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2015年4月8日(水)

2015 焦点・論点

安倍政権の圧力―問われるメディア

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 安倍首相と政権のいっそうの右傾化と暴走はメディアへの干渉・圧力を大きな特徴としています。NHKの翼賛放送局化をはじめとしてテレビへの攻勢も目立っています。この事態にメディアと国民はどう立ち向かっていけばいいのでしょうか。研究者とジャーナリストに聞きました。


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(写真)かつら・けいいち 1935年生まれ。日本新聞協会研究所長、東京大学新聞研究所教授、立正大学教授などを歴任(ジャーナリズム研究)。
(写真・橋爪拓治)

萎縮を克服し 国民とともに

ジャーナリズム研究者 桂 敬一 さん

 一昨年の秘密保護法、昨年の集団的自衛権行使容認といった「安倍政治」の暴走は、これまでの戦後史にはなかった現象、露骨な右傾化の動きで、今やそれが行き着く先の危機、戦後民主主義の崩壊が危ぶまれます。

取り込みが特徴

 この右派路線は、新聞・テレビなどメディアの取り込みを大きな特徴としており、マスコミ対策の要には、元NTT広報部報道担当課長の世耕弘成官房副長官がいます。

 NHKの取り込みでは、安倍人脈の財界人が動いて経営委員会に委員を送り込み、そこの推挙で、あの籾井勝人氏を会長に据えました。籾井会長は就任会見で「政府が右と言うことを左と言うわけにはいかない」と述べ、その後のNHKの報道の安倍ベッタリは、目に余るものがあります。

 民放も含めた放送全体への干渉もひどい。昨年の総選挙に臨んで自民党は、副幹事長・報道局長名で「公平中立と公正」を求める異例の要望書を在京テレビ局に送りつけました。

 メディアの側にも、みずから介入を招く弱点があったのではないかと考えます。

 2009年の総選挙の際、朝日新聞は「政権選択の選挙」を唱え、他紙の「政策選択の選挙」と比べ、民主党政権の実現支持が明白でした。だが、それが実現すると朝日は、与党になったらおとなになれと、鳩山首相のアジア政策をくさしました。

 元来朝日は船橋洋一氏を筆頭に、アーミテージなどの「ジャパン・ハンドラー(日本を操る者)」人脈との関係が強く、自民党流の対米重視です。

 これでは足元を見透かされてしまう上に、読売・産経が自民一辺倒で、メディア全体としては「慰安婦問題」「歴史認識」「原発」「護憲」、どの点でも安倍政治との対決が不徹底になりやすい。とくに日米安保のゆがみが集中的に現れている沖縄問題、対米経済従属を深めるTPP(環太平洋連携協定)との対決ができません。

言論の自由危機

 メディアが「言論の自由」を標榜(ひょうぼう)し、国家権力の横暴を阻むときは今です。ところが安倍首相が自分の「言論の自由」を口にし、メディアを恫喝(どうかつ)する異変が生じています。

 昨秋、TBSに出演した首相は、この局の番組が「アベノミクスの恩恵を感じない」とする町の声を拾って報じたのを「(局が声を)選んでいる」と公然と非難、国会で後日問題にされると、「私にも言論の自由がある」と反発しました。

 「言論の自由」とは、国民へのその保障を憲法が政府・国家に義務づけているもので、最高権力者=首相なら、どこでもなんでも言える、というような自由ではありません。

 とくに免許事業である放送の生殺与奪権を握る首相が、テレビで制作者を脅すようなことを言うとは、言語道断です。

 「言論の自由」の上に成り立つジャーナリズムの実践に携わるメディアは、単なるビジネスではなく、社会的公共財としての役割発揮が国民から期待されています。

 しかし、その自由の実践が安倍流「メディア取り込み」のなかで萎縮しがちで、とくに昨年の「朝日バッシング」以降、メディアの現場のあちこちで自粛が蔓延(まんえん)、大事な自由が使い切れていないのが気になります。

 アメリカと一緒に世界中どこででも戦争ができる体制の構築を急ぎ、今国会で安全保障関連法制定を強行しようとする安倍政権に対し、一点共闘の境界を越えた市民が3月22日、一斉に「NO!」を突きつける大集会を成功させました。

