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日本共産党

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赤旗

41、交通・運輸

いのち・安全、国民の足をまもる交通運輸政策へーー

2022年6月

交通・移動の権利を保障し、安全を大前提に公共性を重視した交通政策に転換、人と環境に優しいまちづくり・交通体系をめざします

危機に直面する公共交通-新型コロナが危機に拍車

 公共交通が危機に直面しています。地方の過疎化の進行や、地域社会の高齢化、人口減、気候危機問題など、交通を取り巻く社会経済情勢によって、これまで住民の足となってきた鉄道・バス・フェリーなどの路線廃止が相次ぎ、地域公共交通が衰退し、自家用車を利用できない高齢者等、移動が大きく制限される「移動制約者」が増大しています。無秩序な郊外型開発による都市のスプロール化、中心市街地の"空洞化"がすすみ、"買い物難民"を発生させるなど交通弱者の日常生活を困難にしています。

 また、軽井沢スキーバス事故をはじめ、JR尼崎脱線事故など鉄道事故、航空機のトラブルなど相次ぐ公共交通機関の事故・トラブルの背景に、安全より利益を優先する規制緩和があったことも明らかになっています。

 新型コロナウイルス感染症が拡大したことが、公共交通の危機を一層深刻にしています。住民の身近な足であるバス、タクシーは、乗客の激減で休廃業する事業者が生まれています。路線バスは、2020年4月から2022年3月末までに952事業者が路線の休止に、1,033事業者が路線の廃止(休廃止重複含む)に追い込まれ、4,005事業者が減便を余儀なくされています。タクシーの法人事業者は、休・廃業が177者、そのうち新型コロナを理由とした事業者は77者です。観光客が激減するなかで、貸切バスも2020年2月から2022年3月末までに536者が休・廃業の届けを出しており、そのうち368者が、新型コロナの影響を理由としています。

 地方鉄道は、新型コロナの影響で減便する鉄道事業者が相次いでいます。旅客を輸送している鉄道事業者175社のうち、80社がすでに減便、もしくは今後減便を予定し(2021年8月)、通勤、通学、日常生活に支障をきたしています。新幹線も、2020年度の輸送率は2019年比で35%程度に激減、2021年度は約47%で、少し持ち直したとはいえ、2019年度の半分以下です。ビジネス出張が、オンライン会議、在宅勤務に代わるなど、コロナ禍で仕事の仕方にも変化が生じてきたからです。

 2021年5月28日に閣議決定された「第2次交通政策基本計画」(2021年度~2025年度)は、「人口減少等に加えて、新型コロナウイルス感染症の影響により、旅客の輸送需要が更に減少している。交通事業が独立採算制を前提として存続することはこれまでにも増して困難となっており、このままでは、あらゆる地域において、路線の廃止・撤退が雪崩を打つ『交通崩壊』が起きかねない」と、かつてない危機感を表しています。

 自民党政権のもとで進められてきたモータリゼーション推進、自動車優先・道路偏重の交通政策が、道路公害の発生や、地域公共交通の衰退など様々な弊害をもたらしたことは明らかです。

 地域公共交通の利用者の減少により、路線を維持できない交通事業者の厳しい経営状況を見れば、民間事業者に委ねるだけでは、地域公共交通の衰退に歯止めをかけることが困難になっています。気候危機を打開することも喫緊の課題となっています。

 交通は、人やモノの交流や活動を支え、国民生活にとって欠かせないものです。

 いまこそ、自動車優先・道路偏重の交通政策を根本的に見直し、住民の足を守り、人間を優先した政策に転換すべきです。

国民の「交通権」に背を向け、「国際競争力強化」、大規模開発優先の国の交通政策

 安倍・菅政権の経済政策、成長戦略のもとで、交通政策が、国際競争力強化、市場競争化を加速させています。「国土形成計画(全国計画)」や「交通政策基本計画」では、「国際競争力の強化」「選択と集中」と称し、財界・大企業に奉仕する交通インフラの大規模開発事業を鮮明にしています。

 国土形成計画(全国計画)は、「国土のグランドデザイン2050」を踏まえ、首都圏・中部圏・近畿圏を一体化した拠点とする世界最大のスーパー・メガリージョンを構想し、三大都市圏を結ぶリニア中央新幹線を核に据え、首都圏空港、国際コンテナ戦略港湾、首都圏3環状道路を始めとする大都市圏環状道路、整備新幹線など高速交通網の整備をすすめています。

 2013年に制定された「交通政策基本法」は、「交通・移動権の保障」を盛り込まず、国際戦略港湾、首都圏空港、大都市圏環状道路など「国際競争力の強化」のための高速交通網の整備を想定したものでした。2020年の同法改正は、頻発化・激甚化する豪雨災害などが発生した場合でも交通の機能を維持し、社会・経済活動が持続可能となることを明記したり、「輸送サービスの提供の確保」として、国の関与を強め、赤字路線への国の補助金確保の契機になりうる規定を設けたりしています。しかし、「交通権」の明記を拒否しただけではなく、国内交通網及び輸送に関する拠点の形成に「基幹的な高速交通網の形成を含む」との文言を加え、リニアや東京外環道など大規模開発を重点的に進める姿勢を表しています。

 「第2次交通政策基本計画」も、地域公共交通計画の策定件数の引上げ等の目標などを掲げていますが、その一方で、「国際競争力の強化」「稼ぐ力の維持向上」の名のもとに、三大都市圏環状道路、国際コンテナ戦略港湾、リニア中央新幹線の建設を明記し、引き続き大規模開発事業が目白押しの内容になっています。

 こうした状況を踏まえ、交通・移動の権利を保障することを明記し、交通の安全確保を基本理念の第一に据え、公共性を重視して「規制緩和」等市場競争優先から脱却することを内容とした「交通基本法」に改正します。

住民の足を守るため交通・移動の権利を保障します

 交通・移動の権利は、日本国憲法が保障した居住・移転の自由(第22条)、生存権(第25条)、幸福追求権(第13条)など関連する人権を集合した新しい人権です。国民が安心して豊かな生活と人生を享受するためには、交通・移動の権利が保障され、行使できる環境が整えられることが必要です。

 地域公共交通の衰退を止め、維持確保改善することは、もはや、事業者任せにできません。国と地方公共団体など行政府が、財源の補助を含めて責任を持つべきです。そのための「財源」の確保や「行政の不作為」などの責任を放棄させないためにも交通・移動の権利を保障することが重要です。

『安全大前提』――安全の確保を何よりも優先することを国や事業者等の責務として明確にします

 軽井沢スキーバス事故等、相次ぐ公共交通機関の事故を踏まえて、安全に対する考え方を明確にすることが必要です。「利益なくして安全なし」など、利益を優先して安全を軽視する経営の考え方を厳しく批判します。

 そのために、「交通基本法」の基本理念として、安全確保を大前提にすることを冒頭に盛り込みます。国・地方自治体、事業者の責務として、安全確保を大前提にすることを明確に規定します。あわせて、運転者等の運行従事者の賃金・労働条件の適正化なくして、安全確保はできないことを明確にして、そのための施策をとるようにします。

 「交通安全対策基本法」や運輸関連の各事業法を見直し、安全を大前提とすることを明確に位置付けるとともに、安全の直接的な担い手である運転者等の運行従事者の賃金・労働条件の適正化を図ります。

「国際競争力の強化」など「規制緩和」・市場競争優先から脱却します

 地方路線の廃止や公共交通機関の事故の要因や背景にあったのは市場競争原理主義のもとに進められた「規制緩和」路線です。交通権(移動権)を保障し、安全を大前提にした交通施策を実施する上でも、公共交通の安全や公共性と相対立する規制緩和・市場競争優先から脱却することが必要です。そのため、象徴的な文言となっている「国際競争力の強化」を基本法などから削除します。

クルマ社会から人と環境にやさしい社会へ

 高度経済成長期以来、自民党政権のもとで進められてきたモータリゼーション推進、自動車優先・道路偏重の交通施策が、交通事故や道路公害の発生、地域公共交通の衰退、さらには、地球環境汚染、都市のスプロール化など様々な弊害をもたらしたことは明らかです。

 いまや政府でさえとらざるを得なくなっているモーダルシフトなどの施策は、クルマ社会から人と環境にやさしい社会へ転換するうえで重要です。

 モーダルシフトは輸送・交通手段の転換を図ることです。一般的には、トラックや航空機による貨物輸送を鉄道や船舶に、自家用車を公共交通機関に、といったように、より環境負荷の少ないものに代替することを目指します。

モーダルシフトなどの施策を推進するためにも、大都市圏環状道路など高速道路の建設を見直します

 大都市圏環状道路など高速道路の新規建設によって、その周辺に大型物流施設をはじめとした大型商業施設の出店が相次いでいます。貴重な農地をつぶすなど都市郊外に大型開発事業が復活しています。これでは、都市のスプロール化を加速させるとともに、トラック輸送を増大させることは目に見えています。

自転車専用道路の設置を推進し、環境にやさしい自転車の活用を推進します

 温室効果ガス削減に向け、自転車の活用を推進することは重要です。自転車活用を推進するうえで自転車専用道路の整備が欠かせません。

 自動車優先の道路整備を改め、歩道の整備とともに、自転車専用道路の整備を推進する必要があります。(別項「自転車交通の安全を確保し、気候危機打開にも役立つ自転車の活用を推進する」参照)

