現場Note

「赤旗電話相談」──〝ゆっくり待つ、じっくり聞く〟を第一歩に

徳間絵里子(くらし家庭部)

徳間絵里子(くらし家庭部)

 「しんぶん赤旗」には「電話相談」の窓口があります。1978年3月1日、「読者のみなさんのくらしの相談に専門家が直接こたえる」企画としてスタートし、今年45年目を迎えました。

 分野は「法律」「年金・社会保険」「税金」「マンション・住宅」「子ども・教育」「障害児教育」「医療福祉」の七つ。弁護士、社会保険労務士、税理士、一級建築士、元教員、元医療ソーシャルワーカーなど約40人の専門家が回答者を務めています。

 さまざまな悩み事に、専門家が直接電話で答えてくれるのは、他紙にはない独自のサービスです。

 「人生相談の老舗である新聞はいかに悩みに答えてきたか」という週刊誌の特集に、こう紹介されました。

 「...その形式自体が特徴的なのが、赤旗。人生相談というコーナーを設けているのではなく、電話相談の回線を作り、掲載も相談者と回答者の対談形式。悩みを12種類に分類し、その対応も的確だ。中でも人気が高いのは、赤旗読者らしく法律、年金、税金」(『SPA!』1995年7月12日号)

ノート150冊

 私はこの赤旗電話相談を担当して26年たちます。主な仕事は二つあり、一つ目は電話相談の受け付け担当として、相談者と回答者のやりとりを記録する業務です。相談内容を記録したノートは150冊になりました。

 相手の声の様子から、生活の困難さや悩み、心配事などがリアルに伝わってきます。「コロナ禍で失業し、家賃や社会保険料の支払いに困っている」「娘が夫から暴力を受けて別居中だが、離婚に向けた話し合いができない」。こうした相談を、専門家が丁寧に聞き取り、法律や制度を活用することで解決の方向を考えることができるのは、「赤旗電話相談」ならではの魅力です。

 日本共産党の綱領がめざす「当面する国民的な苦難を解決し、国民大多数の根本的な利益にこたえる」活動の一端として、平和でくらしやすい社会を実現するための貢献にもつながっていると思います。

 もう一つの仕事は、相談内容を記事にまとめ紙面で紹介することです。寄せられた相談は、日刊紙のくらし・家庭面「くらしの相談室」、日曜版「赤旗相談」欄に毎週掲載しています。「相続や家族問題、近隣トラブルなど大変参考になります」「法律に疎いので、非常にわかりやすく解説していただき、毎回読むのが楽しみ」「記事は切り抜いて保管している。家族や知人、友人などの悩みを解決するのに役立ちます」など、多くの感想が届いています。

 「日曜版で毎号一番先に読むページは『赤旗相談』です。私が66歳、妻が60歳なので年金関連の相談は特に参考になることが多く、スクラップにして保存しています。61歳から腎臓病で障害年金を受給していますが、申請の際も知らないことが多く、記事が大変役に立ちました」(東京都内の読者から)

献身的な協力

 電話相談の活動は、専門家の方々の献身的な協力によって支えられてきました。「回答者として、日本共産党の活動に参加できることは光栄」「車いすになっても続けたい」と、多忙ななか回答者を務めていただいています。

 午後2時から4時までの相談時間の合間に、回答者の方には今取り組んでいる仕事の話を聞いたり、共産党との出会いを質問したり。〝こんな政治を変えなければ!〟で意気投合することが多く、専門家の方たちと貴重な時間を共有できるのも、やりがいの一つです。

社会状況の反映

 相談を受けるさまざまな問題は今の世相を反映しており、社会で何が起きているかを教えてくれます。「高齢の兄がごみ屋敷で暮らし、近所から苦情がきた」、「子どもに負担をかけたくないので墓じまいをしたい」、「亡くなった夫の側の親族と関係を断つ方法があると聞いた...」など、新しいテーマも寄せられます。家族関係の変化がうかがえ、発見の連続です。

 しかし、国民のなかに広がる生活苦は深刻です。「くらしが困窮する知人は家賃を滞納し、賃貸アパートを追い出されそうだ」という相談では、地元の党組織や議員と連絡を取り、生活保護を申請できたケースもありました。全国のネットワークに助けられています。

