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2013年6月13日(木)

外資系銀行でも「ロックアウト解雇」

女性組合員裁判に立つ

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 「あなたの仕事はなくなった。退職してほしい」。この一言で、会社から閉め出され、最終的に解雇された女性が労働組合に加入し、外資系銀行を相手に解雇撤回裁判に立ち上がっています。安倍政権と財界がつくろうとしている、仕事や勤務地の廃止で簡単に解雇できる「限定正社員」制度に先行して起こった解雇事件として注目されます。 (田代正則)


 ステート・ストリート信託銀行を相手取り、解雇撤回を求めて5月8日、東京地裁に提訴したのは、杉山隆子さん(44)=金融ユニオン組合員=。ほかの外資系金融機関勤務などをへて2004年から同銀行で顧客の資産管理などの業務を行っていました。

 同銀行は、機関投資家を重点的な対象とする大手金融機関ステート・ストリート(本社、米国・ボストン)による日本の信託銀行で、同グループは、証券の保管や保護預かりを行う「カストディー(資産管理)」で世界1、2位を争う規模を誇っています。

 米ボストン時間の2012年1月18日、同銀行は11年の通年利益が前年より増えたことを発表しました。同時に、世界規模のリストラを発表したのです。

 東京本社に勤務していた杉山さんは、日本時間の19日の昼に呼び出されました。「あなたのポジション(持ち場)はなくなった」といわれ、3月31日付で退職する同意書にサインをして、1週間以内に送り返すよう指示されました。

 私物の整理もさせずにコートとかばんだけ持たされ、そのまま職場を追い出されました。社会問題になっている日本IBMや米通信社ブルームバーグなどの「ロックアウト解雇」と同種のリストラ手法です。

労組でたたかい1勝

「仕事なくなった」一言で追い出し 遠隔地配転 毎日の面談…

あきらめず職場復帰まで

 「ポジションがなくなった」の一言で、退職を迫られたステート・ストリート信託銀行の杉山隆子さん(44)は、「はじめは驚き、怒りがわいてきた」と話します。職場を出たその場で、母親が以前相談したことがある弁護士事務所に電話をかけました。すぐに駆けつけたのが、日本航空の解雇撤回裁判などで代理人を務める船尾徹弁護士、黒澤有紀子弁護士でした。

不当だと確信

 大学に社会人入学をして労働法を学んでいた杉山さんは、弁護士との話し合いでリストラがこれまでの判例でも認められない不当なものだと確信しました。退職を拒否して職場復帰を求めるたたかいを決意しました。

 銀行業務は、ミスやトラブルを防ぐため、つねに複数人がチェックしサインする必要があります。「労働者が交代で休暇をとることを保障しながら仕事をするには、自分のポジションを減らすことはできない」と主張し、職場復帰を求めました。

 しかし、弁護士を通じた話し合いでも会社は、「ポジションがない」の一点張り。

 弁護士からのすすめもあり、杉山さんは金融労連(全労連加盟)の個人加盟労組・金融ユニオンに加入。団体交渉を重ねて、会社側から「解雇はしない」という答えを引き出しました。しかし、会社はあくまで「働くところはない」として、杉山さんを自宅待機にしました。

 あきらめず職場復帰を求め続ける杉山さんに対して12年7月、会社は福岡営業所への配転命令を出しました。杉山さんは不当・無効な配転だと表明することで異議をとどめながらも、職場復帰のために福岡へ行き、業務を行う苦渋の決断をしました。

 ところが福岡で待ち受けていたのは、「退職に追い込むための嫌がらせでした」と杉山さんは振り返ります。

 杉山さんに対してのみ、毎日日報の提出が義務づけられました。上司との面談が、杉山さんにだけ毎日行われました。

 同年10月、ついに杉山さんは体調不良で休職せざるを得なくなりました。いまもなお、杉山さんは主治医から自宅療養を指示されています。

 会社は、今年3月に「もう就労可能だ」として福岡営業所への出社命令を出しました。杉山さんは自宅療養が必要だという主治医の診断書を出し、4月1日に福岡への配転が無効だと提訴しました。

 会社は杉山さんの提訴直後の5日、「雇用関係を継続するだけの信頼関係がなくなった」として、5月5日付の解雇を通告しました。このため杉山さんと金融ユニオンは、退職強要から不当配転、解雇まで一貫したリストラだと主張し8日、解雇撤回を求めて提訴したのです。

 ステート・ストリート信託銀行は、本紙の問い合わせに対し、「この件に関して、一切コメントできない」としています。

「限定」先取り

 ステート・ストリートのリストラは、安倍政権と財界が狙う「限定正社員」制度が、労働者にきわめて大きな不利益をもたらすことを示しています。

 日本で労働者を整理解雇するためには、判例で確立した「整理解雇の4要件」((1)人員整理の必要性(2)解雇回避努力(3)人選の合理性(4)労働組合・労働者との協議)によるチェックが必要です。

 解雇を行ったステート・ストリートは当時、利益を増やしたと発表したばかりでした。フーリー社長兼最高経営責任者は「当社は前年比で収益および1株当たり利益の双方において力強い成長を達成することができました」と報道発表で語っています。

 にもかかわらず、ステート・ストリートは、リストラ計画を決めて「仕事がなくなった」の一言で、労働者を職場から追い出したのです。

 ステート・ストリートだけでなく、日本IBMや米通信社ブルームバーグなど外資系企業を先頭に、労働者個人の「業績不良」や、小さな部門閉鎖を理由にした大量解雇・退職強要が広がっています。

 安倍政権のいう「限定正社員」は、仕事や勤務地がなくなれば、簡単に解雇できるというものです。経営者が「仕事をなくすことが必要だ」といい張って解雇を強行した場合、労働者が解雇撤回を求めるたたかいは困難になります。

大きな力発揮

 大企業の勝手なリストラから労働者を守るため、大きな力を発揮しているのが労働組合です。

 杉山さんは、金融ユニオンに加入し団体交渉を行うことで、一度は解雇をくい止め、福岡へ転勤させられたとはいえ職場復帰しました。

 「1勝した」と杉山さんは言います。「2008年のリーマン・ショック後から、会社はロックアウトをやるようになり、職場に戻れた労働者は1人もいませんでした。でも、私は戻れた。同僚からも水面下で注目されています。だから、また解雇を撤回して、職場に戻れるまで頑張ってみようと思えるんです」


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