地域公共交通

これ以上の衰退に歯止めをかけ、住民の足、地域の社会経済基盤の再生、活性化を

 バス路線廃止など地域公共交通の衰退、地域住民の足がなくなるという深刻な事態が進行しています。

 路線バスの廃止路線は、2007年度~2020年度で、全国で1万9,444kmにのぼります。地方鉄道の廃止路線も、2021年4月1日に廃止が強行された日高本線116km(鵡川-様似)を含め、2000年度~2021年4月1日で、45路線、1,157.9kmになります。地域公共交通の衰退に歯止めがかかりません。そのもとで、住民の足が奪われ、高齢者等の移動が制約され、住民の日常生活や地域社会活動に支障をきたしています。

 今後も進行する高齢化のもとで、2019年4月19日に池袋で発生した交通事故(母子2人死亡を含む11人死傷)など、高齢運転者による事故が多発しています。こうした事故も背景に2019年60万人、2020年55万人を超える運転者が運転免許証を返納しており、今後も増え続ける状況にあります。自家用車も運転できない住民が増えるなかで、地域公共交通の重要性がいっそう増しています。

 地域公共交通のこれ以上の衰退に歯止めをかけ、地域の社会経済基盤の再生、活性化を目指して、取り組みを強めなければなりません。

地域公共交通の活性化支援策の現状

 路線バスなど地域公共交通を取り入れている地方自治体は2020年度、1,500を超え87%以上にのぼります(総務省の地方交付税算定額で措置されている自治体数)。そのうち、1,367市区町村が、コミニティーバスを導入し、デマンド型乗合タクシーも573市区町村が導入しています(いずれも2021年3月末時点)。2007年に成立した地域公共交通活性化再生法による支援は、2021年度に1,150以上の地方自治体、協議会、事業者へと広がっています。都市と都市を結ぶ幹線バス路線は、県など広域的協議会が主体となり、地域内フィーダー路線は市町村が担っています。定時に決まった停留所のある路線を運行する定期路線バス、事前予約しドアtoドアで運行するデマンド乗合タクシーなど地域住民の実情に合った形態での運行が実施されています。

 一方、制度の導入に踏み出せない自治体もまだ残されています。制度を導入している自治体でも、運行路線でカバーできない地域や停留所から遠い地域、便数不足など過疎地域、交通不便地域が残されたまま、増加しているところもあり、「交通空白地域」(例えば鉄道駅やバス停から半径500mの範囲で公共交通が存在しない居住地)は、日本の可住面積の3分の1(九州に匹敵)におよびます。2020年には、「地域公共交通計画」の策定を地方自治体の努力義務とする地域公共交通活性化再生法の改正がなされ、2024年度までに1,200件の策定目標を掲げています。

 政府は、コンパクトなまちづくりを地域公共交通と連動させながら進める「コンパクトシティー+ネットワーク」政策を推進しています。地方自治体に居住誘導の「立地適正化計画」と交通再編の「地域公共交通計画」を一体的に策定するよう求めていますが、22年3月末時点で適正化計画に具体的に取り組んでいる626市町村のうち、地域公共交通計画を持っているのは、316市町村にとどまっています。(地域公共交通計画は、2022年4月末までに727件が策定され、地域公共交通再編実施計画は、47件が国土交通大臣により認定されている。)

 国の支援制度としては、地域公共交通維持確保改善事業が取り組まれています。そのうち、陸上交通では、幹線バス路線と地域内フィーダー路線への支援があります。赤字となる路線を廃止せずに、運行継続するバスやタクシー会社や自ら運行する自治体や協議会に対して、赤字分の1/2を国が直接補助し、残りを自治体等が補填する仕組みです。しかし、実際は1/2に満たない補助しかなされていません。国の補助を受けるには、自治体や公共交通協議会が、公共交通維持確保計画を策定する必要があります。また、2020年の法改正では、路線バス等が一方的に廃止したり、新規参入でバス事業が競合したりしないように地方自治体の関与が強められました。

 一方、地域公共交通の活性化・再生を保障する国の予算は、2011年度導入時は305億円の補助金が計上されていましたが、22年度は207億円に減らされています(ただし、21年度補正予算で258億円計上)。

地域公共交通を地域住民の移動権を保障する制度として位置づけます

 地域住民が、いつでもどこでも自由に、安全に移動することは、健康で文化的な生活を営むうえで欠かせないものです。憲法に保障された生存権、移転の権利、幸福追求権などをもとに移動する権利を保障する施策が国や自治体に求められています。地域公共交通をめぐる深刻な状況をみれば、住民の移動権を実質的に保障する施策を進める必要があります。

 EU諸国では、「移動権の保障」を明文化しているかどうかにかかわらず、住民の自由で安全な移動を支える施策を進めています。地方バス路線等を公共インフラ(社会基盤)として位置づけ、公的に支える制度が設けられています。フランスでは地域の公共交通を維持するために、労働者の通勤などで受益がある地域内の事業者から交通税(2019年基本法により現在はモビリティ税)を徴収し(2018年は約5,800億円)、バス事業等に補てんしています。ドイツでは、エネルギー税(ガソリン、石油製品、石炭等に課税)の一部を地域公共交通分野に配分するなどして、連邦政府として1兆円を超える財政援助を続けています。

地域公共交通を守るため、必要な財源を確保します

 地方の鉄道、公営バス、コミュニティバス、LRT、離島航路・フェリーなど、生活に欠かせない地域公共交通を維持します。そのため、国と地方公共団体、事業者等の責任と共同により、地域公共交通を維持するために必要な財源を確保します。

―――地域公共交通の確保維持改善事業の国の予算は、年間200億円強です。当面、これを1,000億円まで増額します。

―――財源を確保するため、フランスの事例など参考に、JRなど大手事業者等からの拠出による「地域公共交通を守る基金」を創設します。

事業者任せ、市場に依存した事業から自治体が主体の事業に

 住民の足、生活基盤である地域公共交通を地域社会経済基盤として再生するためには、運賃など事業収益が低下し、採算が取れず公共交通事業からの撤退、路線廃止、減便が相次いでいる事態に歯止めをかけなければなりません。事業者任せでは限界があり、地域公共交通を活性化し再生する展望は開けません。EU諸国のように、事業運営の財源を確保し、公共団体が主体的に関与する事業制度を検討するべきです。

 別項目(2022年参議院選挙政策 各分野の政策「16、交通安全対策」)---こども・高齢者等を事故から守る、自動車優先から歩行者優先へ

鉄道政策

国民の足を守り、安全・公共性の確保を前提とした鉄道行政に転換します

 鉄道は、大量の人とモノの移動を支える足であり、環境にもやさしい公共交通機関です。クルマ中心・道路偏重行政のもとで、赤字路線が増え、地方ローカル鉄道や都市部の電車など相次いで廃止されてきました。高齢化や人口減、地球環境問題、過疎化など社会経済情勢の変化に伴い、鉄道のもつ重要な役割を改めて位置付け、安全と公共性の確保を前提とした鉄道行政への転換がもとめられています。

 とりわけ、JR北海道とJR四国、及びJR貨物の経営は、発足当初から厳しく、国による政策的経営支援スキームである経営安定基金(完全民営化を決めたJR九州を含め合計で1兆2,781億円)からの運用収益で、かろうじて経営を維持してきましたが、昨今の低金利のもと、自主運用では十分な運用益を得られないことから、市中金利よりも高い利率で一定額を(独)鉄道建設・運輸施設整備支援機構に貸付け、その利子収入で経営を下支えするための国鉄債務処理法の改正が2021年に行われました。車両火災、レール異常放置と検査改ざんなど事故・トラブルが相次いだJR北海道が、経営難から安全投資を削っていた事態は見過ごせません。

―――全国の鉄道網を維持するために国が乗り出します

 ・公共交通基金を創設し、安定的な財源を確保します

―――鉄道災害復旧基金をつくり、災害を原因とする鉄路廃止をなくします

―――全国の鉄道網を未来に引き継ぐために、知恵と力をあわせることをよびかけます

鉄道路線廃止に歯止めをかけ、住民の足と地方再生の基盤を守るために

――国が全国の鉄道網を維持し、未来に引き継ぐために責任を果たす 2017年04月28日

鉄道施設の安全対策とバリアフリー化を緊急課題として促進します

 2006年、新しいバリアフリー法(バリアフリー新法)が制定され、2018年に、理念として、「共生社会の実現」、「社会的障壁の除去」を明示するなど改正されています。「誰もが自由かつ安全に移動・利用することは基本的権利である」という考え方にたち、「事業者まかせ」ではなく、国として、国民の足の確保、交通・移動の権利を保障しうる施策を計画的に実施することが必要です。

―――公共施設はもちろんのこと、多数が利用する施設、歩道、地方の駅や利用者数の少ない駅などのバリアフリー化をすすめます。

―――法基準の見直し、計画づくり、実施には、利用者、住民、NPOなどの参加と協働を広げます。

鉄道駅にホームドア(可動式ホーム柵)を緊急に設置し、人員を配置します

 相次ぐ駅ホームからの転落事故を防止するため、ホームドア設置は喫緊の課題です。ホームドア設置を安全対策と位置づけ、鉄道事業者に設置を義務付けます。転落の危険性が特に高い駅を優先して直ちにホームドアを設置し、800駅の設置目標を引き上げます。技術開発を含め補助額・率を引き上げます。

