現場Note

初めての国会取材─政治動かす一人一人の声と共闘を実感する日々

伊藤 幸(政治部記者)

伊藤 幸(政治部記者)

 「赤旗」国会取材団の一員として、2019年秋の臨時国会と2020年の新型コロナ禍の通常国会を取材しました。

 19年9月に政治部に配属されるまで、国会前の抗議行動に行ったことはあっても、国会の〝中〟は未知の世界でした。ベテランデスクの案内で、初めて「赤絨毯」を踏み、うす暗く重々しい雰囲気の国会内に足を踏み入れたときは、外の世界とは隔離された別世界にきたような気分でした。

 この日は、岩手県知事選で市民と野党共闘で再選を果たした達増拓也知事が野党各党にあいさつに来ると言うのでその取材でした。

 国会内の共産党控室に行くと、志位和夫委員長、小池晃書記局長、穀田恵二国対委員長ら党幹部がずらり。そこに、達増知事と国民民主党の小沢一郎衆院議員、木戸口英司、横沢高徳両参院議員という、そうそうたるメンバーが訪れました。

 壁際で緊張している私の前で、志位委員長が「おめでとうございます。圧勝でしたね」とガーベラの花束を贈り、和やかに懇談がスタート。達増知事が東日本大震災からの復興の原則に憲法13条の幸福追求権をすえた話から「共産党の部屋のコーヒーはおいしいらしいね」という話まで、その場でかわされた言葉はとりあえずメモしました。

 7月の参院選岩手選挙区で野党共闘で勝利したばかりだった横沢氏に廊下であいさつしたとき、「『赤旗』は熱い新聞ですね」と言われたことも覚えています。

心が震えた

 国会内ですでに「日常風景」のようになっていた野党共闘は、新型コロナ禍の国会で、ますます深化を遂げました。

 今年1月に始まった第201通常国会が150日間の会期を終えた6月17日。検察庁法改定案が審議未了で廃案となりました。

 正直にいうと、この法案を廃案に追い込めたなんて信じられないような気持ちでした。

 検察幹部の定年を内閣の恣意(しい)的な判断で延長できるようにする同法案。首相官邸に近いとされる黒川弘務・前東京高検検事長の定年延長を従来の検察庁法の解釈を変えて違法に閣議決定し、それを後付けで正当化しようとするものです。「桜を見る会」をめぐる政治の私物化疑惑などで窮地に立たされる安倍晋三首相が、憲法で定められた三権分立を侵し、検察まで私物化しようという動きでした。

 当初から野党は、問題の本質をつき、徹底して反対の論陣を張りました。私も国会内で共産党の藤野保史衆院議員や山添拓参院議員の国会論戦を取材。秘書のみなさんに問題点を教わりながら、四苦八苦して記事を書きました。「赤旗」紙面上では「法案は撤回を」とキャンペーンをはりました。しかし、最後には数の力で押し切られてしまうのではないか。これまで何度も悪法の強行採決を味わわされ、「諦め」の気持ちが心のどこかにありました。

 ところが、新型コロナウイルス感染拡大のさなかの5月、緊急事態宣言下のどさくさに採決を強行しようという与党のたくらみに対し「#検察庁法改正案に抗議します」と数百万のツイッター・デモがわきおこりました。コロナ禍で国民生活が窮状に陥るもと、自分を守るための検察の私物化を強行しようとする動きに怒りが広がりました。著名人や検察OBも声をあげ、野党も結束して追及。ネット番組や動画で志位委員長など野党党首そろって改定案に反対する動きも生まれました。そして、とうとう廃案へと追い込んだのです。

 「私たちの声が国会に届きましたよ」。最初に「#検察庁法改正案に抗議します」と投稿した笛美さんは、廃案をうけ、こうツイートしました。国会の中にいた私も、国民一人ひとりがあげた声のうねりが「国会を動かしたんだ」と心が震えました。

