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2014年7月21日(月)

2014 焦点・論点

川内原発に「合格」だした規制委の新基準

原子力市民委員会座長・法政大学教授 舩橋 晴俊さん

首相のいう「世界最高水準」無知かうそのどちらかです

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 川内(せんだい)原発(鹿児島県薩摩川内市)の再稼働申請について政府の原子力規制委員会は、新規制基準に「適合」との審査書案をだしました。安倍晋三首相はこの基準を「世界最高水準」といって再稼働に踏み込もうとしています。政策大綱「原発ゼロ社会への道」を4月に発表した原子力市民委員会の舩橋晴俊座長(法政大学教授)に問題点を聞きました。


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(写真)ふなばし・はるとし 1946年神奈川県生まれ。法政大学社会学部教授。専門は環境社会学。福島事故直後の第1原発の動き、その後の政治・社会の動向を詳細に追った『原子力総合年表福島原発震災に至る道』(すいれん舎)の編集委員会代表。

 ――「安全とはいわない」(田中俊一規制委委員長)といいながら再稼働に「合格」をだしましたが。

 政府も規制委員会もその責任は重大です。

 原発の再稼働問題というのはたんなる技術的判断の問題ではなくて、総合的政策判断の問題として考えるべきであり、政府の責任で判断すべきことです。しかし、安倍政権がその判断をしないと回避したことで、きわめて無責任な事態になっています。

 総合的な政策判断のためには少なくとも三つのことを考える必要があります。第一は、原発の技術的工学的な安全性の問題、第二は、万が一事故が起きたときの原子力防災計画・住民避難の問題、第三が、使用済み核燃料、高レベル放射性廃棄物の処理の問題です。これらすべてを対象にして、再稼働の是非を判断するべきです。規制委員会は第一の技術問題の一部を検討したにすぎません。

 ――安倍首相の「世界最高水準の安全基準」という言い方をどう思いますか。

 「世界最高水準」などというのは無知か、わかっていてうそをついているかのどちらかです。

 そもそも新規制基準のどこが問題か。私たち原子力市民委員会の技術系の研究者が明らかにしていますが、要は既存の原子力技術体系を前提にして、その手直し修正でできる範囲でしか安全強化策をやっていないことです。つまり根本的な構造的欠陥に踏み込まないという基準になっています。

 私たちは「脱原子力政策大綱」のなかで、福島事故以前から安全性の向上を図ってきた欧州加圧水型原子炉(EPR)の安全設備と、日本の新規制基準が求めるそれを比較してみました。(別表参照)

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(写真)『原子力総合年表』

 その結果を見ると、欧州ではすでに採用されている重要な安全対策が、新基準では要求されていません。主な四つの問題で明らかに劣っており、「世界最高水準」には程遠いのです。

 なぜそうなっているのか。福島原発事故では電気と冷却水を失い原子炉が炉心溶融を起こしたわけですが、新規制基準はその原子炉本体には立ち入っていません。木の枝にはふれるが幹にはふれない新基準なのです。どこまでなら電力会社が負担できる範囲なのかを配慮した基準になっているからです。

 既存の原発に、溶けた核燃料を受けるコアキャッチャー(別表の(2)項)をつければ原発の新設と経費は変わらなくなってしまうかもしれません。しかし、そのような対策が必要なのも原発の持つ他の技術と異なる特別の危険性があることからきています。

 ――原発周辺住民の防災避難計画についてはどうですか。

 防災避難計画というときに、ハンディキャップをもつ人をどう避難させるか、何時間かかるか、そこまでちゃんと体制をとらないといけないわけです。住民全体が成人で健康な男子というのは幻想で、赤ちゃん、妊産婦、お年寄り、病人もいる。万が一のとき、その方たちもふくめて何時間で逃げきれるか、どういう移動手段があるか、渋滞は起きないのかといった検討が必要です。実際に、福島原発事故では寝たきりの高齢者などが、避難移動で亡くなるという「震災関連死」が多数起こりました。

 川内原発のある鹿児島でも、住民と専門家、行政の3者が、たとえば火山噴火・地震による原発事故が起きたときの避難について話し合わなければなりませんが、そうはなっていません。原子力市民委員会は「自主ヒアリング」という名で住民との意見交換会をやりましたが、これは本来、政府・規制委員会が主導してやるべき問題です。

 ――再稼働へと踏み出している背景に電力会社、政治家、官庁、メディアなど原発推進の「原子力ムラ」の存在がありますね。

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(写真)川内原発再稼働の無期限延期を求めた原子力市民委員会の記者会見。あいさつするのは舩橋座長=9日、東京都内

 そうです。今回、福島原発震災についての国際シンポジウム(7月12日、横浜市)を開いたのですが、ミネソタ州立大学のブロードベント教授(社会学)に、福島原発事故後のアメリカの動向を話してもらいました。「なるほど」と得心しました。

 アメリカでは原子力産業に対して日本のような手厚い保護政策をとっていません。金融業界が原子力産業に融資することに非常に慎重なのです。アメリカにとって原子力産業はこれからの成長戦略の主要な担い手とは位置付けられていません。原発がもし事故を起こしたら会社の自己責任です。その会社は保険をかけて事故に対応するしかない。しかし、保険会社は原子力があまりにリスクが大きくていやがり、銀行も金を貸さない。

 日本では逆で、原子力産業をあくまで生かそうとしているから過保護に次ぐ過保護なのです。金融業界が東京電力におカネを貸している。東電は事故で事実上破産状態なのに政府が特別国債を発行しローンを組んで救済している。だから、金融業界にダメージがいかず、何の痛みもないわけです。

 日本の金融業界は原子力に安易な投資をした、再生可能エネルギーへの融資には消極的なのに原子力に積極的にカネを貸した、その会社が事故処理で倒産するなら金融業界は責任をとらなければならない。本来はこれが企業経営の常識なのです。

 ――研究者・専門家の見識を政治の場で正しく生かすことを主張していますね。

 日本の研究者の水準は決して低くないことは今回の国際シンポジウムをみてもわかります。その人たちの見識、知識が政策決定過程に有効に投入されていません。埋もれている人たちが大勢いる。政府・与党が利用する識者と言われる人が一流の人を集めているかというと、そうは見えません。

 与党の政治家は研究者を悪がしこくは使っているが、うまく正しくは使っていません。互いに異論がある研究者をあつめて徹底して議論し研究させるほうがいいやり方です。

 その点で原発事故の国会事故調査委員会は画期的でした。政府や省庁の下ではなく、国会の下にあの委員会をつくりました。アメリカ、イギリス、ドイツでも議員と研究者からなる専門委員会を議会の下につくっている。研究者の見識を国政に正しく反映すれば政治はもっとよくなります。それは日本の大きな課題です。


 原子力市民委員会 原発ゼロ社会をめざす社会科学系、理工系などの研究者・識者や市民団体の代表者60人余からなる政策提言の専門的組織。昨年4月発足。提言「原発ゼロ社会への道 市民がつくる脱原子力政策大綱」を今年4月に発表。

 聞き手 山沢  猛
 写 真 佐藤 光信

 

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