 駅係員等がいない無人駅が増加しています。2019年度4,564駅(総駅数比48.2%)あり、この5年間で104駅増加しています。ホームドア設置完了前においても、鉄道事業者が責任をもって、ホームの安全対策の人員を配置するよう指導を強めます。

鉄道駅のエレベーター・エスカレーターの設置などバリアフリー化を急ぎます

 1日当たり3千人以上が利用する3,580駅で、段差が解消されている鉄道駅は、2019年度で92%です。300駅近くがまだ整備されていません。一日5,000人が利用する駅でも112駅がまだ未整備です。早急に設置をすすめます。

大規模地震に備え、新幹線等の安全対策を緊急課題として強化します

 熊本地震でJR九州の新幹線が脱線した原因は、脱線防止ガードが未設置の区間でした。JR九州では全延長に対して2割(2020年3月末現在)に満たない脱線・逸脱防止対策となっており、JR北海道では99%、JR東日本は43%、JR東海で58%、JR西日本は33%と、脱線・逸脱防止ガードの設置は遅れています。新幹線は高速で走る乗り物だけに安全対策は欠かせません。早急な対応が必要です。

整備新幹線と並行在来線

整備新幹線事業3区間、延伸計画は凍結・中止を求めます

 2012年に認可された整備新幹線の事業区間は、北海道新幹線の新函館-札幌、北陸新幹線の金沢-敦賀、九州新幹線長崎ルートの武雄温泉-長崎の3区間で、その総事業費は3兆400億円にのぼります。

―――北海道新幹線は、すでに開通している「新青森-新函館北斗」間で毎年約100億円もの赤字を出し、建設中の札幌延伸では、ずさんな需要予測とさらなる工事費膨張の懸念があります。延長212kmのうちトンネルが17ヵ所、169kmにのぼり、工事で発生する残土は2,000万㎥の見込みで、そのうち約3分の1がヒ素などの有害物質を含む「要対策土」であることが明らかになり、建設中止を求める住民の運動が広がっています。

 参考 日本共産党北海道委員会「北海道新幹線の札幌延伸はいったん凍結し、中止も含めた道民議論で再検討を」2019年9月13日

―――北陸新幹線は、2,263億円(19%増)の建設費増額に加え、2020年に明らかになった加賀トンネルの盤ぶくれへの対策と上下乗り換え方式を採用している敦賀駅の工事難航で2,658億円の追加費用が発生しています。

 建設費が2兆1,000億円と言われる「敦賀-新大阪」間の延伸計画は、その約8割がトンネルで、京都市街地は大深度地下で通すとされています。国が調査費(2022年度13.3億円の内数)をつけるなど建設に向けた動きがすすめられるなか、建設残土の処理、地下水や活断層への影響など、京都のまちと自然を破壊する計画に住民の不安と怒りがわき起こっています。

 参考 日本共産党京都府委員会「"北陸新幹線より、いのち・くらし"京都のまちと自然を壊し、巨額の税金を投入する北陸新幹線『延伸』計画は中止を」2021年6月2日

―――九州新幹線(西九州ルート)も、1,188億円(24%増)の追加費用が発生し、「武雄温泉-長崎」間(66km)の総事業費は6,197億円となっています。ここに接続する佐賀県の「新鳥栖-武雄温泉」間(50km)の整備方式をめぐって、地元合意のない国・与党の「フル規格」方針に対し、佐賀県の財政負担が約660億円、JR九州からの貸付料を考慮しない場合は1,140億円となることが明らかとなり、さらに在来線の利便性が後退するとして佐賀県は反対し続けています。

 整備新幹線の建設財源は、国・地方自治体の負担とともに、運行中の新幹線施設の貸付料収入などを充てます。この貸付料収入は、新たな新幹線建設費に充てるべきではありません。国の借金に付け替えられた旧国鉄の長期債務(約18兆円)の返済などに充てるべきです。

 また、国交省の試算でも新規建設に係る費用便益比(B/C)は、1.1とギリギリで、採算性についても疑問視されています。20年度の試算では北陸新幹線が0.8、九州新幹線(西九州ルート)が18年度の試算で0.5に低下。もはや建設継続の正当性が問われる事態になっています。高速道路や空港など既存の交通インフラとの関係をどう整理するかなど総合的な議論もないままです。

 さらに、この3区間をめぐっては、JRからの並行在来線の経営分離に"同意"することを沿線自治体に強要し、並行在来線の存廃も、経営形態もあいまいなまま、多くの住民の批判を無視して建設着工を認めてしまいました。整備新幹線3区間及び延伸計画は、凍結・中止を求めます。

並行在来線の経営分離を前提とせず、JRに社会的責任を果たさせる

 整備新幹線着工の条件として、並行在来線をJRから経営分離することが前提とされています。経営分離は、JRに地方ローカル線の切捨てを認め、儲けを保障する企業優遇策です。地域住民の足を守るのは、行政府の責務であるとともに、公共交通機関であるJRの社会的責任でもあります。そのため、経営分離を前提とする「政府与党合意」を見直し、JRに社会的責任を果たさせます。

自動車政策(バス、タクシー、トラック)

コロナ危機から自動車運転者の命と健康を守り、交通運輸産業を守る

 新型コロナウイルスの感染拡大で、バス、タクシー、トラック労働者は、深刻な影響を受けています。乗客の激減、事業の縮小で、「月の給与が手取りで7万円程度に落ち込んだ」(観光バス運転士)など、バス、タクシー、トラックの運転者は、賃金が大幅に減らされています。また、2020年4月7日、突然「事業休止」を発表し、全従業員約600人を解雇しようとしたロイヤルリムジングループをはじめ、コロナによる経営危機のしわ寄せを受ける労働者が相次いでいます。

 物流や人の輸送は、社会的に必要不可欠な仕事で、そこで働く自動車運転者は、エッセンシャルワーカーとして、コロナ感染のリスクを伴いながら、命がけで国民生活と日本経済をささえています。自動車運転者をコロナ感染の危険から守るとともに、事業存続の危機にさらされているバス、タクシー事業を保護します。

―――自動車運転者に優先的にワクチンの接種を行います(接種を加速させます)。

―――身体的な事情等でワクチンが接種できない人に仕事をあたえないなど差別が起きないようにします。

―――自動車運転者が定期的に無償でPCR検査が受けられるようにします。

―――濃厚接触者となった場合は、有休の特別休暇で休めるようにし、その賃金部分を国で助成します

―――感染者となった場合は、回復までの賃金が保障されるようにし、国で助成します。

―――バス・タクシーでは、乗客からの感染を防ぐための感染防止シート、ウイルス除去効果のある空気清浄機の設置を進め、設置した事業者に費用を国で助成します。また、乗客のマスクの徹底を義務付けます。

―――バス・タクシーでは乗客が減って大幅な減収状態になり、倒産の危機に陥っている会社もたくさんあります。コロナ危機によるに減収を事業者に直接補填する措置を設けます。

―――賃金が歩合給のため大幅な減収となっているバス・タクシー労働者については、賃金減収を補填する措置を設け、国が助成します。

―――コロナ危機により休業した事業者に対する雇用調整助成金の特例措置をコロナが終息するまで継続し、解雇をしない事業者への助成率100%を維持します。

―――労働者が自分で申請できる休業支援金・給付金の制度をコロナが終息するまで継続し、シフト勤務の労働者、フリーランスの労働者などがもれなく申請できるように改善します。

―――コロナ危機を理由にした労働者の解雇を禁止します。

―――大幅に賃金が下がった労働者が最低賃金法に抵触しないよう監視をつよめ、中小企業が最低賃金を確実に支払えるように助成措置を行います。

規制緩和に反対、国民の命と安全、運転者の賃金・労働条件、くらし守る

 コロナ危機により、新自由主義にもとづく規制緩和政策の誤り、害悪がいっそう鮮明になっています。規制緩和で競争を激化させ、労働者の賃金・労働条件をはじめ、コストカットを続けてきたことが、危機に対応できないぜい弱な事業体質をつくってきました。

 規制緩和政策は、コロナ危機以前から、交通の安全に大きな影響を与えてきました。

バス

 高速ツアーバスや軽井沢スキーバス事故など重大事故が相次いでいます。人命を運ぶ旅客自動車運送事業の安全・安心が脅かされているのです。国交省は、2012年4月の関越道高速ツアーバス事故を受け、夜間・長距離運行する貸切バス等の交替運転者の配置基準を670キロから実車距離500キロ以内に改めるなど過労運転防止対策や監査のあり方など一定の改善を行いました。しかし、この教訓が生かされず、2016年1月の軽井沢スキーバス事故の惨事を引き起こしました。法令違反を繰り返す事業者の参入規制や運転手の安全確保に必要な労働環境改善などが不十分であったことを鮮明にしました。

