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赤旗

新版『資本論』刊行記念講演会
新版『資本論』の特徴と魅力

山口富男(日本共産党社会科学研究所副所長)

 

写真:山口富男 ご来場のみなさん、また、インターネット中継をご覧のみなさん、こんばんは。日本共産党社会科学研究所の山口富男です。

 私は、「新版『資本論』の特徴と魅力」について、お話ししたいと思います。

新版刊行の条件の発展

 新版『資本論』は、一九八〇年代に刊行された新書版を全面的に改訂したものです。

 新書版の完結後、この三〇年の間に、『資本論』をより充実した内容で読むことのできる、新しい条件が発展してきました。

 一つは、マルクス、エンゲルスの書いたすべての文章を収める、新しい『マルクス・エンゲルス全集』=略称『新メガ』の刊行が、すすんだことです。二〇一二年には、『資本論』とその準備のための草稿を収録した『新メガ』第二部が完結しました(一五巻二三冊)。その結果、私たちは、『資本論』に関係するマルクスの草稿の全体を、はじめて読むことができるようになりました。また、国内でも、マルクスの二つの経済学草稿、『一八五七〜五八年草稿』と『一八六一〜六三年草稿』が翻訳され、『資本論』第二部、第三部関係の草稿の翻訳もすすみました。

 二つ目には、資料の公開によって、イギリスの『工場監督官報告書』、『児童労働調査委員会報告書』など、『資本論』で利用された公的な報告書、それから経済分野の専門著作の多くが、インターネットやマイクロ・フィルムの利用によって、わが国でも直接、読めるようになったことです。

 こうした条件を生かした研究によって、『資本論』の草稿の状態、マルクス自身の研究の発展史が、詳しくつかめるようになりました。さらに、第二部、第三部の編集にあたったエンゲルスのたいへんな苦労とともに、編集上の問題点も浮き彫りになってきました。

 私たちは、このような条件を踏まえて、新版刊行の準備にあたってきました。

訳文、訳語、訳注の全面的な改訂

 まず、新版『資本論』の全体的な特徴から、紹介したいと思います。

 はじめに訳文です。翻訳ですからたいへん大事になります。訳文は、新書版での達成を生かして、ひきつづき平易で明快なものをめざし、全体を改訂しました。また、各種の報告書、著作からの引用も直接読めるようになっているのですから、可能な限り原典に当たり直し、訳文や数字などを改訂しています。

 つぎに訳語です。『資本論』を執筆するなかでつくられたマルクス独自の重要概念である「独自の資本主義的生産様式」と「全体労働者」について、今回、訳語を統一しました。それぞれの用語の内容については、はじめて登場する箇所で訳注をつけて説明しています(第一部第五篇第一四章、同第四篇第一一章)。

 訳注については、大きく改訂し、相当数の訳注を新たに加えました。新しい訳注では、『資本論』の著作構成の変化、恐慌論、再生産表式論、未来社会論などでのマルクス自身の探究と発展を重視しました。さらに、エンゲルスの編集上の問題点を検討し、この面での訳注を充実させ、必要な場合には、マルクスの草稿そのものを訳出することにしました。

 また、経済学史、一九世紀の政治史や諸事件などの歴史的事項についても、その内容をつかめるように、大幅に訳注を増やしています。

 マルクスの独特のいいまわしについても、注意を払いました。たとえば、マルクスは、この人物は、〝取引所のピンダロス〟、〝自動化工場のピンダロス〟、などといいます。新版では、なぜ、このような呼び方をするのか、訳注で、つぎのように説明しています。

 *ピンダロス――古代ギリシアの叙情詩人。オリンピア祭での競技の勝利者への賛歌で知られる。マルクスは、資本主義社会のあれこれの諸制度の誇大な礼賛者にたいして、しばしば、この詩人の名を借りて皮肉った――(第一部第二篇第四章)。

 これは、一例です。

 このように、新版『資本論』は、マルクス自身の研究の発展史を反映するとともに、エンゲルスの編集上の問題点についても、くわしい検討を行いました。この主題については、不破哲三さんの記念講演が、歴史的な検討を行います。

第一部。マルクスによる改訂個所を重視

 『資本論』全三部は、よく知られているように、第一部だけが、マルクスによって仕上げられました。第二部と第三部は、マルクスの死後、残された草稿をエンゲルスが編集したものです。こうした経過も反映して、新版『資本論』には、全三部のそれぞれに、改訂の特徴が生まれました。

 つぎに各部ごとの特徴を紹介したいと思います。

 まず、第一部「資本の生産過程」です。

 第一部は、四分冊で刊行します(第一冊〜第四冊)。新書版の編成とほぼ同じですが、新版では、第四分冊を「第七篇 資本の蓄積過程」だけでまとめるようにしています。翻訳上の底本は、一八九〇年に刊行された第一部第四版を使いました。この版が、エンゲルスの校閲した最後の版となっているからです。

 第一部の改訂では、一八六七年の初版にたいするその後の版での書き換え、また、マルクス自身が独自の意義をもつと語ったフランス語版『資本論』(一八七二〜七五年)とその成果を反映させた第三版(一八八三年)、および第四版(一八九〇年)での改訂個所を重視しました。この面での新しい訳注は、新たに一〇〇カ所あまりに増えています。

