現場Note

的確さ、読みやすさを追い求め日々格闘

丹野桂(整理部)

丹野 桂(整理部記者)

時間との勝負

 「世の中の恐ろしいもの」を順番に並べた「地震・雷・火事・親父」という言い回しがあります。今日ではジェンダーの観点から「親父」はふさわしくないと思いますがそれはさておき、自然災害は多くの被害と影響をもたらします。紙面制作の最終工程を担う整理部にとっては、台風・大雨・大雪があれば輸送の安全を確保するため締め切り時間は繰り上がり、地震が起きれば紙面レイアウトの大幅な変更を余儀なくされます。

 2023年5月26日の午後7時頃。千葉県東方沖を震源とする最大震度5弱の地震が発生。東京もかなりの揺れを観測しました。

 「震源どこだ!?」「震度何!?」「7時とか微妙な時間だなあ!1面突っ込める!?」「社会面には突っ込むよ!」

 そして館内放送、携帯電話、テレビで一斉に鳴り響く警報に「うるせえな‼」

 整理部が忙しいのは夕方5時から夜9時。そこにレイアウトの変更を意味する大きな地震。非常に焦ります。緊急地震速報にまで怒号が飛びます。「赤旗」読者のみなさんに新聞を必ずお届けするため、印刷・輸送から逆算した工程時間が決められています。降版(全国の印刷所への紙面データ送信)を遅らせるわけにはいきません。とっさのレイアウト変更に対応する腕と見出しをつける判断の早さが求められます。整理は毎日が時間との勝負です。

読み、唸り、捻りだし

 改めて整理部の仕事について紹介させていただきます。記事・写真などの原稿は、各記者の所属部署を経てすべての整理部に集められます。編集センターと整理部のデスクは、それらの原稿を価値判断し、各面に割り振ります。各面担当の整理記者(略して「面担」と呼ばれます)は原稿を読み、見出しをつけ、紙面として読める形にレイアウトします。新聞記事を整理していくから整理部です。

 見出しは「読むもの」ではなく「見るもの」として、読者が目にした時すぐに理解できるように、簡潔かつ的確なものが求められます。長い文字数より短い文字数が望ましく、その記事を表すのに最低限必要な情報は何か取捨選択します。定型見出しの文字数は大きいサイズの主見出しは9文字以内、小さいサイズの袖見出しは12字以内とされています。この文字数に収まりつつ、かつ的外れでない見出しをつけるために整理記者は記事を深く読み込み、唸り、捻り出します。この見出しの段数が大きければ大きいほど価値ある記事となります。

組木パズルのように

 レイアウトでは「赤旗」独自の特集や論評、ちょっとした話題ものの記事などは「囲み記事」にし、見出しに工夫を加えたり記事を横組みにするなど、紙面全体を見た時「この記事は他と違うな」と見せるための工夫が必要です。他にも畳む、他の記事と共に上から下へ流すなど、どの記事をどのように扱ったかは整理記者だけでなく新聞編集局の価値判断を表します。

 価値判断を間違えれば紙面はたちまち崩れ、破綻します。的確な見出し、適切なレイアウト、そして何より読者にとって読みやすいかが問われます。「新聞記事を生かすも殺すも整理次第」と言われるゆえんです。

 限られた時間の中、何度も頭を抱え、時にあまりのままならなさに叫びたくなります。見出しでは国名など略しようもない主語があるなら、述語・動詞で他にどこを略せるか、記事中にはないが言い換え可能な言葉はないか格闘します。レイアウトはせっかく一部分が決まっても他の記事との兼ね合いで作り直す、組み木パズルの形作りと当てはめを同時に行うような難しさがあります。

ゼミ担任の先生の言葉が...

 日々的確な見出しをつける日本語能力、読みやすいレイアウトの紙面研究、正確な価値判断をするための情勢把握など求められることは数多くありますが、私にとっては整理の仕事は学生時代学んだことを活かせる仕事なので、配属されてよかったなと今では思います。

 私は芸術系の大学で版画専攻に所属していました。ゼミ担任の先生から進路面談の際に「新聞のレイアウトの仕事が向いているのではないか」と助言をもらい、党員である母に伝えると赤旗記者募集を教えてもらいました。その後日本共産党に入党し、しんぶん赤旗編集局に見学へ行きました。

 案内で過去刊行された「赤旗」の縮刷版を書庫で見せてもらい、そこで戦後間もない頃に発行された紙面の中から「姑も辛いよ」という見出しを見つけました。この時「新聞はその時生きる人たちの声を記録するものなのだ」と、はっとさせられました。

 当時私は写真の記録性に魅力を感じて風景を中心に撮影していました。また、土門拳さんの著書『死ぬことと生きること』の中にある「悪意をもってカメラを向けることがあってはならない」という言葉を信念に行動するにはどうしたらいいのか考えていました。

 「しんぶん赤旗」がかつて「赤旗」と名乗り、弾圧を受ける中、命懸けで発行していたこと。戦後やっと堂々と刊行できるようになり、政治とカネの問題はじめ忖度しない報道を続けてきたこと。人々のたたかいを記録していくこと。記録は歴史となり、未来へ進むための足がかりになります。新聞はまさに後世の人の足元を照らす灯火になり、「赤旗」なら悪意ある写真掲載や報道はしないと思い、私は入局を決意しました。

 筆記試験と面接を受け、採用が決まり、まさかの整理部の配属で驚きました。確かに希望部署で整理部と記入しましたが、安直に大学でやってきたことを活かせると考えて写真部を第1希望と書いていたからです。後で人事の方に理由を聞くと「ゼミ担任の先生が『新聞のレイアウトに向いている』と言っていたから」。まさか先生の言葉がこんなにも影響するとは思いませんでした。

 しかし、実際に整理部で働いてみると、先生の言った通り整理の仕事で正解だったと感じることが多くありました。先述のとおり、整理部は紙面を制作し印刷データを作る最後の関門です。印刷所との連絡も頻繁に行うため、ある程度印刷に関する知識が必要です。例えば降版直後にカラー面でミスが見つかったとします。新聞はオフセット印刷と呼ばれるCMYK(シアン、マゼンダ、イエロー、ブラック)の4色の版から成り立っているので、普通の見出しや記事中のミスであれば黒いインクをのせるK版だけ差し替え、写真や色のついた見出しならCMYの版も差し替えとなります。差し替えは一度作られた版の廃棄を意味します。木版画やリトグラフの経験者としては、CMYKの意味と、版の廃棄が資源とお金、労力の損失であることはよくわかるので、ミスは出さないように心がけたいものです。版画経験者で政治・社会問題に関心のある人は整理の仕事に向いているかもしれません。

 赤旗編集局で働いて2年が経ちました。整理部は夕食時間の確保が難しいことが今一番の不満ですが、国民に寄り添う、誠実な新聞を作るために働くことは誇りを持てます。日本共産党は「国民の苦難軽減」を理念に活動し、政党機関紙である赤旗もその理念を持って発行しています。不条理に立ち向かう人のたたかいを常に記録します。このたたかいを忘れないように伝えたい、そのために筆を取りたい、という人を私たちは歓迎します。一緒に誠実な新聞を作りませんか。(たんの・かつら)

『前衛』2023年11月号から