 事故の背景にあったのは、安全性・公共性を軽視し、市場競争を優先する規制緩和政策でした。規制緩和は、免許制から許可制にし、需給調整をなくし、市場競争原理を導入しました。行政が責任を持つべき安全確保のための監査制度など、事前チェックを事後チェックに切り替えました。さらには、派遣法改悪など労働法制の規制緩和とも相俟って、労働集約型の運転手の低賃金化、非正規・派遣、技能・経験不足など安上がりな労働力供給を可能にしました。

 その結果、新規参入する事業者が急増し、過当競争、運賃のダンピング競争が激化し、法令を守らない違法業者がはびこりました。「3K」職場として若者から敬遠され労働者不足も深刻になっています。人命を運び安全を担う運転手の賃金、労働条件が悪化し、過労運転など安全運行が確保できない状況を生み出しました。

 国交省は、軽井沢スキーバス事故を受けて、2016年に道路運送法を、2018年にランドオペレーターに登録制を導入する旅行業法の改正を行いました。改正道路運送法では、貸切バス事業者に対し、5年ごとの更新制を導入するなどの一定の規制強化を行いました。その結果、貸切バスの乗客の死亡事故はゼロになりました。しかし、更新制導入後も、法令違反を犯す事業者があとを絶たず、更新制だけでは十分とは言えません。

 また、法改正後、一定抑えられていた運賃のダンピング競争も、コロナによる利用者の激減で、再び運賃の引き下げが押し付けられるようになっています。

 事業者に安全を確保させるための規制を強化することが緊急に求められています。

 自動車運転者の労働時間等の改善を図るために労働大臣が1989年2月に告示した「改善基準告示」について、その見直しを審議してきた労働政策審議会の労働条件分科会自動車運転者労働時間等専門委員会のハイヤー・タクシー及びバスの作業部会が、2022年3月29日、休息期間を「勤務終了後、継続11時間以上与えるよう努めることを基本とし、継続9時間を下回らないものとする」との「自動車運転者の労働時間等の改善のための基準の在り方について(中間とりまとめ)」を公表しました。自動車運転者が求めてきた休息時間11時間以上は、努力目標に過ぎず、これでは休息期間9時間での労働を強いられかねません。

―――バス事業の過当競争を激化させた事業分野の規制緩和、安上がりの労働者供給に道を開いた労働分野の規制緩和を抜本的に見直します。運転手の健康面を含めた過労防止対策や安全運行管理体制の整備など、新規参入や更新時の要件を強化します。悪質不良業者の参入や更新を阻止するためにも入口規制の強化が必要です。

―――運転手の日雇い・アルバイトなど非正規雇用禁止を徹底し、安全運行教育・訓練など正規社員としての育成を義務付けます。

―――バスを発注する旅行業者の発注者責任を明確化し、低運賃や無理な運行(旅行行程自体が改善基準の拘束時間をオーバーしているもの等)を押し付ける旅行業者への監督・指導と法令違反に対する罰則を強化します。

―――法令違反を繰り返す悪質な運行事業者を排除し、法令違反を一掃するため監査・罰則を強化します。

―――貸切バス等の夜間・長距離運行の交替運転者の配置基準について、回送距離を含めるなど、より実態に即して見直します。

―――「自動車運転者の労働時間等の改善のための基準」を改善し法制化します。

当面、①拘束時間1日13時間以内、②休息期間11時間以上、③1ヶ月の拘束時間240時間、④運転時間1日7時間以内、⑤連続運転時間2時間以内に改善します。

―――安全運転で生活できる賃金・労働時間を保障する「自動車運転者安全賃金法」を制定します。

 交通機関にあって安全を担保するのは、直接、運転に携わっている運転労働者です。この労働者の労働条件を改善して、安全運転で生活できる賃金・労働時間を保障しない限り、真の安全は確保できません。そのため、オーストラリアで制定されているような、自動車運転者が安全に働くことのできる最低賃金・労働条件を設定する裁定機関を設置します。

タクシー

 2002年、「改正」道路運送法の施行により、タクシー事業の需給調整が撤廃され、新規参入や増車が自由化されるなどの規制緩和が実施された結果、タクシー台数が増え、運転者の賃金・労働条件が低下し、交通事故増加など安全運行を脅かす事態が深刻化しました。そのため、規制緩和政策を見直す動きが現れ、2009年、タクシー供給過剰の是正をはかるため、協調的減車を認める「タクシー適正化・活性化法」が制定されました。

 しかし、同法による減車は、あくまで事業者の自主的な取り組みであったため、減車に協力しない事業者が残されるなど不十分さがありました。そこで、2013年秋の臨時国会で、都市部などの過当競争地域を国土交通大臣が「特定地域」に指定し、減車措置に強制力を持たせるなど規制を強化する同法改正が行われました。2015年1月に「特定地域」の指定が行われましたが、指定基準は「実働実車率が2001年と比べて10%以上減少」など条件が狭く、東京23区や名古屋市は規制地域の候補から外され、十分な実効性が発揮されていません。

―――「タクシー適正化・活性化法」の効果を検証し、実効性を高める再改正を行います。

―――タクシー輸送の安全・安心の確保のため、改正法にもとづき適切に「特定地域」の指定を行い、供給過剰を是正します。

―――供給過剰の解消・防止へ、適正な需給調整規制を含めた手立てを講じます。

―――過度な運賃競争を解消し、適正な運賃制度を確立します。地域の実情に応じて、地域ごとに認可できるようにし、同じ地域であればどのタクシーに乗ってもすべて同じ運賃(同一地域同一運賃)制度を含め、地域が自主的に制度を選択できるようにします。

―――運転者が誇りと働きがいをもてる賃金・労働条件の改善を図ります。

―――名義貸し、リース制、乗務員負担制度をやめさせ、タクシー経営者に、企業の社会的責任を果たさせます。

―――労働者保護及び安全運行規定に違反する事業者への行政処分を厳格に行います。

―――長時間労働を招く累進歩合制度の廃止、「改善基準」告示、労働関係法の順守を徹底するため、労働行政とも連携して、運転者の賃金・労働条件の改善をはかります。歩合給の合理的改革を図る方策を検討します。

―――「改善基準」告示を改善し法制化します。当面、①1日の拘束時間13時間以内、②休息期間11時間以上、③1か月の拘束時間、日勤238時間、隔日勤務228時間以内に改善します。

―――福祉・介護タクシー等への助成制度を設けます。

―――公共交通の維持が困難になっている地方では、安易に自家用車の活用に頼るのではなく、乗合タクシーなど安全な公共交通で住民の移動が確保できるようにし、地域公共交通維持の助成金を大幅に増やします。

―――運転手の社会的地位の確立、資質の向上を図るため、タクシー運転免許の法制化を実現します。

規制緩和政策を根本的に改め、国民の命・安全、運転者のくらしを守るタクシー行政への転換を求めます――タクシー政策の改定に当たっての日本共産党の提言と要求(2008年9月26日 日本共産党国会議員団)

利用者のいのち・安全を脅かすライドシェア導入など規制緩和に反対します

 一般ドライバーがスマートフォンアプリを介して利用者と契約し、自家用車で運ぶライドシェア(相乗り)の導入に向けて経済界や政府の動きが加速しています。「利用客の安全が守れない」とタクシー労働者らの批判が高まるなかでの推進は、あまりに危険です。安全性を確保するために、一般ドライバーが自家用車で乗客を有料で送迎することは、道路運送法で原則禁止されています。営業許可のあるタクシーは緑地のナンバープレートであるのに対し、無許可車は白地ナンバープレートのままなので、「白タク行為」とされ、取り締まりの対象です。ライドシェアは「白タク行為」そのものです。タクシードライバーに必要な二種免許を必要とせず、「免許取得後1年以上経過」「認定講習の受講」などの条件をあげるだけで、運転前のアルコールチェックの義務付けもしません。乗客の安全を保障するしくみはぜい弱です。すでにライドシェアを解禁している各国では業務停止命令や訴訟が続き、国際労働機関(ILO)も問題視しています。

 ライドシェアは副業を想定したしくみです。価格破壊が容易に起こり、今でさえ早急な改善が必要なタクシー労働者の低賃金と劣悪な労働条件はさらに悪化します。相次ぐバス事故に明らかなように、乗客の命を危険にさらすライドシェア導入など規制緩和に反対します。政府は、国家戦略特区での自家用車による観光旅客等運送事業を解禁しました。これはライドシェア導入に道を開くものであり、撤回させます。

 このライドシェアで実施されているダイナミック・プライシング(変動運賃制度)を日本のタクシーに取り入れるための実証実験が、規制改革推進会議の求めによって始められようとしています。ダイナミック・プライシングは、需要の多いときは運賃を高くし、少ないときは安くするもので、悪天時に運賃が高騰するなど利用者を無視し、公共交通機関の運賃とは相いれないものです。障害者や通院に利用する高齢者など、弱い立場の利用者が被害を受けます。ライドシェアにもつながりかねないものです。タクシーへのダイナミック・プライシングの導入を阻止します。

トラック

 トラック運送事業は、1990年の物流2法で、需給調整規制が廃止され、事業参入の免許制から許可制へ、退出規制が許可制から事後届出制へ、運賃は認可制から事前届出制へと規制緩和されました。その後も、運賃・料金の事前届出制から30日以内の事後届出制へと規制緩和が進められ、その結果、トラック運送事業者は、40,072者から2007年には63,122者へと1.5倍に増加。その後も62,000者台で推移し、過当競争による運賃の低下、長時間労働を前提とした働き方と賃金体系で、トラック運転者は劣悪な状態におかれています。

