「赤旗」がなぜ、JCJ大賞を受賞できたのか
赤旗日曜版編集長 山本豊彦
「赤旗」日曜版編集部による「桜を見る会」私物化疑惑スクープと一連の報道が、2020年のJCJ大賞を受賞しました。
〝国政、メディアに大きなインパクトを与えた〟
同賞は、日本ジャーナリスト会議が1958年以降、年間の優れたジャーナリズム活動や作品に贈っているものです。63回目となる今回は、JCJ賞として「森友問題で自殺した財務省職員の遺書の公開」(赤木雅子、相澤冬樹)など4点も選ばれました。
同会議は「再び戦争のためにペン、カメラ、マイクを取らない」を合い言葉に、1955年から活動を続けているジャーナリストの統一組織です。
「赤旗」は近年では14年に「『ブラック企業』を社会問題化させた一連の追及キャンペーン報道」(日曜版編集部)、18年に「米の核削減、日本が反対 核弾頭の最新鋭化も促す」(政治部、外信部)で、JCJ賞を受賞しています。大賞の受賞は今回が初めてです。受賞理由を紹介します。
「しんぶん赤旗日曜版は2019年10月13日号で、桜を見る会に首相の地元山口の数百人の後援会員を大量招待していた事実をスクープした。参加者の証言をもとに、安倍事務所が取り仕切り、高級ホテルで開いた前夜祭に山口の参加者を招待、税金でもてなした疑惑を告発。政権与党にも招待数を割り当てていた実態を明らかにした。この記事を契機に田村智子参院議員が国会で追及し、『桜』疑惑が一気に国政の重大課題に浮上。地道な調査報道を重ね、安倍政権の本性を明るみにしたスクープは国政、メディアに大きなインパクトを与えた」
日本共産党の機関紙だからこそ
受賞後、何人かから同じような質問を受けました。「なぜ、大手メディアではなく、政党機関紙の『赤旗』がスクープできたのか」。私はそのたびにこう答えています。「日本共産党の機関紙だからこそ、スクープできたのですよ」。そのことをいくつかの点からみてみます。
[視点──首相の国政「私物化」の重大疑惑]
最初は、メディアの視点の問題です。
桜を見る会は、各界で功績、功労があった方々を招待して毎春、東京・新宿御苑で開かれている首相主催の公的行事です。
第2次安倍政権発足後の13年以降、1万人前後だった参加者は増え続け、19年4月13日の桜を見る会には1万8200人が参加。18年には予算の3倍の5229万円が支出され、国会でも大問題になりました。
大賞を受賞した日曜版(19年10月13日号)のスクープ記事の冒頭を紹介します。
「各界の功労者などを招待するとして、多額の税金を使って開かれている安倍晋三首相主催の『桜を見る会』。本来の目的に反し、首相の地元後援会関係者が数百人規模で大量に招待されていたことが編集部の取材でわかりました。参加窓口は首相の地元事務所。後援会旅行の〝目玉〟に位置付けられていました。行政がゆがめられ、特別の便宜が図られた、首相の国政私物化疑惑を追います」
日曜版スクープの核心は、参加者や予算が膨張しているという桜を見る会の問題を、首相による国政「私物化」の重大疑惑として告発した点にあります。
今回の疑惑は、密室の中の、限られた人しか知らないようなものではありません。桜を見る会に安倍氏の地元・山口県から大量の後援会員が参加していたことや、前の晩に「前夜祭」までやっていたことは、政界や大手メディアの関係者なら「だれもが知っている常識」(自民党幹部)でした。知らなかったのは、桜を見る会に「ご招待」されていなかった赤旗記者ぐらいだったのです。
大手紙の「首相動静」にも、19年4月13日の桜を見る会で、安倍首相夫妻が後援会関係者と写真撮影をおこなっていたことや、前日の12日に高級ホテルで前夜祭を開いていたことが載っています。
「【午前】7時48分、東京・内藤町の新宿御苑。49分、昭恵夫人とともに警視庁幹部、前田晋太郎山口県下関市長、地元の後援会関係者らと写真撮影」(「朝日」19年4月14日付)
「【午後】6時33分、東京・紀尾井町のホテルニューオータニ。宴会場『鶴の間』で昭恵夫人とともに『安倍晋三後援会 桜を見る会前夜祭』に出席」(同13日付)
