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2013年5月14日(火)

忍び寄る自衛隊(上)

「空飛ぶ広報室」と「ひとりっ子」

“よく似た話”を隔てた憲法への視点

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写真

(写真)『放送レポート』(2012年9月発行=メディア総合研究所編)に掲載された「ひとりっ子」の脚本

 TBSテレビの「日曜劇場」で放送の自衛隊ドラマといえば、「空飛ぶ広報室」。航空自衛隊(空自)の戦闘訓練を威勢よく映しだしてスタートしました。テレビ局の女性ディレクターの主人公が、空自を取材していきます。

 陸上自衛隊や海上自衛隊との違い、保有する戦闘機や輸送機について、基地や駐屯地とは? 空自の広報室がそれに答えて、ドラマは自衛隊ガイドの様相です。自衛隊員ら登場人物の喜怒哀楽が軽やかに描かれはしますが、クローズアップされていくのは、身近な存在として仕立てられた防衛省や自衛隊の存在です。

幻の「日曜劇場」

 実は同じ東芝提供の「日曜劇場」で、幻になった自衛隊ドラマがあります。1962年11月25日に放送されるはずだった「ひとりっ子」。放送を目の前にしてスポンサーの東芝が番組提供中止を、制作元のRKB毎日(福岡)の制作部長に通告しました。RKB毎日社長にはキー局のTBS社長から、放送するわけにはいかないと電話があったといいます。50年も前の出来事です。そのころの「日曜劇場」は、TBSテレビの系列局が制作に参加し、「ひとりっ子」もその1本でした。

 演出したのは久野浩平さん(1929〜2010年)。数々の受賞歴を持つドラマ作りの名手でした。後年、久野さんに「ひとりっ子」について話を聞く機会がありました。

 「戦争はいやだという当たり前の気持ちを表現したのです。右翼、防衛庁、自民党が圧力をかけ、放送局が負けてしまった。スポンサー(東芝)は防衛産業とのかかわりがありました」。放送中止は「忘れられないことでした」と語りました。

 東芝の当時の会長は、財界の元締めである経団連会長を務めていました。

同じ青春ドラマ

 家城巳代治と寺田信義による「ひとりっ子」の脚本は公表され、セリフの入ったフィルムも残っています。それを見ると、話の展開が「空飛ぶ」と驚くほど似ています。どちらも「青春ドラマ」と銘打っています。「空飛ぶ」が女性ディレクターの自衛隊取材記なら、「ひとりっ子」は高校3年生の主人公が防衛大学校への進学を迷って、自衛官の話を聞くという設定です。

 自衛隊の役割について「専守防衛」(「空飛ぶ」)、「国防の精神」(「ひとりっ子」)と同じようなセリフが飛び出します。では、なぜ一方だけが圧力を受けて日の目を見なかったのか。

「納得」と「疑問」

 「空飛ぶ」のヒロインが自衛隊員の答えにすぐに納得するのに対して、「ひとりっ子」の主人公は自衛隊への疑問をぶつけていきます。

 高校の先生にききます。「愛国心が必要だと言われればその通りですし…。愛国心は軍隊を必要とするとでしょうか?」

 先生は、「日本は憲法で軍隊を持つことを禁じたんだ」と話します。

 主人公の兄は特攻隊員で戦死していました。友人や母親が肉親を戦争で失った痛切な胸の内を語り、主人公は「兄さんがいちばんやりたかったことは何だったんじゃろ」と考えるようになります。

 「ひとりっ子」が描いたのは、憲法と相いれない軍隊としての自衛隊の存在、そして戦争の現実でした。ここが自民党、財界、防衛庁がそろって気に入らないところだったのです。

本質に迫ることなく

 「空飛ぶ」は、体当たり女性記者と傷ついた自衛官の恋物語。テレビ局や自衛隊のちょっとした内幕がのぞく巧妙な仕立てになっています。隊員は“普通の人”であることを強調して描かれ、自衛隊の本質に迫ることはありません。

 TBSは「現役の自衛官が出演」と得意になり、航空自衛隊と互いのホームページでエールを交換する親密さを見せています。TBSの制作陣の意図はともあれ、「空飛ぶ」は防衛省・自衛隊が演出、自民党・財界が応援するドラマと定義したら言い過ぎでしょうか。(渡辺俊江)


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