 2016年3月に発生した山陽道トンネル内トラック事故、2019年9月の神戸市灘区でのトラック事故などの重大事故は、こうした運送事業における過酷な環境がベースにあって起きているものです。

 行政による監査・監督は、約11万4000者もの自動車運送事業者(うちトラック約6万者)に対し、わずか449人(2022年度)の監査官しかおらず、常態化している法令違反に対応すらできませんでした。監査で質を担保することには無理があります。

 2018年、悪質業者の排除、荷主対策の強化、賃金水準の向上等を内容とする改正貨物自動車運送事業法が成立しました。許可取消処分をうけた事業者の欠格期間を2年から5年に延長することや、処分逃れのために自主廃業するなどの悪質な業者を排除するための参入規制を強化しています。

 また、トラック事業者に無理な着時間指定や過積載を取引条件とするなど違反を強いる荷主の不当な行為を防止するために、事業者が法令遵守できるよう荷主に配慮義務を規定するとともに、国土交通大臣が厚生労働大臣や経済産業大臣などと協力して荷主の理解を得るための働かけ、協力要請、それでも従わない場合に勧告と公表ができる規定を新設するなど、荷主対策を強化しています。

 さらに、労働者の賃金にも影響する運賃のダンピングを防止するために、荷主との運賃の交渉をする際の目安となりうる「標準的な運賃」の告示制度の導入(時限措置)等が盛り込まれており、これまでの規制緩和路線のひずみを一部是正する方向にはなっています。

 この法律に基づき、2020年4月24日、「標準的な運賃」が告示され、トラック運送事業者が荷主に対して、運賃の引き上げ交渉を始めています。

 しかし、コロナ感染症拡大の影響もあり、「取引のある荷主7者全員に断られた」など、運賃引き上げにはつながっていません。トラック運送事業者の約7割が、車両保有台数20台以下の中小事業者で、荷主に対する交渉力は弱い立場にあります。「標準的な運賃」は、2023年度末までの時限措置であり、恒久化するとともに、実効性あるさらなる施策が求められます。

 改善基準告示の見直しに関する労働政策審議会の労働条件分科会自動車運転者労働時間等専門委員会トラック作業部会での審議が継続しています。「8時間の現状維持」「事業者が調整できるよう、休息期間は2日平均の基準にしてはどうか」など、使用者側にとって都合のいい労働時間にしようとの意見が相次いでおり、中間とりまとめにむけた攻防が続いています。労働者のなかで最も過労死が多いトラック運転者の命と健康を守るために、11時間以上の休息期間を保障することが求められます。

―――荷主などによる低運賃発注や下請け重層化による"中抜き"をやめさせ、運転手が安全・安心できる賃金の確保など適正運賃が授受できるよう運賃ダンピング競争を排除します。

―――「自動車運転者の労働時間等の改善のための基準」を改善し法制化します。

当面、①拘束時間1日13時間以内、②休息期間11時間以上、③1ヶ月の拘束時間252時間、④運転時間1日7時間以内、⑤連続運転時間2時間以内に改善します。

自転車交通の安全を確保、気候危機打開にも役立つ自転車の活用を推進

 自転車は、最も身近な交通手段であり、自動車への依存度を低減させることで、交通混雑を緩和し、国民の健康増進の効果も期待できます。二酸化炭素等の温室効果ガスを発生せず環境にも優しい乗り物であることから、気候危機の打開にも寄与するものです。さらにコロナ禍のもとで、通勤・通学時の「密」を避けるために、自転車通勤・通学にも関心が高まっています。

 自転車の活用を推進するために、「自転車活用推進法」が2016年、議員立法によって成立しました。同法に基づく「自転車活用推進計画」は、2020年度を目途に、地方自治体による「自転車活用推進計画」の作成、自転車通勤の促進、自転車乗車中の交通事故死者数の低減等の目標を定めています。その実績は、自転車活用推進計画を策定した地方自治体が89自治体(2019年度末)、自転車乗用中死者減少割合が2017年度比で9.6%などとなっています。

 政府は、第1次自転車活用推進計画の実績を踏まえ、2021年5月、「第2次自転車活用推進計画」を閣議決定しました。同計画は、2025年度の目標として、地方自治体による自転車活用推進計画の策定を400市町村、企業等の通勤目的の自転車分担率を18.2%、自転車常用中死者数減少割合を道路交通事故死者数全体の割合以上に減少させるとしています。

 自転車の安全をめぐる状況は、自転車対自動車交通事故を含む自転車関連交通事故件数はこの10年間で半減しています。一方、自転車対歩行者事故件数は、横ばいで推移しています。自転車と歩行者との衝突事故をいかに減少させるかが課題となっています。

 自転車の安全を確保するためには、歩道、車道と分離された自転車通行空間を整備することが重要です。しかし、実態は進んでいるとはいえません。政府は、歩道と分離された自転車通行空間を整備していますが、2020年度末で、全国で2,930km(2020年3月31日)となっています。その内訳は、自転車専用道路80km、自転車道160km、自転車専用通行帯540kmと、歩道、車道と明確に分離した自転車通行空間は、全体の27%に過ぎず、73%は車道に矢羽根型路面表示等を記しただけの車道混在となっています。これでは、自動車との接触を恐れて歩道を通行する自転車があとを絶たず、自転車と歩行者との事故を減らすことも期待できません。自転車通行帯上に駐車した車両を、自転車がよける際の危険性も指摘されています。

 自転車通勤の導入は、事業者にとっては経費節減、イメージアップ等の、従業員にとっては、心身の健康増進等のメリットがあります。さらに、コロナ禍にあっては、通勤時に鉄道やバスなどの「密」を避けられることから、感染予防にもなります。政府は「自転車通勤推進企業宣言プロジェクト」に取り組んでいますが、宣言企業は地方自治体やNPOを含め44、優良企業は2であり(2021年7月13日)、進んでいるとはいえません。企業が自転車通勤導入に消極的になる原因の一つに、事故時の企業の使用者責任や労災認定等が不明確となっていることがあります。企業は、事故対応をはじめ導入に必要な制度設計を整え、政府は、その推進のために積極的に企業に働きかけることが求められます。

―――歩道、車道と分離された自転車通行空間を抜本的に整備し、自転車対歩行者事故を減らします。

―――無料の駐輪場を整備します。

―――自転車を安全に利用するために、学校における交通安全教育をすすめます。

―――自転車通勤の普及を促進するために、企業の責任範囲の明確化など環境整備を進めます。

―――通勤・通学、日常生活、観光などあらゆる機会に自転車の活用を推進し、交通における自動車への依存度を減らしていきます。

航空・空港政策

新型コロナ禍で求められる政策の根本的転換~安全・公共性を優先した航空・空港政策を~

 長く続いた自民党政権のもとで、公共投資として過大需要予測に基づく空港が全国各地につくられました。一方で、1990年代からのグローバル化の進展で、中国、韓国などでハブ空港化がすすみ、これに対抗できる大都市部の空港の機能強化が推し進められました。とりわけ、2013年以降、安倍自公政権は、インバウンド需要の取り込みをめざし、2020年に年間4,000万人、2030年に6,000万人の訪日客誘致を目標にした観光ビジョンを決定し、首都圏空港の機能強化を進めています。これは、羽田空港と成田空港の国際便の発着回数を2020年までに年8万回増便するために、羽田新飛行ルートの導入や滑走路増設などのインフラ整備に重点投資するというものです。

 また、LCC(格安航空会社)の参入促進をはじめとした徹底したオープンスカイを推進するため、100項目以上の安全規制を緩和するなど、前のめりの姿勢を強めてきました。

 しかし、2020年春頃から発生した新型コロナウイルス感染拡大によって、日本の航空政策はそれまでの見通しや将来計画にとって根本的な見直しが迫られる、歴史的な岐路に立たされています。

 新型コロナ感染拡大による航空需要激減で、国際線の運航便数は、コロナ前(2020年1月中旬)と比べて、羽田空港・成田空港がともに7割以上減、その他の空港が9割以上減となっています(21年8月6日現在)。日本発着便から便数ゼロとなった国際線は、21年8月前半の週では約240路線に及んでいます。2020年度における国内定期航空輸送の旅客数は、幹線が1,500 万人で対前年度比 64.7%減、ローカル線が、1,877万人で対前年度比 68.4%減、全体として 3,377 万人で対前年度比 66.9%減、国際航空輸送の旅客数は、81万人、対前年度比96.2%減少となっています。

 新型コロナ感染症の収束が見えない中で、航空需要激減やインバウンド需要の回復の見通しは立っていません。首都圏空港の増便や拡張の必要性がなくなり、見直しが求められているにもかかわらず、自公政権は「訪日外国人旅行者数2030年6,000万人の政府目標の達成」との基本方針を撤回していません。「ポストコロナの成長戦略」の名で、それ以前の空港拡張計画・大規模事業に固執し、突き進んでいます。

住民の安全・安心脅かす首都圏空港政策の転換を
コロナの影響で必要性がまったくなくなった羽田新飛行ルートの運航はただちに中止を
空港の混雑状態を緩和し、余裕を持った安全最優先の運航へ