桜を見る会に参加した時の様子について藤井律子・山口県周南市長(当時、山口県議)はブログにこう書いていました。(問題発覚後に削除)
「(片山さつき元地方創生担当相から)『今日は、山口県からたくさんの人が来てくださっているわね〜。10メートル歩いたら、山口県の人に出会うわよ!』と、いつものように元気よくお声をかけていただきました」(18年5月8日)
法政大学キャリアデザイン学部の上西充子教授は指摘します。
「『桜を見る会』の会場で取材していた大手メディアは、安倍首相による『私物化』の実態を知っていたはずです。ところが問題視しませんでした。大手メディアの記者たちにとって、安倍首相による『私物化』は当たり前のことだったのかもしれません。『赤旗』日曜版が違ったのは、この問題を安倍政権による『私物化』の問題だととらえ、報じるべきだと考えたことです。漫然と取材をしているだけでは、こうした問題意識を持つことはできません。『私物化は安倍政権の本質』と見極めたその着眼点が、JCJ大賞として評価されたのだと思います」(日曜版20年9月13日号)
大手メディアも自戒を込めて書いています。「『桜を見る会』は、それまでも予算や出席者の増加が報道でたびたび話題になっていた。招待された芸能人の画像がSNS上にアップされる会のありように私も違和感を抱いていたが、公的行事の『私物化』というところまで思いが至らなかった」(「朝日」1月8日付夕刊)
日本共産党は20年1月の第28回大会の第1決議(政治任務)は、安倍政権の暴政の1つとしてこう指摘しました。「強権とウソと偽りと忖度の、究極のモラル破壊の政治」
小池晃書記局長は第1決議案についての報告で「『桜を見る会』の問題には、国政の私物化、情報の隠ぺいなど、あらゆる政治モラルの崩壊が凝縮され、国民の怒りが沸騰しています」とのべています。
日本共産党の機関紙だからこそ、桜を見る会疑惑を公的行事の私物化として見ることができたのです。
[ネットワーク──地方議員、支部、読者、党員]
2つ目は、全国各地域に広がる日本共産党のネットワークの力です。
桜を見る会に、安倍氏の地元・山口の後援会関係者が多数、参加していることは、すぐ確認できました。インターネット上に、桜を見る会参加者の書いたブログがあったからです。14年の桜を見る会に参加した友田有・自民党山口県議のブログもその1つ。一部を引用します。
「今回は私の後援会女性部の7名の会員の方と同行しました。前日の早朝に飛行機で上京して、貸切バスで東京スカイツリーや築地市場など都内観光をしました。その夜には、ANAインターコンチネンタルホテルの大広間において、下関市・長門市そして山口県内外からの招待客約400人による安倍首相夫婦を囲んだ盛大なパーティーが開かれました」「次の日、まさに春爛漫の快晴の中、新宿御苑において『桜を見る会』が開催されました。早朝7時30分にホテルを出発し貸切りバスで新宿御苑に向かい、到着するとすぐに安倍首相夫妻との写真撮影会が満開の八重桜の下で行われました」「会場内の各所では簡単なオードブルや飲み物が置いてあり、充分に楽しむ事が出来ました」「安倍首相には長く政権を続けてもらい、今後もずっと『桜を見る会』に下関の皆さんを招いていただきたいと思い新宿御苑をあとにしました」(問題発覚後に削除)
問題は、安倍事務所がどう関与していたのかの裏付けです。そのためには安倍氏の地元に入り、桜を見る会に参加した後援会関係者から話を聞き、〝証拠〟を集めることが必要です。
取材対象となる後援会関係者の多くは自民党支持者。赤旗記者にそう簡単に話をしません。大きな力となったのが、全国各地に広がる日本共産党のネットワークです。
日本共産党の全国の地方議員数は2641人(20年9月1日現在、うち1001人は女性議員)。日本共産党の支部は全国に1万8000あり、小学校数に匹敵します。「赤旗」読者も約100万人います。
