現場Note

インボイス反対など新しいたたかい、新しいつながり

大串昌義(国民運動部記者)

大串昌義(国民運動部記者)

 国民運動部は、大手紙にはない部署です。労働組合、反核・平和団体、中小業者・農民団体の運動、たたかいを取材対象にしています。私は民主商工会・全国商工団体連合会などの中小業者の運動を担当しています。

 私の父はデザイン事務所の個人事業主でした。チラシの広告や建築パース、時にはJRのヘッドマークを創作していました。家には昔から「しんぶん赤旗」日曜版と全国商工新聞がありました。

 後を継げといわれたこともなければ絵の才能も全くありません。それでも自営業者の家族、資金繰りの苦労を間近で見てきた者として、中小業者を担当しているのは何かの縁だと感じます。現在、消費税のインボイス(適格請求書)制度反対運動を取材しています。

政治のひどさと光

 「一人ひとりの力でオンライン署名国内史上最多の55万になりました。その思いがあって、首相秘書に署名を手渡せたと思います。岸田文雄首相の背中をジャンジャン押して、ストップ・インボイスを実現させましょう」

 消費税のインボイス制度が始まった直後、フリーランスのライター、阿部伸さんがSNSの音声配信で語った言葉です。

 中小業者やフリーランス、個人事業主が声を上げる姿を2年近く追ってきました。見えたのは、自民党による弱い者いじめ、コロナ禍と物価高騰にあえぐ国民生活や地域経済、多様な文化を疲弊させるインボイスを強行した政治のひどさです。

 一方で光も見えました。商工業者や農家、建設業者、フリーランスの請願・陳情運動です。中止・延期を求める意見書は全自治体の2割に上ります。

 「右」も「左」も関係なくインボイス反対の一点で運動が急速に広がっています。これを国民的運動へ、そして消費税減税・廃止を全国民的たたかいにしたい。私が取材を続ける思いです。

「地獄の二者択一」

 「税金の問題は難しい」と避けられがちです。しかし、無関心であっても無関係ではいられません。

 消費税のインボイス制度とは、適格請求書がなければ仕入れにかかる消費税を、売り上げにかかる消費税から差し引くことができなくなる制度です。

 年間売り上げ1000万円以下の小規模事業者は、インボイス登録をして課税事業者になるか、免税事業者のまま値引きや取引の中止を強要されるかの「地獄の二者択一」を迫られます。インボイス導入で一番苦しむのは、所得の少ない人たちです。財務省の試算でも、年間利益154万円の免税事業者が課税事業者になったら15万円もの増税、約1割の利益がとんでしまいます。

 声優、アニメ、漫画、演劇業界の「2~3割が廃業を検討」「廃業するのは20~30代の若手」との調査結果が明らかになっています。

 日本の全企業数の99・7%、雇用の7割近くを占める中小企業が影響を受けます。にもかかわらず制度の理解が進んでいません。10月1日の制度開始以降、国税庁は186ページものQ&Aを更新しました。「心が折れる」というSNSの投稿も見られます。

 国のねらいは多段階の消費税率をつくって増税のレールを敷くことです。インボイス実施が、米国言いなりの43兆円もの大軍拡と同時であることも見過ごせません。

「赤旗」報道の独壇場

 前出の阿部さんら「インボイス制度を考えるフリーランスの会」(STOP!インボイス)が呼びかけるオンライン署名に、9月だけで18万人以上が賛同しました。大手メディアも署名提出、官邸前行動を報道せざるを得なくなりました。

 しかし報道には大きな欠陥があります。インボイスの影響を一部の業界に矮小化し、〝中小業者が国に納めるべき消費税を懐に入れている〟という「益税」論の立場だからです。

 「しんぶん赤旗」は、34年前の導入から一貫して消費税に反対してきました。それは、小さいながらも商売を続け、地域経済を支える町の小売店、世界に冠たるアニメを手掛ける作家を苦境に陥れるからです。2年前活動を開始したSTOP!インボイスを当初から報道したのは、業界紙を除く全国紙では赤旗だけ。独壇場でした。