 たとえば労働問題で、以前は解雇や残業代未払いの相談が多かったのですが、最近多いのはパワーハラスメントによる休職や退職です。

 息子が過労自殺したという母親は、職場の対応があまりにも冷たいと電話をかけてきました。弁護士とのやりとりで、最初は涙声でしたが、働く人の権利が守られるような職場に変わってほしい、息子の死が無駄にならないようにと、明るい声に変わっていたのが印象的でした。

 人が亡くなった後の相続では、遺産分割の方法、〝争続〟と呼ばれる親族間でのトラブル、相続税の計算など多岐にわたります。来年4月から相続登記の義務化が始まりますが、「親の死後、長年放置された空き家や山林の処分をどうしたらいいか」「土地を相続したが使い道がなく、管理も困難で手放したい」という相談が、今年は特に目立ちました。

読者の信頼

 昨年1年間で全国から500件近い相談がありました。身近な相談窓口として「しんぶん赤旗」読者の信頼を得ていることを実感します。

 不登校が増え、子どもたちの自殺が社会問題となるなかで、電話相談は子育ての悩みを受けとめる場にもなっています。「小学生の孫がスマホを1日中手放さず、ゲーム依存が心配」という祖母からの相談を掲載したところ、「私にも3人の孫がいますが、子どもが夢中になる背景がよくわかった」「孫の成長につながるように見守りたい」という感想が届きました。コロナ禍で子どもたちを取り巻く環境が大きく変化していますが、親の不安な思いに共感し、安心して相談できる場でありたいと思います。

 記事にする際は、プライバシーに配慮した上で、幅広い読者に役立つ情報を提供できるようテーマ選びにも苦心しています。

 「脳出血の後遺症でひどい暴言がある夫との離婚を考えている」という法律相談を8月に掲載したところ、読者から意見が寄せられました。

 「法律的な回答にまったく異論はありません。しかし気になるのは、暴言がひどいという後遺症は高次脳機能障害だと思います。これによって感情の制御ができなくなることはよくある」「障害の特性に合わせて適切に対応するには、専門家の助言を受けることが必要ではないでしょうか」という指摘でした。「私の妻(76歳)が脳外傷で高次脳機能障害となり、私自身も知識を得るまで不適切な対応をしました」と後悔の気持ちがつづられていました。

 法律にのっとったアドバイスだけでなく、介助する家族の気持ちを受けとめることがなければ、読者にとっても役に立つ情報にはなりません。相談者の立場にたち、医療や福祉面からの助言も必要だったのでは、と反省しました。

駆け込める場

 記者として心がけているのはミスのない紙面です。二重三重のチェック体制をとっていますが、ミスを出すといつも後悔で心がへこみます。各分野の知識、情報を広く吸収し、法律や制度改定の動きをつかみ、自分自身の水準を高める努力が常に求められる仕事です。

 読者からの相談内容も多様化しています。「『介護』『引きこもり』の相談ができる窓口を新たに設置してほしい」という切実な声がありますが、体制の問題があり、なかなか実現できていません。

 相談件数にばらつきがあることも悩みです。「法律」はなかなか電話がつながらないとお叱りを受けることがあります。その一方で、2時間電話を待って、相談が1件もないことも...。

 「たとえ相談件数が0だとしても、相談窓口が常に開放され、困った人がいつでも駆け込めることが大事だ」と先輩記者に教わりました。タイパ(タイムパフォーマンス)重視が叫ばれ、時間を効果的に使うことに価値を置く風潮が強いなかで、相手からの電話を待つというスタイルはもう時代遅れなのかもしれません。

 それでも、相談の電話をかけること自体、大変な勇気が必要なこともあります。ゆっくり待つ、相手の話をせかさないでじっくり聞くことが、困難を抱えた人に寄り添う第一歩です。

 課題を整理し、問題を解決していくのは相談者自身です。この電話相談がきっかけとなり、前向きに生きていくための手助けが少しでもできればうれしいです。

 私にとっては相談室が取材の「現場」。人々の声に誠実に耳を傾け、悩みに心を寄せて、専門家と一緒に解決につなげる仕事をこれからも続けていきます。

(とくま・えりこ)

『前衛』2024年1月号から