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2015年4月6日(月)

2015 焦点・論点

「戦争立法」 中東の視点で見る

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 安倍政権による「戦争立法」の策動で、米軍の補完部隊として中東への自衛隊派兵の拡大が想定されます。それは日本に何をもたらすか。そもそも日本は中東といかに向きあうべきか。中東情勢に詳しい東京外国語大学の黒木英充教授と、元共同通信記者の坂井定雄さんに聞きました。 (聞き手・小玉純一)


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(写真)くろき・ひでみつ 東京大学東洋文化研究所助手、東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所助手、助教授を経て同教授。2006年より同大のベイルートにある中東研究日本センター長。

国益を考えているのか

東京外国語大学教授 黒木 英充さん

 今回の法整備の根底にあるのは、力を低下させた米国を日本の自衛隊が中東地域で補うことです。自衛隊はアフガニスタン戦争で米艦に補給し、イラク戦争でイラクに駐留しました。今後は、これまで以上のことを、いつでもどこでもやれるようにする狙いです。

 尖閣諸島の領有権問題はその世論誘導に使われています。尖閣での日中衝突の危険が叫ばれますが、米中戦争はまずないでしょう。米国は中国と戦争せずに、競い合いながら世界を抑えようとしているのです。

 中東のエネルギー資源への需要は日本だけでなく、中国、インド、インドネシア、ベトナムなどアジア諸国全般にあり、米国はその根っこをつかんでおこうということです。しかし、イラク戦争で大失敗し、シリア内戦もあって過激派ISを生み出してしまった。一方、巨大な人口を抱える中国はエネルギー・食糧資源を視野に入れ、中東・アフリカに関与を強めています。

両国利害同じ

 日本が自衛隊基地を置くジブチには中国も基地を置いています。ペルシャ湾だけでなくスエズ運河、紅海、インド洋という海上交通路の利害は日本も中国も同じです。日中はここでも話し合えるはずです。

 外交は国益を考え、したたかでなくてはなりません。いろんな保険をかけて、やっていく必要があります。日本は1970年代の石油危機後、米国に配慮しながらも、パレスチナ問題で独自の立場をとり、革命後のイランに油田を確保していました。

 いま政府・与党はペルシャ湾での自衛隊の機雷掃海を持ち出しています。この想定はイラン敵視を意味します。

 自民党の小池百合子議員や中谷元・防衛相が想定するスエズ運河なら一体、敵はどこですか。「ここが重要だから自衛隊を」というのは、どこまでものを考えた結果なのか。

 自衛隊を中東に出し、人を殺したら日本はおしまいです。イラクをめちゃくちゃにした米国の手下だと見られます。「日本は原爆を落とされたけれども平和国家として発展した」とみんな思ってきました。そのイメージを根底から変えてしまいます。

トラウマの話

 自衛隊の中東派遣の背景として、1991年湾岸戦争時のトラウマの話があります。日本はカネを出したが自衛隊を出さず感謝されなかったというのです。これが事実だったとしても、感謝しなかった方が問題なのであって、それをトラウマというのなら、これこそ自虐的です。基地を提供するだけでなく「思いやり予算」を差し出しても、米国から「安保ただ乗り」といわれて引け目を感じる感覚も同じです。

 今こそ複眼的に世界を見つめて長期的な国益を考え、したたかに振る舞わねばなりません。心ある多くの人は心配しているはずです。

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(写真)さかい・さだお 1966〜93年、共同通信記者。ベイルート支局長を歴任。93年〜2005年、龍谷大学法学部政治学科教授。05年〜08年、日本学術振興会カイロ研究連絡センター長。

送るべきは人道支援者

元共同通信記者 坂井 定雄さん

 安倍首相は1月の中東歴訪国の中にエジプト、イスラエルを入れました。ここには日本人人質・殺害事件で過激派ISの口実に利用されただけでない問題があります。

暴力に免罪符

 クーデターで政権を奪ったエジプトのシシ政権は同胞団員と支持者数千人を投獄し次々死刑判決を下しています。イスラエルは昨年、ガザを攻撃し、2000人以上のパレスチナ人を殺しています。

 安倍首相は両国首脳と握手し、暴力に免罪符を与えてしまった。その日本の姿をアラブに示してしまった。賢明な外務省関係者は歴訪に反対でしたが、首相の意向が働いたようです。

 その安倍首相が「国民を守る」といってペラペラ話すことは、日本人母子が乗る米艦船を防護するなど実際にはありえないことばかりです。これは一国の首相としてはあるまじき態度です。

 自衛隊を出す事態だというペルシャ湾封鎖の話もしかり。イランの側から機雷を敷設して超大国の米国と軍事で対決するとは考えられません。

 首相は結局、自衛隊を海外に自由に出せる国家にしたい。そのための口八丁手八丁です。腹が立ちます。

空気が変わる

 私は1970年代から中東とかかわってきました。平和国家でアラブと敵対したことがない国、日本から来たということで、私は恩恵を受けました。90年代末、大学教授時代に、ヨルダンからパレスチナを通りエジプトまで、日本人学生20人とバス旅行をしました。どこでも親切にされたものです。

 それが、2003年に米国が始めたイラク戦争で、自衛隊をイラクに派遣してから人々の空気が変わりました。私は05年から3年間、カイロを拠点に生活し、学術交流の話でパレスチナの研究者と会合を持った際、よそよそしさを感じました。日本政府が資金援助をするにもかかわらずです。

 イラク戦争が過激組織ISを生んだこと、米国に責任があることをアラブの人たちはよく知っています。オバマ政権は対ISの地上戦に米軍を出していませんが、共和党政権になればありうる。自衛隊は絶対に米軍を支援してはなりません。

 日本は憲法で戦争を放棄したのです。軍隊を出すのではなく、人道支援の人を出し、心に触れる支援を強めて、アラブの人々の信頼を回復すべきです。

 シリアの戦場への派遣は難しい。しかし、シリア難民は300万人。レバノン、ヨルダン、トルコにいます。ここには送れます。

 レバノンの難民キャンプなどでも日本人はほそぼそと活動していますが、たいへん感謝されています。しかし、圧倒的に数が足りません。帰国後の職の保障がないのも要因です。難民支援がキャリアになるような仕組みづくりが急がれます。

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