現場Note

市民とともにつくるスクープ──大阪カジノ用地〝不当鑑定疑惑〟追及1年

本田祐典(日曜版編集部記者)

本田祐典(日曜版編集部記者)

 ものごとを深く調べ、まだ誰も知らない事実を暴露し、市民とともに社会を動かす。これが、私が感じている調査報道のやりがい、おもしろさです。

カジノ業者の優遇を調査

 私は赤旗日曜版編集部で、大阪維新の会が経済政策の目玉とする「大阪カジノ(IR)」の取材を担当しています。

 カジノに税金を1円も使わないと宣伝していた大阪維新は昨春、カジノ業者が求めるIR用地の土地課題対策に巨額の公金投入(上限788億円)を決めました。このことを契機に、市民生活をないがしろにしてカジノ業者にすがりつく維新府政・市政の取材を始めました。

 とくに、IR用地の賃料を格安にした〝不当鑑定・評価額談合疑惑〟を昨年10月から計15回にわたって報じてきました(今年10月末時点)。カジノ業者が支払う用地賃料を安くすることで、実質的な補助金・利益供与になっている疑惑です。

 この疑惑を横山英幸大阪市長や松井一郎前市長、吉村洋文大阪府知事らは打ち消すことができず、赤旗が報じるたびに会見で釈明に追われてきました。

 今年4月には、市民10人が赤旗報道をもとに大阪市を提訴(カジノ格安賃料差止訴訟)。原告団長の藤永延代さんは「市民の財産を格安でカジノ業者に貸すことは許されない。裁判に勝って、大阪カジノを止める」と語っています。

 1年にわたる追及で疑惑はどこまで解明されたのか、なぜスクープできたのか報告します。

維新市政の疑惑あばく

 疑惑の舞台は、大阪湾の人工島・夢洲内にあるIR用地約49㌶です。夢洲を造成した大阪市が、米MGM日本法人とオリックスなどが出資する大阪IR株式会社(=カジノ業者)に貸し出します。

 問題は、賃料を不当な土地鑑定で格安にし、郊外のショッピングセンター用地並み(年約25億円、月額428円/㎡)にしていることです。

 追及のはじまりは、昨年10月2日号のスクープ「大阪維新市政に新疑惑/カジノ用地賃料大値引き」でした。印刷が始まった同9月28日、スクープ予告をツイッター(当時、現X)に投稿すると、4000件超の再投稿を得て拡散し、50万回超表示されました。

 〈【スクープ】大阪カジノの用地賃料を市が不当に安くした新疑惑

賃料の根拠とした不動産鑑定評価額は、なんと3業者でピタリ一致

専門家は「偶然の一致はない。〝評価額談合〟で賃料を安くした」と指摘し、妥当な賃料より年15億円過少だと試算

当初35年間で500億円超の優遇に〉

 それから1年、疑惑を裏付ける証拠が次つぎと出てきました。「評価額談合」「格安賃料」「予定額が存在」「市が価格提示」「ミスまで一致」などです。

 「評価額談合」=大阪市が2019年にIR用地の鑑定を依頼した業者4社中3社の評価額が完全一致(土地価格12万円/㎡、賃料算定に使う利回り4・3%、月額賃料428円/㎡)。21年の鑑定でも3社中2社がほぼ同額。

 「格安賃料」=鑑定業者4社ともショッピングセンター用地として評価。IR用地に面する新駅(夢洲駅)を無視し、約3・5㌔離れた隣駅を最寄りとした。

 「予定額が存在」=鑑定前の19年4月、市がカジノ業者にIR用地の参考価格(土地価格12万円/㎡)を提示。当時の松井市長が市戦略会議で「(鑑定も)ほぼこの価格なのか」と確認し、市港湾局長が「そうだ」と回答。

 「市が価格提示」=19年の鑑定中に予定額を尋ねる調査票を市が業者4社に送り、回答欄の隣に土地価格12万円/㎡を示していた。

 「ミスまで一致」=市が賃料の最終的な根拠とした2社の鑑定評価書(計4通)に、まったく同じ算定ミス。評価額算定の基礎とした取引事例の価格を取り違え、すべて欠陥品に。

市が公文書隠し謝罪

 追及を続けるなかで、大阪市が赤旗に謝罪する場面もありました。私が昨年11月に情報公開請求した文書を開示せず、請求後にこっそり廃棄した〝公文書隠蔽〟が発覚したからです。