 初版では、「価値形態」論が本文と「付録」で二重に叙述されていました。マルクスは、第二版(一八七二〜七三年)でそれまでの二重の叙述を一本化し、第一章「商品」を書き直しました。新版では、この経過を訳注で示し、必要な場合には、その後の版で取り除かれた叙述や原注も訳出しています。

 マルクスは、第一部に一一〇〇を超える原注を付けています。新版では、これらが、初版以降、第四版までのどの版でつけられたものか、わかるようにしました。たとえば、マルクスは、第二版で、新たに三八の注を追加し、一一カ所で追記を加えています。

 このような改訂の結果、第一部では、叙述改善に努めたマルクスの足跡が、これまで以上につかみやすくなったと思います。

第二部。必要に応じマルクスの草稿を訳出

 つぎに、第二部「資本の流通過程」です。

 第二部は、第二部の三つの篇をそれぞれ一冊にまとめて三分冊で刊行します(第五冊〜第七冊)。これは、第二部の初版は、一八八五年に刊行されましたが、翻訳上の底本には、一八九三年に刊行された第二版を使用しました。これも、エンゲルスの校閲した最後の版となったものです。

 新版では、第二部の初版と第二版で叙述の異なる個所を示し、エンゲルスが草稿に付け加えた文章や追加した注、また、草稿の読み誤りなどについて、訳注で、くわしく指摘することにしました。これに関連した新訳注は、一一〇カ所あまりとなります。また、三つの篇の表題、二一の章の表題、それから節の表題についても、これまでの訳注を改訂し、マルクスの草稿との違いについての記述を充実させました。

 マルクスの残した八つの草稿と第二部におけるその利用状況については、最近の研究による情報を示し、恐慌論などでは、関連するマルクスの草稿を訳出することにしました(第二篇第一六章の「注32」、第三篇第二一章の末尾など)。

 こうして、エンゲルスの編集上の問題点も、『資本論』にそくして、具体的に検討していただけるものと思います。

第三部。編集上のいろいろな工夫

 つづいて、第三部「総過程の諸姿容」(マルクス)です。

 第三部は、五分冊で刊行します(第八冊〜第一二冊)。翻訳上の底本は、エンゲルスが編集し、一八九四年に刊行した第三部第一版を使いました。

 第三部の草稿は、『資本論』の草稿のなかでも、もっとも早い時期に準備されたものです。そこには、執筆時期の異なる二つの部分がありました。第一篇から第三篇までが一八六四年に執筆された前半部分、第四篇から第七篇が、前半部分の執筆から半年後に取り組まれた後半部分です。そして、前半部分にあたる第三篇には、後半部分の執筆にあたって、すでにマルクスが乗り越えていた見解――利潤率の傾向的低下を資本主義的生産の没落の動因とする立場が残っていました。

 新版は、こうした点に留意しながら、新しい訳注でマルクスの研究の発展と到達点を示し、草稿の記述と異なっている個所、また、エンゲルスによって文章が混入された個所などを、くわしく示すことにしました。この面での新しい訳注は、二五〇カ所あまりとなります。

 つぎに、第三部で行った編集上の工夫について、二点、紹介します。

 第一。新書版は、古い理論的命題の残る第三篇と、その後に執筆された第四篇とを同じ巻に収録していました(新書版第九冊)。新版では、マルクスの理論的発展を考慮して、第三篇と第四篇とを同じ巻に収めず、二冊に分けることにしました(新版第八分冊と第九分冊)。

 第二。新版の全体の編集は、翻訳上の底本に従っています。唯一の例外が、第三部の第七篇第四八章「三位一体的定式」です。この章では、エンゲルスによる原稿配列を組み替え、マルクスの草稿どおりに、未来社会論を論じた部分を章の冒頭に置くことにしました。この点については、不破さんの記念講演で、その意義が明らかにされると思います。

七〇〇人をこえる人名索引も面白い

 私の話の最後に、第一二分冊の巻末に収録する「人名索引」について、触れたいと思います。索引に登場する人名は、七〇〇人を超えています。

 『資本論』に登場する人名としては、当然のことながらイギリス、フランス、ドイツ、イタリア、アメリカなどの経済学者が多く、アダム・スミス、リカードウをはじめ、約二〇〇人の名前があがっています。

 そのほかに、ヨーロッパの王族、政治家、イギリスの銀行家などの名前が目立ちます。この人たちは、主に支配勢力側の人々です。それにくわえて、資本主義の諸矛盾を痛烈に告発したイギリスの医師、労働監督官、法律家、さらに各時代の歴史的特徴をつかもうとした歴史家、哲学者と文学者、詩人の名前も少なくありません。シェークスピアなどはその代表です。

 マルクスは、当時のヨーロッパ社会の生々しい現状をつねに眼の前におきながら、資本主義の経済法則と社会変革の展望を探究した革命家であり、経済学者です。登場する人名の構成にも、このようなマルクスの変革者としての研究姿勢の一端が現われているように思います。

 索引では、それぞれの人名について主な経歴を示し、経済学者については、代表的な著作も紹介しました。これも、『資本論』を読み、活用するうえでの手助けになるものと思います。

 以上、新版『資本論』の特徴と魅力について、紹介させていただきました。

 新版『資本論』は、全一二分冊で刊行され、二年後の、二〇二一年七月に完結の予定です。

 ぜひ、手にとってご覧いただき、読み手を広げてくださいますよう、心からお願い申し上げます。

 ありがとうございました。

(やまぐち・とみお)

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