 「民主主義の底力示した」。政府・与党が今国会での法案成立を断念した翌5月19日、「赤旗」は1面トップでこう報じました。

深化する共闘

 これだけでも前代未聞の快挙だと思いますが、国民の声と野党共同の力は、新型コロナ対策でも前向きの変化を次つぎとつくりだしました。

 例えば、国民を分断する条件付きの政府案を撤回させ、一人10万円の現金給付を実現。「雇用調整助成金」上限額の英国なみの月33万円への引き上げ、事業者への家賃支援の実現、PCR検査センターの拡充...。どれも国民の切実な声をうけ、野党が一致して提案し、実現させてきたものです。

 今、国会では共闘する野党国対委員長間での連携に加え、政策責任者間の打ち合わせも頻繁に行われるようになりました。毎週開かれるコロナ対策の政府・与野党連絡協議会に結束して臨み、野党の「提案」を政府の政策に反映させてきました。3度にわたる予算案の組み替え動議で政府の姿勢を動かしたのも画期的でした。

 深化する共闘のなかで、日本共産党国会議員団の存在感は光っていました。変化する状況に応じ「検査体制強化と医療現場への支援を」など「緊急提案」を累次にわたって示してきました。「自粛と一体に補償を」の提起は、国民世論、野党の一致した要求となって、政府の対策を前に進める役割を果たしてきました。

市井の人々を思う熱さ

 通常国会を通じて、私が一番多く取材したのは共産党の国会質問です。衆参両院25人の国会議員団はそれぞれの専門分野で多様な現場の声を聞き、具体的な提案で政治を動かしていました。

 印象的な質問はたくさんありますが、会期末の6月15日の参院決算委員会での田村智子政策委員長の質問が印象に残っています。「〝生活保護はあなたの権利です〟と、この場で呼びかけてほしい」─。コロナ禍で生活困窮に陥った人にとって〝命綱〟である生活保護。水際対策やバッシングなどによって申請を諦めることがないよう安倍首相に強く迫りました。答弁にたった安倍首相も「ためらわずに申請していただきたい」と述べざるを得ませんでした。

 委員会室に響いた田村さんの真剣な訴えかけに、コロナ禍から国民の命を守りたいという強い思いを感じて胸をうたれました。「国民の苦難の軽減が立党の精神」。共産党国会議員一人ひとりがコロナ危機の国会論戦のなかで、その精神を体現しているようでした。

 野党の結束も、国民の声を受け止めるなかでどんどん強くなっていると感じました。

 フリーランス、中小業者、文化関係者、医療関係者、学生...。コロナ禍の国会には多くの切実な声が届けられました。

 5月、ひとり親世帯や支援団体から聞き取りを行ったオンラインの野党合同ヒアリングでは、「貯金を切り崩す生活」「(コメの支援をうけ)久しぶりに炊きたてのご飯を食べた」など切実な声が続々。一緒に耳を傾けていた野党各党の議員たちから、「支援法案をなんとか実現しよう」という真剣さをひしひしと感じました。

 6月に休業者や失業者を支援する法案を野党が共同提出したときは、野党共同会派の山井和則衆院議員が、政府の制度では対象外になる人にも補償を届けたいと、記者に熱心に語りかけていました。

 市井の人々の暮らしを思う熱さを、野党共闘に感じました。一方で、コロナ禍すら政権浮揚と利益誘導に利用しようと迷走し続ける安倍政権。その対比を鮮明に感じ、一刻も早く政権を変えたいと思いました。

 コロナ禍の国会を通じ、野党各党が「新自由主義からの転換」「自己責任ではなく、連帯の社会へ」という方向で響きあう、これまでにない変化も生まれました。そしてそれが「野党連合政権」の旗印へとなりつつあります。

 「一人ひとりの声こそが政治を変える力」と実感した通常国会を終え、新しい社会へむけて人々と歩む「赤旗」報道を続けたいと思います。

(いとう・さち)
 

『前衛』2020年9月号から