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2013年5月22日(水)

横浜市 待機児「ゼロ」を考える

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 保育所の待機児童がゼロになった―。20日、横浜市の林文子市長はこう発表しました。21日には安倍晋三首相が同市の保育所を視察し、「横浜方式を全国に広げる」と発言しています。横浜の「待機児童ゼロ」を考えます。(鎌塚由美、堤由紀子)


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突出する企業参入

 横浜市の待機児童数は、2010年4月の時点で1552人と全国ワースト1位でした。これが4月1日時点で「ゼロ」になったというものです。

 昨年度、認可保育所を71カ所増設し、31カ所で定員を増やしました。

 しかし、今回の「待機児童ゼロ」にはいくつかの問題点があります。

 一つ目は、同市では、認可保育所580カ所のうち、4分の1を株式会社が占めていることです。全国平均はわずか2%であり、突出しています。株式会社参入を一気にすすめたことによる矛盾が生まれています。

 民間による保育所整備の手法として(1)法人所有地による整備(2)市有地の無償貸与(今年度から有償)(3)ビルのテナントを借り上げ内装整備―の三つがあります。(1)(2)では株式会社には整備費補助は出ませんが、(3)では補助が受けられるため、横浜市では園庭のないビル内の企業園が次々とつくられました。

 保育士の入れ替わりも激しく、開園して半年で半数以上の保育士が退職したという園が複数あります。

 09年には経営の悪化から企業が撤退し、別企業が引き継いだという事態も生まれており、株式会社による運営の不安定さはぬぐえません。

 保育問題に詳しいジャーナリストの猪熊弘子さんは「オーストラリアでは10万人規模の保育企業が倒産するという体験から、保育は公的なものでという流れに変わっています。こうした例を見ても、株式会社の参入をこれ以上促進させることには賛成できません」と言います。

 神奈川県保育問題協議会の辻村久江会長は「保育所は本来、地域に根付き、地域の人とともに子育てしていく公共性があります。株式会社はその性格をもち合わせているのか。公共性とは相いれないのではないか」と話します。

子どもをつめこみ

 二つ目は、定員拡大や弾力化、面積基準の引き下げなどによる子どものつめこみです。

 毎年のように無理な定員増を押し付けた上に、適正化という名のもとに定員を上回る子どもを入所させて、つめこみ保育をしています。定員増をはかるために園庭やプールをなくして園舎を増築したり、ホールをつぶして保育室にしたりしているため、保育環境が悪化しています。

 保育研究所の逆井(さかさい)直紀さんは「待機児童解消のために行政が動くのは重要だが、手放しでは喜べない」として、面積基準を独自に運用した問題を指摘します。「最低基準では0、1歳児1人あたり3・3平方メートル以上とされているのに、横浜は2・475平方メートルに緩和して問題になりました。新設園では3・3平方メートルにしましたが、既存施設はそのまま。最低基準を守ることが当然必要です」と言います。

定義変え数合わせ

 三つ目が、待機児童の定義を変え数合わせをしていることです。

 市独自の横浜保育室に入所できたり、育児休業を延長したりした場合は、待機児童には含みません。

 さらにこの定義を少しずつ変え、意図的ともいえる「待機児童数減らし」をしました。

 全国ワースト1位といわれた当時の定義では(1)事業所内保育への入所(2)一時保育、乳幼児の一時預かり施設への入所(3)育児休業の延長(4)主に自宅での求職活動―という場合も待機児童に含まれていました。ところが(1)(2)(3)を11年度から、(4)を12年度から待機児童からはずしました。

 横浜市は、取材にたいし、「統計上のゼロですから」(保育対策課)といっています。

 猪熊さんは「認可保育所に入れない子どもが1700人以上いると聞き、『待機児童ゼロじゃないんだ』と思いました。定義を低い方に合わせるのではなく、認可保育所に入れない子どもを待機児童とすべきでしょう」と話しています。

「横浜方式」全国拡大狙う

安倍首相が視察

 安倍首相は21日、横浜市にある株式会社立の認可保育所を視察し、「横浜方式」を全国に広げ「5年間で待機児童ゼロを達成したい」と表明しました。

 安倍氏は、「民間参入には(慎重な)議論もあるが、ニーズを受け止めて対応するサービスの面では優れている面もある」などと述べ、横浜市を「成功例」だと宣伝し、慎重論の強い企業による保育所経営を一気に推し進める構えです。

 安倍政権が「横浜方式」の全国展開に固執する背景には、財界の利益を代表する規制改革会議が“待機児童解消が進まないのは自治体が株式会社の参入を排除してきたから”だと問題をすり替え、株式会社参入に慎重な自治体を批判していることがあります。

 同会議は「政府がガイドラインを策定し、もっとも効果をあげている自治体(横浜市)並みの水準を目指すべき」だと要求。厚生労働省は15日、都道府県・政令・中核市に対し認可保育所への株式会社の参入をいっそう促す通知を出しました。

 保育所への株式会社の参入は2000年に解禁されていますが、認可保育所への企業参入率は全国平均で約2%にとどまっています。


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