 羽田空港では、国際線の昼間時間帯の発着回数を年3.9万回増便するために、それまでの海上ルートから都心上空にルート変更し、新宿、渋谷、品川などの都心部、埼玉県南部の市街地など人口密集地の上空や、危険物が集中する川崎コンビナートの真上などを超低空飛行かつ高頻度で飛行する新ルートの運用を、住民の大きな反対を押し切って2020年3月29日から開始しました。高層ビルも多い品川区では、高度300メートル前後の超低空飛行が行なわれています。

 そのため、騒音被害が深刻になっており、新飛行ルート下の住民から「会話ができない」「窓を閉めていても、うるさい」「テレワークができない」「勉強に集中できない」「轟音にびっくりして子どもが起きた」「イライラ、ストレスが溜まる」「1年以上経っても慣れることはない」など、騒音への苦情や、落下物の危険に不安・恐怖を感じるなどの抗議の声が殺到し、新ルートの運用開始後、20年12月末までに国交省への苦情は約6千件寄せられています。

 この新飛行ルートは、1970年に大田区民と交わした「海から入って海に出る」とした約束を反故にしたものです。

 もともと、新飛行ルートは2020年の東京五輪・パラリンピックで訪日客が増えることをあてこんで、羽田の国際線を増便することが目的でした。ところがコロナによって五輪は1年延期のうえ、今夏、コロナ感染急拡大による「緊急事態宣言」下で国民の強い反対世論に背いて強行開催したものの、無観客開催となったため、なおさら国際線の増便の必要性がなくなっています。

 赤羽国交大臣は「必ず(増便が)必要なときは来る。助走期間としてしっかりデータを蓄積して分析をする」などと、根拠のない楽観的な見通しで、危険な新飛行ルートの運航に固執しています。

 しかも、羽田空港は、新飛行ルートへの見直しに必要な施設整備に2017~19年度までの3年間に377億円もかけたうえ、さらに空港アクセス鉄道の基盤施設整備に着手するなど機能強化に毎年税金投入を続けています。

 しかし、都心低空飛行による航空機事故や落下物は、重大事故につながり、都民・住民の命にかかわる問題です。住民に騒音被害をまき散らし、危険極まりない羽田新飛行ルートを固定化させてはなりません。

 「東京湾上空は大変混雑」「新しい滑走路を作ったとしても、それだけでは便数を増やすことはできません」(羽田のこれから)

 政府は、都心上空ルート変更の必要性を説明していました。航空管制の指示で離発着する航空機の混雑は、瞬時の判断を一歩間違えば、大事故につながる危険性も高くなります。都心上空ルートに変更することで、混雑、危険度を軽減できるわけではなく、墜落や落下物の危険を増すだけです。

 しかも、コロナ禍で便数を増やす必要もなくなっています。羽田空港の機能強化で優先すべきは、増便のための容量拡大ではありません。今やるべきは、首都圏空港の混雑状態を緩和し、管制も機長も余裕を持って運航できる安全最優先の機能強化です。

コロナ禍で成田空港の深夜運航、新滑走路建設は必要なのか再検証を
―――コロナ以前の整備拡張計画・大規模事業は、中止を含め見直します

 成田空港でも機能強化がすすめられています。離発着の処理能力を年4万回拡大し、34万回にするため、2019年10月から、A滑走路の発着時間を夜11時から零時に延長しました。これは飛行時間制限の変更の際は住民と協議するとした開港時の約束を無視したもので、1978年開港以来、初めて飛行時間制限を緩和するものでした。

 さらに成田空港は2028年度には年間発着回数50万回の実現をめざし、第2滑走路延伸と第3滑走路新設などの空港拡張計画のために、2020年度、成田空港㈱に対して国が出資金300億円、財政投融資4,000億円を執行しました。

 しかし、離発着の年間処理能力を34万回に拡大した成田空港は、コロナ前の2019年度には、国際線・国内線の発着回数合計は約26万回で、もともと十分な余力がありました。コロナ感染拡大が本格化した2020年度(4月~21年3月)の発着回数は年間10.6万回まで激減しています。現在の年間処理能力の3割程度しか使われておらず、増便・拡張が不必要なことがはっきりしました。年間発着回数50万回めざした滑走路新設など不要不急の大規模事業は中止を含め見直すべきです。

地方の活性化、東京一極集中の是正、安全安心の機能こそ強化を

 新型コロナ感染症の拡大は、東京一極集中のリスクと是正の必要性を再認識させました。首都圏空港の機能強化そのものを見直す必要があります。

 首都圏空港にヒト・モノ・カネが集中すれば、東京一極集中を加速することは目に見えています。国際金融都市構想など外資系金融会社等の誘致など都市再生・再開発事業が目白押しで、超高層オフィスビルも都心のいたるところで建設されています。首都圏空港を国際線と国内線との中継拠点とする「際内航空ネットワーク」を強化すれば、地方の活性化や一極集中の是正にも役立つどころか、地方から東京へ流出するストロー現象も加速されるだけです。

 コロナ禍でインバウンド需要が止まっていますが、コロナ収束後、多くが東アジア、東南アジアなど近隣諸国からの訪日客になると思われます。近隣諸国ならば、首都圏ではなく、地方の空港へ直行する航空路を結ぶことは難しくありません。多くが赤字経営の地方空港に、直結する航空旅客が増えることのほうが地方活性化に役立つのは明白です。

 自公政権は、国際競争力の強化などとして、コロナ後の航空需要の増加を理由に、空港の処理能力拡大、増便や拡張をすすめる姿勢を変えていません。次から次へ野放図な税金・公的資金の投入が懸念されます。いま、緊急に求められているのは、首都直下型地震など大地震に備えた空港施設の耐震改修や老朽化対策など空港機能の安全安心です。

空港の保安検査、新型コロナの水際対策の強化

 米国では2001年の同時多発テロ以降、それまで民間が担っていた保安検査を国の機関(運輸保安庁)国家公務員が担っています。日本では保安検査員の人件費は、航空会社と空港管理者が1/2ずつ負担しており、全国97空港のうち国が1/2を分担しているのは国管理空港の19空港だけです。

 テロ対策を強化するため、保安検査に対する国の責任を明確にし、すべての空港の保安検査員の人件費への財政支援を強めるなど実効性ある対策をすすめます。

 また、新型コロナウイルの変異株の流入阻止のための水際対策を強化するため、空港検疫の人員体制を拡充します。

空港の民営化(事業運営権売却・コンセッション方式)に反対し、空港経営のあり方を見直します

 国と地方が管理する空港は、全国に98空港もあります。採算を度外視した過大な需要予測によってつくられましたが、その多くが、いまでも採算が取れず赤字経営を続けています。

 政府は、空港の事業運営権を民間に売却する(コンセッション契約)などで採算がとれる空港経営をめざしています。しかし、実際には、採算の取れる事業分野を民間企業に売却し、利潤獲得のために利活用させるもので、空港の安全性や公共性を確保する公的な責任をあいまにするものです。

 政府は、コロナによる航空便数の廃止・大幅減によって収入減少・経営難に陥った空港運営会社の救済策として、コンセッション(民営化)空港に対し、施設整備費用への無利子貸付や運営権対価分割金等の猶予などの支援に乗り出しました。

 しかし、もともと2013年の民活空港運営法により、空港経営改革として導入された空港コンセッション(民営化)の目的は「民間の知恵と資金の活用等により空港経営の徹底的な効率化を図る」ことでした。今回の支援により、コンセッション導入の目的に照らしても、何のための民営化だったのか、破たんが明らかになっています。空港経営のあり方を見直すべきです。

※「民活」方式の失敗で巨額の負債を抱えた旧関西空港と国直轄の伊丹空港を民営化・統合し、新関西国際空港(株)が2012年7月発足。関西エアポート株式会社(「オリックス、ヴァンシ・エアポート コンソーシアム」が設立した新会社)が2016年4月から運営開始したのがコンセッション空港の始まりです。これまでに国等の管理で、仙台空港、高松空港、福岡空港、熊本空港、北海道内7空港、広島空港が運営開始し、地方管理では、但馬空港(兵庫県)、神戸空港(神戸市)、鳥取空港(鳥取県)、静岡空港(静岡県)、南紀白浜空港(和歌山県)で開始しています。

航空業界の雇用を守る支援こそ、JAL解雇争議の早期解決を
―――コロナ禍を理由にしたリストラや安全規制の緩和を許さず、航空の安全、雇用を守ることを最優先にするよう監督・指導を強めます

 コロナ感染拡大による航空需要減によって、航空業界はかつてない経営危機に直面しています。ANAホールディングスは2020年度、過去最悪の4,060億円の赤字で、航空事業の2020年度末の人員約3万8千人を2025年度末までに2割減の3万人程度に減らす計画を発表。JALは2020年度の最終損失(赤字)が約2,800億円以上となりました。国交省は2020年10月と12月にこれらの航空業界への「支援施策パッケージ」を発表し、2021年通常国会ではそれらの施策を遂行することを柱にした航空法改定も行いました。