 隠していたのは、市と鑑定業者などが交わしたメール198通。このなかに、市が鑑定中に「土地価格12万円/㎡」を提示した証拠もありました。赤旗に渡せば追及されると恐れ、「不存在」とウソをついたのです。

 今年7月7日、謝罪と説明を受けるため大阪港湾局を訪ねました。私が「請求を知りながら(メールを)消したのか」と聞くと、同局の田邊朝雄・営業推進室長は「知ったうえで(担当職員が)消しにいった」と認めました。その後、同14日にメールの複写データが部分的に公開されました。

党内外の知恵を集める

 「なぜ、スクープできたのか」「スクープが続くのか」と在阪メディアの記者から聞かれます。その答えは、多くの人と力を合わせて記事をつくっているからです。

 赤旗の強みは、市民の運動、専門家の知見、地元党組織・議員の活動を結び付け、その総力で記事をつくることです。これは、ジャーナリズムの新潮流として注目されている〝市民とともに、市民とつくる〟報道の取り組み「エンゲージド・ジャーナリズム」と多くの共通点があります。赤旗は伝統的にこのことを続けてきたメディアだと私は思っています。

 まず、用地賃料に疑いの目を向けることができたのは、大阪カジノを監視してきた市民運動や日本共産党大阪府委員会の活動があったからです。

 カジノに反対する大阪連絡会の中山直和事務局次長が収集した公文書のなかに、IR用地の賃料を「イオンモール見合い」とする記載がありました。これをもとに「なぜ安いのか」と中山さんやカジノ問題を考える大阪ネットワークの桜田照雄代表(阪南大教授)、党府カジノ万博プロジェクトチーム責任者のたつみコータローさん(元参院議員、衆院近畿比例予定候補)らと議論しました。

 スクープ第1弾は、宮本岳志衆院議員との合同調査によるものです。宮本さんは、国有地を不当に安く払い下げた「森友学園事件」を国会で追及した経験から不動産鑑定評価に関する知識があり、重大な疑惑だとすぐ見抜きました。

 スクープを連打できるのは、多くの専門家による継続的な支援があるからです。そのうちの一つ、匿名で協力する不動産鑑定士らのグループチャット(オンライン上でメッセージを交わすグループ)では、赤旗が入手した公文書を集団で分析し、スクープが次つぎ生まれています。

 スクープ後も、多くの人がリレーのように疑惑追及をすすめてきました。井上浩市議が議会質問(昨年10月)→宮本岳志衆院議員が国会質問(昨年10月)→山中智子市議が議会質問(昨年11月)→大阪の毎日放送(MBS)が「賃料を優遇か」と報道(昨年12月)→市民97人が市に住民監査請求(今年1月)→監査請求した市民の代表10人が市を提訴(今年4月)...。

 訴訟では原告とともに、自由法曹団大阪支部の団員10人でつくる弁護団(長野真一郎団長)が格安賃料の違法性を追及しています。

〝追及する意思〟への信頼

 カジノに反対する大阪連絡会の中山さんは「カジノ中止の署名を集めて国と交渉を重ね続けた運動のなかで、赤旗のスクープが生まれた。スクープと市民運動が互いにはげましあっている」といいます。こうした信頼関係を築きながら記事を書けることが喜びです。

 他のメディアではなく、赤旗が多くの人とつながることができるのはなぜか。追及キャンペーンの担当デスクを務めた山本豊彦・日曜版編集長は、その理由に「赤旗の〝追及する意思〟」をあげます。忖度せず、委縮せず、追及し続ける赤旗だから信頼を得ることができるのだと。

 他方、在阪メディアの多くは、大阪カジノの疑惑を報じにくいという困難を抱えています。ある記者は「維新批判は高リスクだからと、原稿が社内をたらいまわし」といいます。別の記者は今年4月の統一地方選前、「投票日前に報道したら反維新勢力に味方したことになる。いまは報じない」と話しました。

 私たち赤旗記者は、強いものに委縮するメディアとは正反対のところに立つことができます。だから、赤旗記者は楽しい。ひるまず報じ続ければ、たたかう仲間の輪が広がっていきます。

(ほんだ・ゆうすけ)

『前衛』2023年12月号から