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日本共産党

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赤旗

新版『資本論』刊行記念講演会 あいさつ
「ルールある経済社会」と『資本論』
──新版『資本論』刊行によせて

志位和夫(日本共産党委員長)

 

写真:志位和夫 お集まりのみなさん、インターネット中継をご覧の全国のみなさん、こんばんは。ご紹介いただきました日本共産党の志位和夫でございます。今日は、私たちの記念講演会にようこそお越しくださいました。心からお礼を申し上げます。

 私は、主催者を代表してあいさつを申しあげます。

これまでの訳書を全面改訂
─それを可能にした二つの条件

 新版『資本論』は、一九八二年一一月から八九年九月にかけて新書版として刊行されたこれまでの訳書を全面的に改訂し、日本共産党社会科学研究所の監修によって、刊行するものです。

 今月で、新書版の完結からちょうど三〇年になりますが、この三〇年間に、『資本論』の新版を刊行するうえで、新しい条件が生まれてきました。

 一つは、マルクスが残した『資本論』の膨大な草稿の主要な部分が、『資本論草稿集』などの形で日本語訳としても刊行されて、マルクス自身の研究の発展の過程を、私たちが読む条件がつくられたことです。

 いま一つは、その『資本論』の草稿の研究によって、エンゲルスによる『資本論』第二部・第三部の編集のたいへんな苦労や功績とともに、その問題点も明確となり、それを前向きに解決して、マルクスが到達した理論的な立場を、より明確にする条件がつくられたことであります。

 こうして、新しい内容をもった新たな版を準備する条件が整ってきました。

 新版『資本論』は、『資本論』の草稿の刊行と研究の発展をふまえ、エンゲルスによる編集上の問題点も検討・解決し、訳文、訳語、訳注の全体にわたる改訂を行ったものであります。

マルクスが到達した理論的立場が奥行きをもって立体的に
──「ルールある経済社会」の基礎となる諸命題も

 私は、新版『資本論』の刊行によって、マルクスが到達した理論的立場の全体像が、奥行きをもって立体的につかめるようになったと思います。

 その内容は多岐にわたりますが、一例をご紹介したいと思います。

 日本共産党綱領は、当面する経済の民主的改革の内容として、国民の暮らしと権利を守る「ルールある経済社会」をつくることを中心課題にすえています。『資本論』には、私たちの綱領のこの方針の基礎となる大事な解明が、随所にちりばめられています。

「〝大洪水よ、わが亡きあとに来たれ!〟……」
──資本への社会的規制が不可避になる

 たとえば第一部第八章「労働日」の叙述です。

 マルクスは、この章で、資本家が、より大きな利潤をくみ上げるために、労働者に非人間的な長時間労働を強要した当時のイギリス資本主義の実態を、公的資料を駆使して告発し、数々の有名な命題を引き出しています。

 私は、以前、二〇〇八年のリーマン・ショックの後に「派遣切り」が問題になったさいに、それを主題にしたテレビ番組に出演したときに(〇九年一月放送、テレビ東京「カンブリア宮殿」)、テレビ局の側から「『資本論』からの引用で一言でわかるものを紹介してください」という注文を受けまして、たいへんに難しい注文でありますが、次の命題を紹介したことを思い出します。

 「〝大洪水よ、わが亡きあとに来たれ!〟これがすべての資本家およびすべての資本家国民のスローガンである。それゆえ、資本は、社会によって強制されるのでなければ、労働者の健康と寿命にたいし、なんらの顧慮も払わない」(新書版②四六四ページ)
この一文を読み上げましたら、司会で作家の村上龍さんが「マルクスはやっぱりいいことをいいますね。いまでも生きていることを」といい、女優の小池栄子さんが「マルクスといま初めて触れ合いました、私」とのべ、マルクスが現代に生きているということが、この一文で伝わったということを、とても印象深く心に残っています。

 資本は、最大の利潤をくみ上げるためには、労働者の健康や寿命に何らの顧慮も払うことなく、労働時間の非人間的な延長を追求する。しかし、そうなれば、労働者階級全体が精神的にも肉体的にも衰退し、社会全体が成り立たなくなる──「大洪水」がやってくる。その「大洪水」を止めるには、社会による「強制」によって、労働時間を規制するしかない。社会のまともな発展のためにも資本への民主的規制から避けて通れなくなる。マルクスは、このことを痛烈な言葉で語ったのであります。

「社会的バリケード」──労働者の自覚と、
結束と、たたかいによってつくられる

 もう一点、こうした社会による「強制」は必然のものですけれども、それは自然につくられるものではありません。労働者の自覚と、結束と、たたかいによってつくられます。マルクスは、イギリスで一八五〇年にかちとられた一〇時間労働法──最初の工場立法の意義について、イギリス労働者の「半世紀にわたる内乱」の結果だとして、つぎのようにのべています。

