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日本共産党

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赤旗

熱海土石流を受け、国民のいのち、財産を守るため、危険な盛土等の規制及び建設残土の適正処理をより実効あるものに

盛土規制法の成立受け、見直し検討に向けての提案

2022年6月14日 日本共産党国会議員団

1、はじめに

 熱海土石流被害を受けて、2022年5月、盛土等を全国一律の基準で包括的に規制する盛土規制法が成立しました。衆議院で全野党6会派が共同提案した修正案に、与党も賛成し修正議決しました。5年以内に、盛土等に関する工事、土砂の管理等に係る規制の在り方について見直しを検討するという内容です。

 法制定のきっかけは、昨年の死者・行方不明者二十八名もの犠牲を出した熱海の土石流災害でした。崩落した盛土は、県への届出量の三倍にもなる産廃混じりの残土とされ、人災であり、造成者・管理者の責任が問われています。同時に、不正を認識しながら適切に対処してこなかった行政の責任も問われなければなりません。

 長年こうした事案を多数認識しながら、放置してきた国の不作為責任も厳しく問われます。独自に土砂条例等を定めている自治体も多くありましたが、規制が弱い、あるいは規制がない自治体に残土が運び込まれる事例等が後を絶たず、全国一律、包括的に規制する立法化が待たれていたのです。

 国土交通省の調査によれば、全国各地に危険な盛土等が約1100カ所も存在しています。気候変動により豪雨が激甚化・頻発化している状況を踏まえれば、盛土の崩落等を防ぐ対策は緊急に取り組むべき課題です。

 成立した盛土規制法の早急な実施はもちろんのこと、建設残土の適正な処理を、より実効性あるものにする必要があります。そのため、日本共産党として以下の通り提案します。

2、盛土規制法をより実効性あるものに改正する

 成立法は、盛土や一時的な土石の堆積及び土捨て行為も含め、都道府県知事が盛土規制区域を指定して、区域内での盛土を許可制にすること、管理者責任の明確化、盛土等工事の中間検査の実施、罰則の強化などを定めるもので必要なことです。また、許可盛土等の公表を通じて、周辺住民への周知や住民からの通報を促すなどの規定も盛り込まれています。

 ただし、規制区域の設定については問題があります。都道府県知事等が指定する区域を、人家等に被害を及ぼし得るエリアに限定しています。しかし、区域を限れば、区域外に盛土が集中することは避けられません。また、区域指定に当たって、自然環境、生態系への影響は考慮されないことが懸念されます。有識者会議や参考人からも、人目のつかない山林などに投棄されてからでは発見も難しく、原状回復は困難になると指摘されています。区域は限定せず、許可に当たっては、環境アセスや住民等の意見聴取などを行うべきです。

(1)一定規模以上の盛土等は、区域を限定することなく、すべて届け出の対象とし、大規模なものは都道府県知事等の許可制とする。

 成立法における特定盛土等規制区域の制度は設けないこととし、宅地造成等工事規制区域以外の土地の区域内において行われる特定盛土等又は土石の堆積に関する工事は、原則届出制とし、大規模な崖崩れ又は土砂の流出を生じさせるおそれが大きい規模のものは許可制にする。

(2)都道府県知事が行う盛土等の工事の許可基準に、環境影響評価等が適正に行われていることを追加する。

(3)都道府県知事が盛土等の工事の許可を行うに当たっては、審議会等の有識者及び関係市町村長、住民の意見を聴取するものとする。

3、建設残土処理の適正化法を制定し、危険な盛土等につながる不適正処理を防止する

 盛土に使われる土砂の多くが、トンネル掘削工事等で発生する建設発生土です。建設発生土は、工事現場内での発生を抑制し、現場外での工事間利用を促進するなど再生資源として有効活用するのが原則です。しかし、建設発生土の発生量は、年間2億8,998万㎥(2018年度)ありますが、工事現場内外で利用されず、土砂処分場などの内陸受入地に搬出されている量は2割強の年間5,873万㎥(東京ドームの約47倍)にのぼります。このうち、利用先も最終処分地も決まらずに一時仮置場などに堆積される事例も散見されます。熱海土石流の起点となった盛土も、実態は、建設残土が捨てられた残土処理場だったと指摘され、残土の発生源は不明のままです。

 リニア中央新幹線のトンネル工事では約5680万㎥の膨大な建設残土が排出され、その約三割は最終処分先が決まっておらず、土砂災害警戒区域内の仮置場に堆積されている地域もあります。

 こうした事例が相次ぐならば、不法投棄など建設残土の不適正な処理はなくなりません。

 国土交通省は、今回の盛土規制法の制定に合わせ、建設発生土の適正処理を図るため、資源活用利用促進法にもとづく省令(工事現場から発生する土砂の搬出先の明確化等)や公共工事入札契約適正化ガイドラインを改正(建設発生土の搬出先や、運搬・処分等の費用を明示)で済ませようとしています。これでは、民間工事は対象外になります。全国各地にある危険な盛土等を規制し、激甚化・頻発化する豪雨による崩落等を確実に防ぐには不十分です。

 建設発生土は、建設工事の発注者など発生者が最終処分地まで適正に処理する責任を持つことを義務づけるべきです。

(1)建設工事の発注者等は、建設残土を適正に処理する義務を負う。

〇 建設工事の発注者(残土発生者)は、建設残土の発生・搬出抑制、工事間利用の促進により、残土削減に努めるとともに、発生した未活用残土については、最終処分地まで確実に搬入するなど適正に処理する義務を負うものとする。