党の地方議員や支部のみなさんは、地域に根を張り、さまざまな活動を通じて保守の方々とも一定の信頼関係を築いています。その紹介があったからこそ、安倍後援会の関係者も「真実を明らかにするため」と政治的立場を超え、私たちの取材に応じてくれたと思います。この勇気ある証言がなければスクープを出すこともできませんでした。
[論戦力と市民と野党の共闘]
3つ目は、日本共産党国会議員団の論戦力と、市民と野党の共闘の力です。
桜を見る会の私物化疑惑はすぐに国政の大問題に浮上したわけではありません。国政の大問題に押し上げたのは、「赤旗」と日本共産党国会議員団、市民と野党の共闘の力です。
そもそも安倍政権のもとで桜を見る会の参加者や経費が急増している問題を追及したのは日本共産党の宮本徹議員でした(19年5月13日、衆院決算行政監視委員会など)。日曜版が私物化疑惑をスクープしても当初、大手メディアは、後追いしませんでした。日曜版報道をもとに日本共産党の田村智子副委員長が参院予算委員会(同年11月8日)で追及。インターネットでその動画が拡散しました。
それでも大手メディアは大きく報じませんでした。
田村質問から3日後の同11日、野党(維新を除く)による「『桜を見る会』追及チーム」が発足しました。これを機にテレビのワイドショーがいっせいに取り上げ、新聞も大きく報じ始めました。
日本共産党の大門実紀史参院議員も悪徳マルチ会社「ジャパンライフ」元会長の招待問題を暴露。国会内での野党共闘が広がる中、安倍首相は2重3重に「詰み」の状態に追い込まれました。その結果、安倍氏は首相の辞任表明をしたのです。
追及する意思─「権力の監視」の役割
『世界』(20年1月号)の「メディア批評」は「赤旗の手法は、調査報道そのものである。議員活動と一体となった取材は一般の新聞やテレビは真似できないが、規模や全国のネットを抱える大手メディアができないことではない」と指摘し、こう続けました。「赤旗にあって大手メディアにないものは『追及する意思』ではないか」
ジャーナリズムの役割は「権力の監視」です。
「赤旗」が創刊されたのは1928年2月1日です。戦争や弾圧で発行中断を余儀なくされた時もありました。それでも戦争反対、国民主権、生活擁護の旗を掲げ続けました。最大の権力犯罪といえる侵略戦争とたたかってきた歴史を持つ「赤旗」だからこそ、「権力の監視」というジャーナリズムとしての役割が果たせるのだと思います。
「赤旗」は日本共産党の機関紙というだけでなく今や、自公政権を倒し、野党連合政権の実現へ道を開くための「国民共同の新聞」「市民と野党の共闘」の新聞です。
今回のJCJ大賞は、「赤旗」だけでなく、日本共産党国会議員団、野党追及本部、党地方議員や党支部などの受賞だと思っています。
安倍首相が辞任し、菅政権が誕生しました。菅義偉首相は、桜を見る会の開催を21年以降、中止すると表明しました。しかし桜を見る会の私物化疑惑は、国政が歪められた大問題です。
しかも9月18日、桜を見る会の招待状を利用して顧客を勧誘していた悪徳マルチ商法「ジャパンライフ」元会長(山口隆祥容疑者)らが巨額詐欺事件で逮捕されました。被害者は約1万人、被害総額は約2100億円とされます。被害者の多くが桜を見る会の招待状を信用して多額の資金を出資したと話しています。野党(維新を除く)でつくる「桜を見る会追及本部」には全国から悲痛な訴えの手記が寄せられています。「老後のために汗水たらしてコツコツためてきた資金をあの招待状1枚のために全部失いました。あの招待状さえなければ今頃楽しく過ごせていたはず。老後の生活設計を安倍政権は奪ったんです」
問題は、誰が山口元会長に桜を見る会の招待状を出したかです。元会長の招待状に同封されていた受付票の区分番号は「60」。同じ15年に招待された安倍氏の後援会員の受付票の区分番号も「60」。この後援会員は14年の総選挙で安倍氏の選挙運動をしていました。元会長の区分番号「60」が首相の推薦枠であることはあきらかです。
桜を見る会の中止で疑惑に蓋をすることは絶対に認められません。日曜版編集部はこれからも、首相が公的行事を私物化した桜を見る会疑惑の追及を続けます。
(やまもと・とよひこ)