現場Note

なぜ統一協会追及、学術会議任命拒否のスクープができたのか

三浦 誠(社会部長)

三浦 誠(社会部長)

 参議院選挙の投票日を2日後に控えた2022年7月8日。奈良市内で遊説中の安倍晋三元首相が銃撃され、死亡するという衝撃の事件が起きました。逮捕された山上徹也被告=殺人罪などで起訴=の母親が統一協会(世界平和統一家庭連合)の信者だったという情報が流れ始めると、「しんぶん赤旗」のホームページにある異変が起きました。約1年前の21年9月18日付で掲載した記事にアクセスが集中したのです。それは安倍氏が、統一協会系の団体が韓国で開いた集会にビデオメッセージを贈っていたことを特報した記事です。メッセージで安倍氏は統一協会のトップでもある韓鶴子総裁に「敬意を表します」と述べていました。韓鶴子総裁は、協会の開祖文鮮明(12年に死去)の妻です。記事のページビューは、事件直後から1週間で約25万にのぼりました。

60年代から統一協会を追及

 ジャーナリストの鈴木エイトさんによると、報道したのは「赤旗」と鈴木さんが書いた雑誌系3社だけでした。全国紙、テレビといった大手メディアは、いっさい報道しませんでした。ここに「赤旗」と大手メディアの姿勢の違いが端的に表れています。統一協会は被害救済活動をする弁護士らや批判的に報じるメディアに対して、信者に無言電話をかけさせるなど嫌がらせや脅迫をしてきました。このため、大手メディアのなかには報道を萎縮する傾向がありました。そんな中で「赤旗」は1960年代から統一協会の追及を続けています。

信者2世の苦悩と救済を後押し

 安倍氏銃撃事件後には、社会部統一協会取材班を立ち上げ、いくつものスクープを出してきました。取材で重視したのは政界との癒着を暴くこと、そして信仰や活動を強要されてきた信者2世の苦悩を取り上げ救済の後押しをすることです。信者2世の苦悩はとくに重視して取材に取り組みました。親が高額献金をするために子どものころから満足に食事ができない、子どもの奨学金が家族の生活費に使われる、親や協会から好きでもない人との集団結婚を強要される......。取材班は、信者2世に対する人権侵害の実態を取材し報じていきました。ある信者2世はこんなメッセージをくれました。「赤旗さんは長年、旧統一教会から『サタンのメディア』と言われてバッシングされ続けていると思います。中には酷い誹謗中傷もありますが、粘り強く報道をしてくださる姿勢を応援している2世も多いです。私も応援しています!」

政権を揺るがす大スクープを連続

 ここ数年「赤旗」は、政権を揺るがす大スクープを連続して出しています。「赤旗」日曜版の「桜を見る会」追及と、「赤旗」日刊紙が特報した菅義偉首相(当時)による日本学術会議の会員候補の任命拒否です。

 2021年10月1日付で掲載した学術会議会員任命拒否のスクープは、会員候補だった学者の一人がSNSで任命拒否されたとつぶやいたことをキャッチし、取材を開始しました。菅氏は官房長官時代から意に沿わない官僚を左遷するなど強権的な人事をすることで有名です。取材にあたって社会部員に「菅首相の強権的人事が表に出てきた。この任命拒否は首相に就任したばかりの菅氏の正体をあばくものになる」と伝えました。同時に、SNSで公表されているのですから、「すぐに取材して掲載しないと、『特オチ』になる」とも言いました。

 ところが翌日、紙面に出したのは「赤旗」だけでした。後に聞いた情報では「赤旗」と同じ日にSNSに気付いた一般紙の記者はいたそうです。ただ、これを重大問題として、とらえて追及しきる視点が弱かったのではないでしょうか。後に複数のメディア関係者から「学術会議問題では『赤旗』の感度が高かった」との評価が寄せられました。このスクープは日本ジャーナリスト会議からJCJ賞を受賞しました。日曜版による「桜を見る会」のスクープも前年にJCJ大賞を受賞しており、2年連続の快挙でした。

権力を監視し、追及する強い意志

 「赤旗」がスクープを連発できるのは権力を監視し、追及する強い意志があるからです。学術会議の任命拒否が発覚した当時は菅氏の首相就任直後で、メディアが政権批判を控える傾向があるとされる「ハネムーン期間」でした。実際に各メディアは自民党総裁選のときから「パンケーキ好きの令和おじさん」と持ち上げ、庶民派であるかのようなイメージを流布していました。そのなかで「赤旗」は、菅首相の〝本性〟を事実で指摘したのです。

 私たちの取材に協力してくれるのは、与党関係者、官僚、大企業の幹部と多岐に渡ります。2022年に亡くなった東京電力元社長の南直樹氏は、東電福島第1原発の事故後、私の取材に定期的に応じてくれました。最初に取材したときはまだ現職の東電顧問。本社そばにあったビルの顧問室でインタビューしました。南氏は事故を起こしたことを深く後悔しており、「人災だった」と語りました。「不破哲三さん(党前議長)の原子力に対する見識は深い。今度本を持ってきてくれ」と頼まれたこともあります。

 日本共産党とは接点がないように見える方たちがなぜ協力してくれるのか。日本共産党は規約で「党は、創立以来の『国民が主人公』の信条に立ち、つねに国民の切実な利益の実現と社会進歩の促進のためにたたかい、日本社会のなかで不屈の先進的な役割をはたすことを、自らの責務として自覚している。終局の目標として、人間による人間の搾取もなく、抑圧も戦争もない、真に平等で自由な人間関係からなる共同社会の実現をめざす」と掲げています。この規約に基づいた日常活動を通じて党組織、党議員、党員が、市民の皆さんから「筋を通す」「嘘をつかず、まじめだ」といった信頼を得ています。この信頼があるからこそ、多くの方が取材に協力してくれるのです。

企業献金も政党助成金も受け取らない

 「赤旗」が信頼されるポイントがもう一つあります。日本共産党が企業・団体献金と政党助成金を受け取っていないということです。企業・団体献金は本質的に賄賂性を持ちます。大企業から献金を受け取れば、徹底した追及ができなくなります。逆に言えば、それを拒否している「赤旗」には、大企業の「圧力」が利きません。党費、個人献金、「赤旗」などの機関紙誌代という党員、支持者、読者の協力があるからこそ、国から出る政党助成金を受け取らないからこそ、国家権力・大企業の不正、腐敗を追及できます。大手メディアには決して真似ができない「赤旗」の優位性です。この伝統を継ぎ、新たな地平を開拓していく若い人たちに期待しています。

 (みうら・まこと)

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チリ・標高5000メートルのアタカマ砂漠で。世界最大のアルマ電波望遠鏡の取材=2017年11月