 平和憲法破壊のたくらみを阻止する、こうした「国民の正当な怒り」に依拠するならば、メディアはなにも恐れる必要はありません。萎縮を克服して、「国民とともに起(た)つ」ことこそ、今求められているものです。 (小寺松雄)


伝えるべきは 果敢に伝える

ジャーナリスト・テレビコメンテーター 青木 理 さん

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(写真)あおき・おさむ 1966年生まれ。共同通信記者としてソウル特派員など務める。2006年退社。11年からテレビ朝日「モーニングバード」などでコメンテーター。
(写真・山城屋龍一)

 僕が出演するのは情報番組が多く、政治ニュースをそれほど扱っていませんが、報道番組を中心に政権の影や圧力が強まっているのは間違いありません。

 例えば、ある番組に与党幹部が出演した際、司会者が少し強い調子で批判し、直後に身内の政治部記者から番組にクレームがきた。取材しにくくなることなどを恐れたんでしょう。また、一部のプロデューサーには「政権批判ばかりでなく、いいところも言及してください」などと言ってくる者もいる。直接の圧力ではありませんが、一種の萎縮、自粛でしょう。

 以前はこのようなことは無かった。安倍政権になってから顕著です。

自省すべき点も

 背景にあるのは、メディアに強圧的な政権の態度です。

 昨年、TBS「ニュース23」に首相が出演した際、街頭インタビューが政権批判ばかりだとキレる騒動がありました。バカげた話です。首相を出演させてヨイショの声を伝える方が異常でしょう。むしろ批判を積極的に紹介し、首相も丁寧に応じてこそ意味がある。民主主義社会におけるメディアと権力者の役割です。

 しかも、直後に自民党は在京キー局に「公正中立」な報道を求める文書を送りつけた。こうした強圧的な態度にメディアも戦々恐々としている。

 メディア側にも自省すべき点があります。特に大手メディアは記者クラブ制度などの悪弊をあらためず、「権力監視」といいながら、自らも特権階級に身を置いている。そこを市民に見透かされ、メディア批判はかつてないほど広がっています。政権と対峙(たいじ)することを放棄し、萎縮や自粛傾向を強めれば、メディア不信はさらに広がり、政権のやりたい放題となってしまう。

 巷の(ちまた)書店には嫌韓・嫌中本が並んでいます。情報番組でも中国のコピー商品などの話題を大きく取りあげたり、韓国の事故や事件を盛んに取りあげたりし、「日本はスゴい」といった内容が増えている。視聴率が取れるんだそうです。

 ネット右翼と呼ばれる連中が多数派とも、日本の世論を左右しているとも思いません。ただ、自国を優越視し、隣国を下に見る風潮が強まっている。また、ネット右翼のような連中は、意に沿わない報道に露骨な攻撃を仕掛けてくる。電話だったりメールだったり、ツイッターなどでも盛んに批判を繰り広げる。

 僕も経験がありますが、そうした抗議への対応は面倒だから、刺激するような話題は避けよう…そう考える番組制作者がいるのも事実です。

 もちろん、制約のなかで頑張っている制作者もいます。一方、現実には今のテレビや新聞の過半は政権応援団と化している。メディアの役割を理解しない政権下、かつてないほど悪い状況が生まれています。

声援励まし必要

 テレビもジャーナリズムの重要な一翼を担っている以上、どんなに政権が強圧的でも、伝えるべきは果敢に伝えないといけない。辛うじてファイティングポーズをとっている番組には、声援や励ましの声を届けることも必要でしょう。

 戦後70年、今ほど異常な状況はありません。特定秘密保護法が強行成立し、集団的自衛権の行使容認が閣議決定され、安保法制の整備を含め、これまでの歯止めは次々と取り払われてしまいつつある。憲法「改正」も企ま(たくら)れている。

 メディアとジャーナリズムの矜持(きょうじ)にかけて、踏ん張らねばならない。私たちは歴史の岐路に立っています。 (和田肇)


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