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2015年5月6日(水)

第2次世界大戦終結70年

歴史に向き合い、記憶を継承

ポーランド国民記憶院所長 ウカシュ・カミンスキさん

戦争の経験忘れた世界 それが本当に恐ろしい

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 戦後70年、歴史の継承が大きく叫ばれています。自国の歴史と真摯(しんし)に向き合い、国民に真実を知らせる仕事に取り組む、ポーランドの国家機関・国民記憶院を訪ねウカシュ・カミンスキ所長に、記憶の継承の持つ意味について聞きました。 (ジャーナリスト 大内田わこ、写真も)


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(写真)国民記憶院所長のウカシュ・カミンスキさん

 ―具体的にはどんなお仕事をなさっているのでしょうか。

 簡単にいえば、過去の清算です。戦後すぐにつくられた「ナチス犯罪追及委員会」を受け継ぐ形で大きく発展させ、いっそう幅広い活動を展開しています。2300人の職員がおり、150人余りの歴史家の協力も得ています。

冊子や展示に

 私たちは、ただ歴史を検証したり追及するだけでなく、その結果を、冊子にして発行したり、展示会を開いたりもしています。これは年間400回ぐらいの割合です。海外に住むポーランド人はもちろんのこと、そこの国の人びとに、ポーランドの歴史や今日をよく理解してもらうために、その国の言葉にして展示する場合もあります。小さな子どもからおとなまでの歴史教育に力を入れています。

 ―私は日本でみたテレビのドキュメント番組で、あなた方の組織の存在を知りました。ポーランドのイエドバブネという村でポーランド人がユダヤ人を虐殺したという、できればふたをしたくなるような問題にも果敢に挑戦されて、真実を明らかにされたことにとても感動を覚えました。

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(写真)ワルシャワのヴォヴォスカ通り7番にある国民記憶院の建物

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(写真)ワルシャワ旧市街。ナチスによって壊滅したまちを人びとの手で復興しました。世界遺産に

 イエドバブネの問題にぶつかった時、私たちはまだ活動を始めたばかりで、建物もまだちゃんとしていないという状態でした。しかし、この組織が創立されたときから、私たちはすでに大変難しい問題を扱わなければならないということは、自覚していました。殺されたり、行方不明になったりした人たちの遺体を掘り起こし、真実を調べ、すべてを明らかにすることはきわめて困難なことだからです。

 イエドバブネも検察を中心とした調査が始められ、当時のことを知る村の人びとの調査もやりました。この事件について知りえた事実は2冊の冊子として刊行しました。

加害の事実も

 ―タブーといわれるものへの挑戦だったと思いますが、国民の側の受け止めはどうでしたか。

 当時はかなりの批判もありました。長年、自分たちはナチスの戦争の被害者であると思ってきたポーランド人が、加害者になったわけですから。でも、10年たってみて私は改めて、どんな問題でも事実と突き合わせ、その結果を社会に提示するということの持つ意味の大きさを痛感しています。それによって結果として国民の信頼を得ることができたのではと思うのです。歴史を見ないふりをしたりごまかしたりしないで、大胆に取り組んだという意味で、ポーランドは、いいモデルを示したのではないかと思います。

 ―ここでの活動は、現場にはどのように生かされているのでしょうか。

 現場の先生用の資料を出しています。写真をたくさん使ったものや、ドキュメント風に作ったCDなどを無料で提供しています。もちろんそれを使うかどうかは自由です。また、年に何回かは教師の集団研修もやります。

 学校の生徒たちのコンクールというのもあるんですよ。全国各地の生徒たちが集団で自分の町や村の歴史を研究する、歴史とふれあうわけですね。そういう子どもたちの手助けになるような歴史番組をつくってテレビで放映したり、インターネットで流したりもします。過去をきちんと理解しないでは、現在というものをつくっていくことができないと思うので、特に子どもたちの教育には力を入れています。

 ―戦後70年、いま改めて記憶を継承していく意味をどのように考えますか。

 何度もいいますが、歴史をきちんと見つめないと、歴史は繰り返すわけです。現在、技術がこれだけ発達しているなかで、繰り返されたときの恐ろしさは、想像を絶するものがあります。今たくさんの若い世代の人たちが、戦争を知らない平和な時代に育っています。この世代に、平和の意味、重要性、価値観など伝えようとするとき、これが失われた時にどうなるか、という以外に方法はありません。

 “アウシュビッツよりも恐ろしいことが一つだけある”と言った人がいます。それは何かと言うと“世界がアウシュビッツを忘れてしまった日のことだ”と言うのです。同感です。第2次世界大戦の経験を忘れ去ってしまった世界というのは本当に恐ろしいものだと思います。

 今、私たちはグダニスクというところに第2次世界大戦の祈念館を建設中です。戦時下を生きた人々の苦難の歴史に視点を当てた博物館になるはずです。

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隠せばもどる

 ―日本の政府はいまだに過去の戦争のきちんとした総括も、近隣諸国との和解もできずにいます。そんな国のありようはどのように映りますか。

 私は2006年に日本へ行きました。そして靖国神社にも行き、ショックを受けました。第2次世界大戦についての教科書の記述も友人に翻訳してもらって読みました。私は歴史を隠してはいけないと思っています。それは必ず元に戻るからです。ローマ時代ならいざ知らず、20世紀に被害を受けたたくさんの人びとや、関わった人たちが生きている今、私たちはそれを見たり聞いたりしないわけにはいかないのです。歴史はちゃんと見れば、私たちを助けてくれます。この立場に立ってこそ周りの人たちともよい関係をつくることができると思います。

 ただそういう社会、ウソで成り立っている社会というものは非常に弱いもので、必ず崩れるものです。日本の中にも歴史をきちんと見て考えている方々がいるはずです。必ずその力が強くなっていくはずだと、私は思います。


 国民記憶院 1998年、ポーランド議会下院が「国民記憶院―ポーランド国民に対する犯罪訴追のための委員会」設立に関する法律を採択して発足、2000年から活動を開始しました。研究・教育のほか犯罪訴追の機能を持っています。ナチス・ドイツの占領下、ソ連軍の支配下、また戦後、政権がソ連に追従していた時代の犯罪などを対象としています。

 イエドバブネ事件 ポーランド北東部の村・イエドバブネで1941年7月10日に起きたユダヤ人集団虐殺事件。長年、ナチス・ドイツの犯行とされてきましたが、近年、同じ村のポーランド住民によるものだという疑惑が浮上。国民記憶院による調査がなされ、2002年に報告書がだされました。ポーランド政府が公式に謝罪し、追悼式典が毎年行われています。


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