 「自分たちを悩ます蛇にたいする『防衛』のために、労働者たちは結集し、階級として一つの国法を、資本との自由意志的契約によって自分たちとその同族とを売って死と奴隷状態とにおとしいれることを彼らみずから阻止する強力な社会的バリケードを奪取しなければならない」(新書版②五二五ページ)
ここでマルクスのいう「自分たちを悩ます蛇」とは、資本による搾取・責め苦を指していますが、それに対して自分と家族、労働者を守るためには、労働者は結集し、「社会的バリケード」──新版では「バリケード」という大胆で印象的な訳がなされています──「社会的バリケード」、「国法」=法律によって労働時間を制限する工場法をたたかいとらなければならない。

 こうして『資本論』には、現代日本の私たちのたたかいを直接に励ます数々の命題があります。現代日本での労働時間短縮のための法的規制強化を求めるたたかいに、そのままつながる命題がのべられているのです。

工場立法の一般化は、未来社会にすすむ
客観的・主体的条件をつくりだす

 さらにもう一つ、『資本論』第一部第一三章「機械と大工業」では、こうした工場立法が一般化すること──産業界全体に広がることが、社会変革にとってどういう役割を果たすかについて、大きな視野でとらえた次のような意義づけがなされています。

 「工場立法の一般化は、……新しい社会の形成要素と古い社会の変革契機とを成熟させる」(新書版③八六四ページ)
マルクスはここで、工場立法の一般化のもつ意義を二つの側面から解明しています。

 第一は、古い生産の諸形態をしめだし、労働過程の全体を「社会的規模での結合された労働過程」に転化することを促進し、「生産過程の物質的諸条件および社会的結合」とともに、資本主義の胎内で「新しい社会の形成要素」を成熟させるということです。

 第二は、工場立法の一般化によって、労働者に対する「資本の直接的なむき出しの支配」が産業全体に広がり、「資本の支配に対する直接的な闘争」を一般化させ、「古い社会の変革契機」を成熟させるということです。

 こうして『資本論』では、この工場立法を、社会変革の客観的条件──資本主義的生産のもとでの高度な経済的発展および矛盾の深まりという側面と、社会変革の主体的条件──労働者階級の成長・発展という側面の両方から、統一的にとらえています。

 わが党の綱領でのべている「ルールある経済社会」とは、資本主義の枠内で実現すべき目標ですが、それを私たちは「ルールある資本主義」とは表現していません。そのように表現しない理由について、二〇一〇年の第二五回党大会への中央委員会報告では、「この改革の成果の多くは、未来社会にも引き継がれていくことでしょう」とのべ、次のように説明しています。

 「綱領でのべている『ルールある経済社会』とは、資本主義の枠内で実現すべき目標ですが、それを綱領で『ルールある資本主義』と表現していないのは、『ルールある経済社会』への改革によって達成された成果の多く──たとえば労働時間の抜本的短縮、男女の平等と同権、人間らしい暮らしを支える社会保障などが、未来社会にも引き継がれていくという展望をもっているからです」

 『資本論』でマルクスがのべた、「工場立法の一般化は、……新しい社会の形成要素と古い社会の変革契機とを成熟させる」という解明は、わが党の綱領のしめす「ルールある経済社会」という方針が、当面する民主的改革の中心課題の一つであるだけでなく、未来社会──社会主義・共産主義社会にすすむうえで、その客観的および主体的条件をつくりだす意義をもつことを、大きなスケールで描き出すものとなっていると、私は思います。

「恐慌の運動論」の発見はマルクスの
資本主義観、革命論を大きく変えた

「ルールある経済社会」の基礎となる一連の
解明は『第一部完成稿』で初めて行われた

 ここで私が、新版『資本論』との関係で強調したいのは、さきほど紹介した、第八章「労働日」での「〝大洪水よ、わが亡きあとに来たれ!〟……」にはじまる命題、「社会的バリケードを奪取しなければならない」という命題をふくめ、際限のない労働時間の拡張が資本と労働者の関係に何をもたらすかということについての本格的な解明は、一八六六年一月〜六七年四月に執筆された『資本論第一部完成稿』(同年九月刊行)で初めて行われたものだということです。

 いわゆる『六一〜六三年草稿』にも、これらの命題の萌芽となり、起点となる考察がのべられています。しかし、『第一部完成稿』では、それが階級闘争の生き生きとした歴史的叙述をふくむ大長編の叙述に大きく変わりました。そのことについて、マルクスはエンゲルスにあてた手紙で、「『労働日』に関する篇を歴史的に拡大した」「これは僕の最初のプランになかったことだ」(一八六六年二月一〇日)と書き送っています。