 航空ネットワークを維持・確保するため、国が支援に乗り出すことは必要なことですが、その場合、空の安全、雇用を守ることが中心に据えられるべきです。

 しかし、過去の航空業界の経営難に際し、政府は、航空会社に対して、支援の前提条件として、徹底した合理化、コスト・人件費削減などの事業計画を作成させてきました。また、航空会社の要求に応え、安全規制の見直し・緩和を行なってきました。

 2009年リーマンショック後の日本航空(JAL)の経営破たんでは、国の支援と引き換えに、再建計画に基づいて1万6千人の人員削減が行なわれ、それに伴い、不当解雇が行われました。このリストラは、すでに人員削減目標も達成し、再生計画を上回る利益(2010年12月時点で1,586億円)をあげ、稲盛会長(当時)が解雇の必要がないことを認めていながら、165人のパイロットと客室乗務員の解雇を12月31日に強行するという、不当極まりないものでした。この「整理解雇」は、たたかう労働者・労働組合を狙い撃ちにした、労働者・国民の権利を奪う攻撃であるとともに、航空の安全運航を支えてきたベテラン労働者を対象にした航空の安全を軽視する「利益なくして安全なし」を実践するものでした。解雇裁判では、JALの不当性は認められませんでしたが、労働組合に対する不当な介入は不当労働行為だと最高裁で断罪されました。

 ILOから4次にわたる勧告を受け、JAL社長が「解雇問題を早期に解決したい」と発言したにもかかわらず、いまだ、解決にいたっていません。

 JALは、165人の整理解雇を強行したことから、"雇用を守ると言っても信用できない"との不信や不安を払しょくできていません。公的支援を受けるJALは、争議の解決をはかり、雇用を守る責任を果たすべきです。

 政府は、165名の解雇問題・争議を一日も早く解決するため手立てをうち、JALにその責任を果たさせるべきです。

港湾・海運政策

遊覧船事故――観光船等の安全確保へ、参入規制と検査体制強化を

 2022年4月23日に知床半島沖で起きた観光船「KAZUⅠ」(カズワン)の沈没事故は、乗客乗員26人のうち、14人の死者、12人の行方不明者(6月20日現在)を出す大惨事となりました。

 現在も行方不明者の捜索が懸命に続けられています。また、6月1日に陸に引き上げられた船体の検証も行われ、沈没した原因調査も始まったばかりです。

事故原因の徹底解明

 引き上げられた「KAZUⅠ」(カズワン)の船体を調べたところ、船倉の壁に穴が開いていたことが確認されています。機関室の前後の壁にも穴が開いていましたが、国の検査で指摘され塞がれていました。船倉の壁の穴は検査対象にもなっていませんでした。専門家からは、この穴で浸水が早まった可能性があると指摘されています。こうした、船体そのものに欠陥があり、その運航を許していたのはなぜか、詳細な事実が明らかになるのはこれからです。事故原因の徹底解明が求められます。

安全管理体制がずさんな"悪質"事業者

 22年6月16日(有)知床遊覧船は、海上運送法の安全管理規程違反等の理由で旅客不定期航路事業許可が取り消されました。

 運行管理者の資格要件である「3年以上の実務経験」を満たしていないにもかかわらず虚偽の届け出を行い、社長を運航管理者に選任していたことや、強風注意報発令という悪天候のなか、波の高さなど出航の基準を守らず出航させたことなど安全管理規定に違反していたとされています。

 (有)知床遊覧船は、2001年に事業の許可を受け、旅客不定期航路事業に参入しました。しかし、2017年に経営者(社長)が変わり、ベテランを含む大半の従業員が退職しています。小型船舶の安全確保を軽視する"悪質"な事業者が安易に遊覧船事業に参入できる仕組みこそこそ問題です。国交省に設置された知床遊覧船事故対策検討委員会では、国の管理体制の見直しについての議論とともに、安全確保が不十分な"悪質"事業者の退出を促進するため、旅客不定期航路事業の許可を一定期間ごとに更新する制度を設ける方向で検討しています。

国のチェックは万全だったか

 安全をないがしろにしてきた事業者に国がどういう対応を行ってきたのかも問われます。事前検査での見逃しなど国のチェック体制の甘さとともに、船舶検査を日本小型船舶検査機構に丸投げ、安全管理規定等の内容チェックを会社まかせにするなど国の監視・監督を弱めてきたことについても追及が必要です。

 カズワンは、昨年2021年にも5月、6月と2度の事故を起こしています。2度目の事故後、国交省は、事業者の特別監査に入り行政指導を行っています。その際、事業者が提出してきた改善報告書は同じ数字がならんでいるなど、よく精査すればずさんであることがすぐに見抜けるものでした。ところが、国交省は信ぴょう性の疑われる改善報告書をうのみにしていました。是正するチャンスであったにもかかわらず、見逃した責任は重大です。

10月に行った改善状況確認の抜き打ち検査も社長が不在だったため、電話確認のみで済ませ、言い分をそのまま評価しました。

事業者まかせ、国の責任放棄

 今回の事故では、無線の代わりに使用していた携帯電話が圏外でつながらず、事故の通報が遅れました。事故3日前に船舶の検査を行った日本小型船舶検査機構は、携帯電話でも航路全域でつながるという事業者側の申告をそのまま信用し、使用を認めていました。国は、船舶の検査を、民間の日本小型船舶検査機構に任せきりにしています。事故に伴う修理に対する検査であっても、国への報告は不必要で、国がまったく関与しない仕組みです。船舶の運航管理の監査をしっかり行えるよう、運航労務監理官を増員して、船舶検査に国が直接チェックすることも必要です。通信手段に携帯電話を認めている制度もあらためる必要があります。

 (有)知床遊覧船では、社長が安全統括管理者と運航管理者を兼務していました。運行管理者に経験のない者や乗船して任務遂行できない者を充てるなど「名ばかり」状態でした。安全統括管理者や運航管理者の兼務は認めず、実態のある制度にすべきです。

背景にある規制緩和政策

 今回の重大事故を通じて、背景にある歴代政権のすすめてきた規制緩和政策があることが浮かび上がりました。

 知床観光船など旅客不定期航路事業は、1995年、海上運送法の改訂により、遊覧船事業について、新規参入を制限する「需給調整規制」の対象から除外となりました。「規制緩和推進5か年計画」策定を受けて、鉄道、航空、海上・道路運送など運輸省関係法律を一括して改訂する法案として成立しました。その結果、自由参入が容易となり、1995年に455だった事業者は2021年に560事業者へと増加しています。

 内航海運業の規制緩和をめぐっては、1999年に、一般旅客定期航路についても、免許制を許可制に緩和し、旅客船事業全般について、需給調整規制を廃止することになりました。

同時に、運賃も認可制から届け出制になりました。規制緩和で、安全よりももうけを優先する"悪質"事業者の参入を許す土壌がつくられたと言わざるを得ません。

 ひとたび需給調整規制を撤廃してしまえば、"悪質"事業者の参入を食い止めることが難しくなります。海上運送に経験もなく、詳しくない異業種からの転向組や、悪質な事業者も参入する可能性が高くなります。市場原理に任せて競争させればサービスがよくなるどころか、事業者は運賃値下げで利用者の獲得に走らざるを得なくなり、その分、安全面にかける経費をけずったり、人件費の節約で無理な人員配置をすることになります。今回の重大事故は、まさにそのことがはっきりとあらわれた事故でした。

 政府は、法令違反には罰則規定や行政指導などで対応する、としていますが、事故が起こってからでは遅いのです。せめて、チェック機能を強化することは喫緊の課題です。

 国交省は、「運輸分野においては安全の確保が最も重要な課題であり、安全確保のための方策については、基本的に需給調整を廃止した後も講じていくことが適当」としています。ところが、その方策は不十分であったことが、今回の事故で明白になりました。

 需給調整を廃止した以上は、自由な参入に任せて一部には悪質な業者も入ってくることを十分想定し、その悪質な業者をチェックし、市場から速やかに退出させる実効性のある方策が必要です。

安全確保について、市場による自律的調整の機能に任せきることはできない、さらに徹底されなければならないことが今回の事故の教訓と言えます。

国際競争優先から国民生活、地方経済重視の港湾・海運政策へ

 長く続いた自民党政権のもとで、公共投資として過大需要予測に基づく港湾が全国各地につくられました。一方で、1990年代からのグローバル化の進展で、中国、韓国などでハブ港湾化がすすみ、物流等の拠点機能は、アジアの主要都市に移行しました。99年発足した自公政権は、これに対抗できる港湾の再興をめざし、スーパー中枢港湾整備、国際コンテナ戦略港湾などへ重点投資してきました。

 2013年、民主党政権後の安倍自公政権は、「国際競争力の強化」をかかげ、国際コンテナ戦略港湾などグレードアップ化、公共投資の重点化を強力に推し進めています。

新型コロナのパンデミック、ウクライナ侵略の影響と物流の状況

 '90年以降の規制緩和、弱肉強食など新自由主義的な政策が、富の一極集中を進める一方で、庶民の生活を圧迫しています。

 物流では、新型コロナのパンデミックにより、世界的なコンテナ船不足と海上輸送運賃の高騰が起こっています。コロナ禍で、自宅で使う商品の需要(巣ごもり需要)が拡大し、荷物量が急増していますが、世界のコンテナ生産量の約98%を占める中国が、米中貿易摩擦や新型コロナでコンテナ生産量を抑え、海運会社もコンテナ船を減便させるなどしたため、コンテナ貨物や空コンテナが港湾に滞留し、コンテナ不足が発生。同時に、コンテナ不足による海上運賃が高騰し、運賃が2~7倍まで跳ね上がっています。

