との字幕をかぶせるなど、タガが外れたような「維新思考」の報道が繰り返されています。

■破綻した案

 しかし、「都」構想に関して言えば「ちょっと協定書を読んだ人であれば、破綻した案だと思うはずです」。3月まで維新の大阪市議だった村上満由氏も雑誌(『新潮45』5月号)でこう指摘している通りの実態です。

 もし賛成多数で、市の廃止と特別区への分割が確定していれば、2年後の大阪市域に待ち受けていたのは、▽市分割による混乱と都市機能の低下▽特別区設置による大幅なコスト増▽直接得られる税収の激減と府への依存▽住民サービスの低下▽府と巨大な一部事務組合への事務移管による自治の縮小―など何重もの実害そのものでした。

 本来なら誰もが反対してもおかしくないような暴挙でした。だからこそ、維新以外の全会派が反対し、100人以上の学者が警告を発し、多くの市民団体はもちろん、市の地域振興会、商店会総連盟、府の医師会、歯科医師会などが次々と反対を表明したのです。

 橋下氏は、協定書可決でも「大阪都」にはならず、大阪市がなくなるだけという基本的事実すら、まともに説明しませんでした。その一方で「今のままなら衰退する」と不安をあおり、「今のままでいいのか」「大阪が変わるラストチャンス」とイチかバチかの自滅的破壊へと自らの聴衆を誘導しました。そして、「都」構想に反対している人たちは保身目当てだとレッテルを貼り、憎悪と対立をあおったのです。

 維新は政党助成金を含む巨額の資金を湯水のように投じました。橋下氏の録音メッセージをひたすら繰り返す宣伝カーが街中を走り回り、テレビCM、ネット広告、折り込みチラシなどの物量作戦が市内を異質な空間へと変えました。

■草の根から

 しかし、「ウソで大阪市がつぶされる」と危機感を感じた市民が「自分も何かしたい」と立ち上がりました。市民団体には「配るビラがほしい」との連絡が次々と寄せられました。あちこちで手作りのビラを配る人も生まれました。若者たちのグループは、街頭でも丁寧な対話を繰り広げ事実を伝えました。こうした無数の市民の草の根の活動で大阪は救われたのです。

 橋下氏は開票会見で「ノーサイド」を呼びかけました。しかし、市民の間に、本来なかった大阪市をつぶすかどうかという対立を持ち込み、デマと中傷で市民をいがみ合わせたのは橋下氏自身です。

■必要な検証

 今回の結果は、そういう橋下氏の政治へのノーでもあるのではないでしょうか。大阪市を良くしたいと願う市民が本当に一つになるためにも、市民の中に偽りの対立を持ち込んだ橋下氏の誤った言動や、それに追随する報道には、厳しい批判と検証の目を向けることが必要です。

 (藤原直)


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