 さらに、さきほど紹介した、第一三章「機械と大工業」でのべられている「新しい社会の形成要素と古い社会の変革契機」といった資本と労働者階級の発展過程を統合的、一体的に分析するということは、『六一〜六三年草稿』にはない、『第一部完成稿』で初めてとられた方法でした。

 これらは、『六一〜六三年草稿』から六六〜六七年の『第一部完成稿』までの間に、マルクスの資本主義観に大きな転換が起こったことを示しています。

破局的な危機を待つのでなく、労働者階級の
たたかいによって革命を根本的に準備する

 それは、マルクスが、一八六五年前半の時期に、恐慌論にかかわって大きな発見を行ったということです。

 この問題については、すでに不破哲三社会科学研究所所長による徹底的な研究、追跡、解明が行われています。

 すなわち、マルクスは、六五年前半の時期に、それまでの恐慌が引き金となって資本主義を変革する革命が起こる──「恐慌=革命」説とよぶべき立場を乗り越えて、不破さんが「恐慌の運動論」とよんでいる恐慌論を発見しました。それは、資本の再生産過程に商人が入り込むことによって、再生産過程が商品の現実の需要から独立した形で、「架空の需要」を相手にした架空の軌道を走りはじめ、それが累積し、破綻することによって恐慌が起こるというものです。

 この新しい見方に立ちますと、恐慌というのは、資本主義が「没落」の過程に入ったことの現れではなく、資本主義に固有の産業循環の一つの局面にすぎず、資本主義は、この循環を繰り返しながら発展をとげていくことになります。歴史を見れば、事実そうなっていったわけであります。

 この「恐慌の運動論」の発見は、マルクスの資本主義観を大きく変え、革命論も大きく変えるものとなりました。すなわち、あれこれの契機から始まる破局的な危機を待つのではなく、資本主義的生産の発展のなかで、社会変革の客観的条件と主体的条件がどのように準備されていくかを全面的に探求し、労働者階級のたたかい、成長、発展によって革命を根本的に準備していく。これが革命論の大きな主題となりました。『資本論第一部完成稿』には、こうした立場にたった資本主義の「必然的没落」論が、全面的に展開されることになりました。

 さきに紹介した「ルールある経済社会」の基礎となる『資本論』の一連の諸命題も、こうした探求のなかで豊かな形で生みだされたものだと思います。その意義は、「恐慌の運動論」の発見がもたらしたマルクスの資本主義観、革命論の大きな発展の過程のなかに位置づけてこそ深くつかめるものだと、私は考えるものです。

マルクス畢生の大著を理解するうえで
大きな意義

 エンゲルスが編集した現行版の『資本論』の大きな問題点の一つは、マルクスが「恐慌=革命」説を乗り越える前の古い理論が第三部の一部に残ってしまっているうえに、マルクスが一八六五年前半に、恐慌の新しい発見を叙述した『資本論第二部第一草稿』──「恐慌の運動論」をのべた部分については、エンゲルスが編集のさいに「断片的な草稿」で「利用できなかった」と扱ってしまったということにありました。

 新版『資本論』は、これらの問題点を解決するものとなっています。新版『資本論』では、第二部の最後に、「訳注」をたてて、マルクスが『第二部第一草稿』でのべた新しい恐慌論の全文を掲載するものとなります。新版では、これは第七分冊になる予定であります。

 こうして、新版『資本論』によって、私たちは初めて、『資本論』のなかで、マルクスの恐慌論の到達点の全体を読めることになりました。こういう形で世の中に出る『資本論』は、世界でも初めてのものだと思います。私は、昨日、メディアのみなさんに、世界で初めてのことだと紹介したところ、「それでは新版『資本論』を英訳や独語訳で発刊する予定はありますか」という質問を受けまして、なるほどと思いましたが、これは世界で初めてのものであり、独自の科学的価値をもつものになると思います。

 この到達点を理解することは、『資本論』が展開している資本主義論、革命論の全体を理解するうえでも不可欠であり、新版『資本論』は、私たちがマルクスのこの畢生の大著を理解するうえで、大きな意義をもつものと確信をもって言いたいと思います。

 そのほかにも、後でお話があると思いますが、マルクスが未来社会論の核心部分を語った論述について、しかるべき位置に移し、その意義が明瞭になるようにするなど、新版『資本論』のもつ意義は、きわめて大きなものがあります。

 ぜひマルクスを学び、研究し、社会進歩の事業に役立てていこうと志す多くの方々が、新版『資本論』を手にとって、活用していただくことを強く願い、あいさつといたします。ありがとうございました。

(しい・かずお)

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