 なお、建設工事の元請事業者等、残土の運搬、処理等の委託を受けた事業者は、委託業務の範囲内において、適正に処理する責務を負う。

(2)発注者等は、最終処分先を確保するまで掘削工事の着手を控える。

〇 トンネル掘削等大規模な残土を排出する建設工事の発注者は、未活用残土の最終処分先が確保できるまで、新たな残土を発生させる掘削工事に着手してはならないものとする。

(3)発注者等は、建設残土の処理計画を作成し、国土交通省に届け出なければならない。

〇 一定規模の残土を排出する建設工事では、残土の工事現場からの排出、運搬、最終処分先に搬入するまでの処理計画を作成し、届け出るものとする。

  • 処理計画は、発生残土の見込量、運搬方法等の処理の行程、処理期間の見込み、仮置き場(ある場合のみ)、最終処分地について明記すること。
  • 建設工事の事業費に関して、残土の運搬費、処分費等を明確にして積算根拠に計上すること。

〇 届出計画に必要があると認めるときは、発注者等に対して、変更等の勧告・命令できるものとする。

(4) トレーサビリティ制度の創設など建設残土の適正な処理方法を義務付ける。

〇 公共工事で導入している指定処分制度を義務化し、民間工事も対象に含める。

 最終的に未活用となった建設発生土を適正に処理するため、国の公共工事では指定処分制度が行われている。指定処分制度は、発注者が建設発生土の行き先を完全に把握するため、残土の最終処分先や運搬経緯等の条件明示、運搬費や処理費等を計上して、処理事業者等と工事契約を結んでいる。

 ただ、ストックヤード(仮置き場)を指定先にすることを認め、民間工事は対象外にしている(搬出先を発注者が指定しない「自由処分」という)。これでは、排出された残土が最終的にどこに運ばれたのか不明になり、不適正な処理になりかねない。

〇 建設発生土が、ストックヤード(仮置き場)を経由した場合も、発注者等が管理票を用いて、最終処分先に確実に搬入されているかチェックできるトレーサビリティ制度等を創設する。

※ トレーサビリティ制度は、管理票の交付・送付、最終管理票の送付により、当該土砂等の行方を追跡・把握することを可能にする制度。最終処分先が義務化されている廃棄物処理法のマニフェスト制度(排出事業者が産業廃棄物の処理を委託する際に、マニフェストに、産業廃棄物の名称、数量、運搬業者名、処分業者名などを記入し、産業廃棄物の流れを自ら把握・管理するしくみ)が参考になる。

(5) 最終処分地は、盛土規制法など許可を受けた安全・安心な場所を選定、確保する。

〇 建設工事の発注者等は、都道府県知事等の許可を受けるなど、安全・安心な最終処分地を選定し、確保しなければならないものとする。

 最終処分地は、盛土の崩落防止等安全対策が講じられ、公衆災害※の防止を含め周辺の生活環境に影響を及ぼさない箇所を指定することが前提。そのため、盛土規制法による都道府県知事等の許可を受けた盛土をはじめ、産業廃棄物許可等法令により、安全が証明できる場所を指定するものとする。

〇 最終処分地の施工時や建設残土の搬入にあたり騒音、振動、塵埃等の防止に努めることは前提。

 最終処分場の設置を行う者は、地権者及び所在する自治体の同意を得ること、地域住民、搬入、搬出地及びルート上の住民に説明し、合意を得ることなど、地域環境に配慮しなければならないものとする。

※ 公衆災害とは、公衆の生命、身体、財産に対する危害並びに迷惑をいう。例えば、第三者が死亡又は負傷した場合はもとより、第三者の所有する家屋、車両の破損等も含まれる。また、ガス、水道、電気等の施設や公共の道路に与える損傷も公衆災害に含まれる。

(6)ストックヤード等を最終処分地と扱ってはならない。中間処理事業者も適正処理の責務を負う。

〇 中間処理事業者※は、建設残土の仮置き等を発注者等から委託を受けた業務とみなし、最終処分地まで確実に運搬搬入するよう適正に処理する責任を負うものとする。

 建設残土の処理過程では、残土をストックヤード(仮置き場)に一時堆積するケースが多く見られる。その場合、発生源の違う残土が混じり合い、個別の残土の最終処分地への搬入の確認が困難になる。

 そのため、中間処理事業者が設置するストックヤード(仮置き場)等を最終処分地として扱ってはならないものとし、中間処理事業者は、発注者等が排出した残土を発生源ごとに分別管理するなど、確実に最終処分先に搬入(委託含む)されるようチェックできる仕組みを講じるものとする。

※ 中間処理事業者とは、建設残土を受入れ、最終処分地に搬出されるまでの間、所有地等に残土を堆積するストックヤード(仮置き場)を設置・管理する事業者(公的機関を含む)、土砂等を販売・処理する事業者等をいう。

(7)不適切な処理方法、最終処分地の未確保等への行政処分

〇 工事発注者、請負事業者、中間処理事業者による不適切な処理方法、安全、安心な最終処分地の未確保等については、勧告、命令、報告徴収、立入検査等に加え、工事認可取り消し等を含む行政処分を行うものとする。

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