 日本の海運大手3社のコンテナ船事業部門統合会社ONE(事業運営をシンガポールに置く多国籍企業)の2022年3月期の連結純利益は過去最高を更新、経常利益は167億5600万ドル(日本円で約2兆1800億円)にのぼり、前期の4.8倍にまで膨れ上がるなど「海運バブル」と呼ばれています。ドル建てでの収入が主体のため、アベノミクスの結果である円安が収益の上乗せとなっています。

 貨物運賃の高騰は、あらゆる価格にはね返り、消費者や中小事業者の生活、経営を圧迫しています。賃金や労働条件の低下など労働者へのしわ寄せも免れません。

 一方で、ロシアによるウクライナ侵略の影響が世界の原油価格を押し上げ、追い打ちをかける状況になっています。内航海運事業者は、中小零細企業が多く、燃料費の比率が大きいため、原油価格の高騰が大きな打撃となります。

 政府は、22年度補正予算で、原油価格高騰対策として1.2兆円(ほか予備費0.3兆円)を措置しました。燃料油に対する激変緩和事業などに使われますが、国交省は「内航事業者にとって、一定の負担軽減の役割を果たしている」と説明しています。

 予算措置のほかに、政府は、22年3月発表の「原油価格高騰に対する緊急対策」に、内航海運業についての項目を盛り込みました。おもな内容は、①石油、セメント、鉄鋼など荷主企業に対し、燃料サーチャージ、運賃転嫁、コスト保証など燃料の価格上昇分が適正に運賃に反映されるよう協力を依頼する、②荷主(石油など大企業)と海運事業者との公正取引、取引環境の改善を図るため、契約の書面化など徹底し、不当な運賃の据え置き等に対し、働きかけ、勧告、公表等の必要な対応を行う、というものです。

 内航海運に関するさまざまな課題のおおもとには、強大な荷主(石油など巨大企業)を頂点とする重層下請け構造があります。強大な力を持つ荷主企業に、その輸送を一括して行う元請け海運業者から2次3次の下請け業者に行く間の不公正な取引が、運賃のダンピングにつながっています。その結果、行き過ぎたコスト削減を招き、安全な運航のために必要な数の船員を配乗できないなど労働環境の悪化を招いています。現場の船員からも、重層下請け構造の改善を望む声が根強くあります。

 また、コンテナ滞留によるサプライチェーンの混乱も引き続き深刻です。特に木材分野への打撃が大きく、輸入が大幅に遅れるなど「ウッドショック」が起こっています。ウッドショックと運賃高騰のダブルパンチで建築資材の木材価格が押し上げられ、さらに、ロシア産木材の輸入がストップしていることから品薄と価格上昇がすすんでいます。国内の建築業者は、建築中に何度も見積もり変更を余儀なくされ、施工主からのキャンセルや自腹での差額支払いなど、営業が立ちいかなくなっています。物流の混乱を緩和し正常に戻す対策が急がれます。

国際戦略港湾政策から地方港湾活性化への転換を

 国際貨物物流では、コンテナ貨物船やバルク(バラ積み)貨物船など船舶の大型化が急速に進むなか、これに対応できる国際コンテナ戦略港湾(京浜港・阪神港)を整備するとして、2022年1月までに8,257億円が投入されています。総事業費は当初5,500億円から1兆3,000億円に大幅に増大しています。国際コンテナ戦略港湾政策は、「我が国の『港湾力』を最大限に発揮し、アジア・世界からの成長を取り込むため」としていますが、近隣諸国の大型港湾に奪われた貨物を取り戻すため、というのが本音です。

 コンテナ貨物を集荷するために、高規格道路の整備などもすすめるとしています。国交省は、地方港湾の貨物を、内航フィーダー輸送(支線輸送)の強化で、国際戦略港湾に集約するなどとしています。しかし、自動車産業が釜山港等の活用を考えて九州に事業所を集約するなど、輸送のコスト削減圧力が強まっている状況の下では、簡単な話ではありません。

 もともと、港湾整備事業は、90年代以降、アメリカの要請などによる公共投資拡大策で、「船の来ない港」「1,000億円の釣堀」など揶揄される港を全国各地につくってきました。その既存の港湾を地方活性化のため活用していくことが必要です。例えば、釜山などアジアのハブ港湾を中継すれば、直接、地方都市への貨物輸送が可能になり、三大都市圏の港湾に荷揚げされた荷物を陸路でトラック輸送しなくても済みます。モーダルシフトとしての内航海運の利活用の促進にもつながります。

―――国際戦略港湾事業は中止を含め抜本的に見直します。新規の大型港湾開発事業から、既存港湾の耐震化・老朽化対策など維持更新事業に重点を切り替えます。

―――物流貨物の大都市圏港湾集中から、地方に直結した物流へ転換します。

―――近隣国の港に奪われた「荷物を奪還する」など競争至上主義の発想ではなく、すでにハブ港となっている近隣諸国の港湾を活用し、日本の既存地方港湾と直接結ぶ輸送を重視するなど、「協調」による物流戦略に転換します。

―――モーダルシフトや地域の循環型経済を推進するため、内航海運の振興を強めます。

島民の足-離島航路を地域公共交通として位置づけ、維持・存続する

 離島航路は、島と本土、島と島を結ぶ離島住民の足であるとともに、生活物資等の輸送手段としても重要な役割を果たしています。離島航路は、少子高齢化に伴う人口減少等の進行から利用者数はこの20年で約3割減少しており、その維持・存続は重要な課題です。

 新型コロナの影響で、291航路のうち、21年9月末までに91航路(なかには10月以降復活したものもある)、10月以降52航路が減便を余儀なくされています。医療体制が脆弱な離島においては、島民への感染拡大防止のため、観光客等に対し来島自粛を要請せざるを得ないなど、旅客船への影響は極めて大きくなっています。

 離島航路事業者の多くは厳しい経営状況にあります。国の補助制度としては、地域公共交通確保維持改善事業による離島航路補助制度があり、2022年度は70.5億円の予算が計上され、127航路が補助を受けています。その内訳は、離島航路運営費補助64億円、離島住民運賃割引補助0.5億円、離島航路構造改革補助5.9億円となっています。予算額は、この10年間、70億円前後と横ばいが続いていますが、離島航路を維持・存続させるために、国の支援を抜本的に強化する必要があります(離島に対する補助は、ほかに日本の領海、排他的経済水域等の保全を目的に、有人国境離島に対して行われている特定有人国境離島地域社会維持推進交付金等があります)。

―――離島航路は地域公共交通として維持・存続を前提に、運賃値下げ、十分な運航便確保など利便性の向上を図ります。

港湾、海運事業の「規制緩和」・民営化に反対し、船員・労働者の雇用・労働条件を守る

 新型コロナのパンデミックで、規制緩和、弱肉強食など新自由主義的政策を根本的に転換する必要性が明らかになりました。しかし、自公政権は、港湾や海運事業の規制緩和等を改めようとはしていません。

 1990年代からの「需給調整規制の廃止」など規制緩和は、内航海運の船腹需給調整、旅客船事業や港湾運送事業での新規参入・運賃規制の緩和などとして進められてきました。その結果、過当競争によるサービスの質や安全性の低下、運賃のダンピングによるコスト削減が横行し、下請け事業者、船員・港湾労働者などにしわ寄せされました。また、離島航路も維持・存続が脅かされる状況が続いています。

―――港湾運営の「規制緩和」・民営化に反対し、労働者の雇用労働条件を守ります。

 「港湾運営会社」を設立するなど、港湾運営の民営化に反対します。国際競争力強化や効率化と称して、もともと公共財である港湾を、特定の民間事業者の儲けの場として提供する懸念が払拭できません。これまでも規制緩和がすすみ、コスト削減競争が激化し、港湾で働く労働者に犠牲が押し付けられてきましたが、民営化で更に労働者の雇用・労働条件は深刻化することが危惧されます。

―――内航海運は日本籍船に限るとするカボタージュ規制の堅持し、安定的な海上輸送と安全保障、労働者の権利を確保します。

 2020年、コロナ禍を理由に、国交省は、JR九州子会社によるパナマ籍旅客船(博多~釜山航路就航予定)の国内コース転用を特許という形で認可し、船舶労働者や海運業者の間では、これを突破口にカボタージュ規制がなし崩しに緩和されるのではないか、という懸念が広がりました。緩和が進めば、コストで勝る外国籍船による国内海運業への深刻な打撃は避けられません。

国の措置に対し、船舶労働者や海運業者は、交通政策審議会海事分科会などで強く批判し、反対運動も大きくなりました。その結果、会社側は、日本船籍化する手続きを2021年12月に開始し、転籍するに至りました。カボタージュ規制は守られ、規制緩和への足掛かりを阻止することができましたが、今後も注意が必要です。

―――船舶の安全な航行に直結する船員の労働環境を守り、船員不足の解決をはかります。

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