 「脱税したいんだろう」という誹謗中傷が後を絶ちません。商売の実態を見れば、そんな言葉は出ないはずです。メディアは事実を正確に伝える報道機関としての役割を発揮すべきです。

「政治は変えられる」

 この間、その道を究めるフリーランスの人たちと新たなつながりが生まれています。

 一人は東京都品川区のCGクリエーター、ブンサダカさんです。ロックバンド「BOØWY」のジャケットをプロデュースした経歴の持ち主です。

 7月の区議会で、延期請願採択に向けて各会派に要請したというので、取材を申し込みました。

 映像の仕事が建設業界のような下請け構造のもと、現状でも低報酬、長時間労働だと話してくれました。

 会話のトーンが明るくなったのはその後でした。「岸田首相は国民の声を聞かないんだという信念のもとに総理大臣になっている。しかし(共産党の)各区議は真剣に話してくれる。ここに逆転が潜んでいるのではないか」

 インボイス推進の立場を主張した会派、請願不採択の会派決定に反して採択に回ったり棄権したりした議員、「他党に要請の貴重な時間を使ってほしい。絶対にブンさんの味方をするから」と言った日本共産党区議団のことなど情感豊かに語りました。「共産党の意見もSNSで拡散したい」と言っていたブンさん。後日、小池晃書記局長との懇談が実現しました。

 彼は、6月のSTOP!インボイス国会前行動と署名の広がりに突き動かされたと言います。7月議会の請願は不採択でしたが、地方議会から国政は変えられると手ごたえを感じています。「『どうせ言っても無駄でしょ』ではなく『もしかしたら変えられるかもしれない』。可能性があれば動いた方がいい」

 ブンさんたち各地で立ち上がるフリーランスを紹介してくれた、STOP!インボイス発起人でライター・編集者の小泉なつみさんは、インボイスの矛盾を社会に問います。

 特に印象的なのは、制度開始直前の官邸前行動で「次の選挙で、私たちの手で私たちの政治をつくっていきましょう」と訴えたことです。与党支持者も巻き込んだインボイス反対の運動が、消費税の根本矛盾にぶつかり、政治変革へと発展しています。インボイス廃止まで署名を続けると言います。次の目標は100万、「赤旗」も達成へ貢献します。

信念を貫ける仕事

 国政では日本共産党と立憲民主党、れいわ新選組、社民党の4野党が2022年6月、消費税減税・インボイス中止法案を衆院に共同提出し、インボイス問題検討・超党派議員連盟ができています。

 日本共産党は23年9月に発表した経済再生プランで、小規模事業者やフリーランスのみならず、すべての国民にかかわる大問題だとして、インボイス中止、消費税廃止をめざし緊急に5%に減税を呼びかけています。

 私は赤旗編集局に入局する前、04~08年の4年ほど民間企業に勤めていました。その当時「企業が栄えれば、いずれ給料も上がるだろう」と思っていました。しかし先進国で唯一、「賃金が上がらない国」となっているのは30年間の歴史が証明しています。

 また当時の上司から他の社員の前で罵倒されたり、陰口をたたかれたりして、尊厳を傷つけられました。ハラスメントをなくしたいと心に決め、赤旗記者になりました。

 赤旗記者の魅力は、国民の切実な声を全国に届け、日本共産党の機関紙として政治のゆがみをただせることです。民間企業でのつらい経験を忘れず、信念を貫ける仕事だと誇りに思っています。

 赤旗記者をめざす人へ。大軍拡関連の悪法が次々と成立する国会に絶望することもあると思います。そういう時に私は、沖縄人民党(のちに日本共産党に合流)の瀬長亀次郎の「弾圧は抵抗を呼ぶ 抵抗は友を呼ぶ」という言葉を思い起こします。一緒に社会を前に進めましょう。

(おおぐし・まさよし)

『前衛』2023年12月号から