現場Note

政治・社会のあり方はおかしい─声をあげる最前線を追う

前田智也(国民運動部記者)

前田智也(国民運動部記者)

〝何もしない選択肢はない〟

 いまの政治や社会のあり方に「おかしい」と感じた市民が声をあげる風景が日常的になっています。「赤旗」は、そうした市民の動きを追いかけています。

 米国で2020年5月に発生した白人警官による黒人男性の暴行死に怒り、人種差別は許さないと世界中に広がった「BLM」(ブラック・ライブズ・マター)。日本でも、各地で呼応したデモが行われました。

 東京・渋谷で行われたデモ(6月14日)に参加した大学2年の女性は、世界中に広がった抗議を見て、「自分が何もしないという選択肢はありませんでした」といいます。

必ず取材に来る

 私は2013年に入局してから、路上で声をあげる市民を取材しています。フラワーデモや安倍政権の退陣を求める抗議では、「最初は『赤旗』だけが報じてくれた」「『赤旗』は必ず取材に来る」と声をかけられます。

 これがなかなか簡単ではありません。ひとつは、緊急で呼びかけられる抗議が多いからです。たとえば、香港市民が国家安全維持法違反容疑で弾圧されていることに抗議し、日本政府に対応を求める国会前抗議(8月12日)は、前日の午後10時に告知されました。なかには当日に告知されるものもあります。時どきの情勢をつかみ、昼夜を問わずSNSなども活用して取材をする必要があります。

 もうひとつは、締め切り時間の前後にスタートする抗議が多いということです。「赤旗」は、他紙より締め切りが早いのですが、読者には関係ありません。現場へ到着し、取材をはじめてから30分以内をめどに原稿を完成させています。デスクはもちろん、整理・校閲など各部のみなさんにもギリギリまで作業を待っていただき、翌日の紙面に間に合わせています。

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言うこと聞かせる番だ俺たちが

 記者になるまでは、音響技術者や飲食店の正社員として働いていました。どちらでも、多い時には月150時間を超えるサービス残業などを経験し、次つぎと同僚も辞めていきました。

 そうした長時間・低賃金な働き方を進める自民党政治のおかしさを痛感する中で、「劣悪な働き方や社会のあり方を変えたい」「誰か任せではなく、積極的に政治にかかわりたい」と感じ、取材・報道を通じて社会を変える力になれる赤旗記者になりました。

 取材で印象に残っている人や言葉はたくさんあるのですが、反原発や反ヘイトスピーチなどの抗議に個人として参加していたヒップホップアーティストのECDさん(故人)の言葉で、デモのコールにもなった「言うこと聞かせる番だ俺たちが」は今も胸に刻んでいます。

市民の「怒りの可視化」

 抗議は、いま市民が政治や社会について感じている「怒りの可視化」だと考えています。紙面での報道と並行して、SNSでの発信もできる限り行っているのですが、リアルタイムの反響で実感する時があります。

 3月末ごろ、新型コロナ感染拡大対策として「お肉券」など商品券の配布を検討するという話が自民党内で出てきました。これに抗議して、会社員の日下部将之さん(故人)が呼びかけた国会前スタンディング(3月27日)の様子をツイッターで投稿すると、2・1万超のリツイートがありました。「自粛要請」をする一方で、補償はしない政府への怒りが現れていました。

行動しなければ変えられない

 コロナ禍で、「声を上げれば政治は変えられる」という市民の動きが広がっています。2015年に安保法制(戦争法)に反対するSEALDsの抗議をお互いに取材していた、映画監督の西原孝至さんもその1人です。2020年3月、コロナ禍で苦しむミニシアターを守ろうと「SAVE the CINEMA」の呼びかけ人になり、署名や省庁要請などに取り組んでいます。

 西原さんは、声を上げた人たちを取材してきたなかで「主体的に行動しなければ政治は変えられないと教えられた」といいます。

私たちも「赤旗」も変わった

 団体・個人の共同も広がっています。従来の運動経過の違いを超えて結成した「総がかり行動実行委員会」はその象徴です。共同代表(当時)の福山真劫さんに「赤旗」創刊90周年(2018年)でコメントをいただく機会がありました。

 取材の冒頭、「これまで『赤旗』には、私たちの組織と運動などは、無視されてきたと思います」と言われ身構えました。しかし、共闘が広がるなかで「私も、平和フォーラムも変化しましたが、『赤旗』も変わったと思います。一挙に身近な新聞になりました」と話していただきホッとしました。

 全国各地で響いた「野党は共闘」「安倍は辞めろ」のコールは、いま市民と野党の共闘で新しい政権をつくろうとする動きへ発展しています。政治を変える最前線を、これからも取材していきます。(まえだ・ともや)

『前衛』2020年11月号から