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日本共産党

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赤旗

32、森林・林業

政府の「林業成長産業化」路線を転換し持続可能な林業をめざします

2022年6月

 我が国の森林は、国土面積の3分の2を占め、木材の供給とともに国土・環境の保全、水資源の涵養、生物多様性など公益的な機能を有し、国民生活に不可欠な役割をはたしています。またCO₂の吸収・固定による地球温暖化防止への寄与など「脱炭素社会」の実現にも欠かせない資源です。 

 この大事な役割をもつ森林を歴史的に維持・管理してきたのが林業です。我が国の林業はいま、歴代政権の外材依存政策のもとで木材価格の低迷が続き、林業労働者が減少するなど、危機に瀕しています。それに拍車をかけているのが、自公政権による林業の「成長産業化」路線です。森林の多面的な機能を著しく軽視し、大規模化した合板・集成材企業やバイオマス発電企業に安価な木材を大量に供給することを優先したもので、森林所有者の「成長」ではありません。国有林・民有林問わず、植林後約50年(標準伐期齢)の森林を大規模に皆伐(一斉伐採)を推進していますが、伐採後の再造林はすすんでいません。

 政府は、21年6月「森林・林業基本計画」を改訂し、「成長産業化」からカーボンニュートラルに寄与する「グリーン成長」に変更しましたが、実態を無視した経営規模拡大の推進など「成長産業化」路線を推進するものとなっています。森林所有者や林業関係者からは、大量伐採による木材生産の供給過剰を作り出し、ただでさえ安い木材価格をさらに引き下げ、自然破壊をおしすすめるものだと批判が高まっています。

 政府は、標準伐期(約50年)での伐採は、森林の循環を作るうえで妥当としています。しかし、50年程度の森林はなお成長する若い森林であり、150年前後まで成長が続き、多面的機能も向上すると指摘されています。標準伐期齢での主伐は、多面的機能発揮にも反し、優良な資源づくりを放棄するだけでなく、資源の再生を困難にさせます。

 いま必要なのは、安価な木材を大量供給する「成長産業化」路線を転換し、持続可能な森林づくりをすすめることです。国産材の利用と森林の公益的機能の持続的な発揮は、森林・林業者だけでなく、国民共通の願いであり、国際的な合意でもあります。

 植林後50年程度で伐採する短伐期一辺倒を見直し、地域の森林資源の実態に対応し、長伐期や複層林など多様な施業方式を導入し、持続可能な林業にとりくみます。

森林生体系や自然環境の保全を最優先する林産物貿易ルールめざす―――丸太や製材品などの林産物は、WTO(世界貿易機関)協定では、自動車や電化製品と同じ「鉱工業製品」扱いになっていますが、多くの国が林産業育成や環境保全などのため、丸太の輸出規制を行っており、実質的に自由貿易品目でなくなっています。森林生態系や自然環境は、人間の生存にかかわる問題であり、市場まかせにする時代ではありません。

 輸出国主導のWTO体制を見直し、森林生態系や自然環境の保全を最優先する林産物貿易ルール、各国の経済主権を尊重した森林・林業政策を保障することを世界に提起します。

 日欧EPA、TPP11が発効し、かろうじて残されていた製材や集成材などの関税が毎年引き下げられ、5年後に撤廃されてしまいます。そうなれば、合板・集成材や燃料材などの国内の大規模製材所、木材産業が、国産材価格の引き下げ圧力を強めることは明らかであり、森林所有者と地域経済への影響はさけられません。日欧EPA、TPP11の離脱を要求します。

「ウッドシヨック」に対応できる国産材の安定供給体制を確立する―――米国内で新型コロナ禍により木材製品の生産が減少する一方、過去最低の住宅ローン金利による住宅建築ブームで膨大な製材品需要が発生し、21年5月には、製材品価格が1年前の3倍に高騰する「ウッドショック」が起こりました。さらに今年の1月からロシアの丸太輸出禁止に加え、ロシアのウクライナ侵略による経済制裁によって製品輸入もできなくなっています。その影響は、外材に依存する日本国内の建築・住宅業界にも及び、中小工務店が製材品の入手難や価格高騰により、建築の延期や工事の遅れを余儀なくされる事態が広がっています。こうした事態を繰り返さないよう国産材の安定供給体制を確立することが必要です。

 当面、木造住宅の構造部材で輸入依存度の高い横架材(梁、桁)を国産材に切り替えていくため、国産材の横架材利用に向けた取り組みの強化や技術開発への支援をはかります。

地域の実態に即した産地づくりにとりくむ―――わが国の森林は、亜熱帯から亜寒帯まで分布し、植生も多様です。地域ごとに異なる歴史や自然的、社会的条件を持っており、画一的、効率一辺倒な政策ではなりたちません。林業、素材生産、製材・加工、工務店などが参加する地域の林業振興のための共同のとりくみ(森林管理委員会等)を広げ、地域の実態に即した産地づくりを支援します。

 林業の基礎となる林地の地籍調査は4割台にとどまり、事業の障害になっています。地籍調査と境界確定を促進し、地域の森林資源の実態に即した多様な施業方式の導入など地域林業の育成をめざします。

持続可能な森林づくりに取り組む自伐型林業を支援する―――自己所有や所有者から管理を受託して、間伐や択抜(樹木の抜き切り)を繰り返し、森林資源の蓄積量を増やすとりくみをすすめている自伐型林業が注目されています。自伐型林業は、従来型の大規模林業と違い、多くの林業従事者を生み出しています。現に都市部から、Uターン、Iターンにより人口減少がすすむ中山間地の市町村に移住する、比較的若い世帯が増加しています。森林を活用する「地方創生の鍵」として期待され、53を超える自治体が独自の支援策を講じています。自伐型林業を担い手して位置づけ、森林・山村多面的機能発揮対策交付金の拡充など支援します。

地形や自然環境に配慮した林道・作業道の整備、架線系システムの継承発展にとりくむ―――生産基盤となる林道や作業道の路網整備が大きく立ち遅れています。路網整備では、生態系や環境保全に配慮した技術を確立し、災害に強い路網整備をすすめます。昨今の豪雨災害による山地の崩壊の原因に、高性能林業機械による大規模伐採が原因でないかとの指摘があります。山地崩壊をさせない地形や自然環境にあった技術の開発を国の責任ですすめます。また、急傾斜地では、林地保全などから架線集材システムが有効です。集材機の開発や技術者を確保し、技術の継承、発展をはかります。

林業就業者の計画的な育成と定着化の促進、就労条件の改善にとりくむ―――林業は、森林の多面的機能や生態系に応じた育林や伐採などの専門的知識や技術が必要です。基本的技術の取得を支援する「緑の雇用」や「緑の青年就業準備給付金」事業の拡充や事業体への支援を強め、系統的な林業労働者の育成と定着化にとりくみます。

 また、安全基準などILOの林業労働基準に即した労働条件や通年雇用、月給制の導入など労働条件の改善にとりくみ、安心して働ける環境をつくります。

広葉樹の有効利用をすすめる―――広葉樹は、雑木として位置付けられているため、消費の約8割がチップ用となっています。一方で、広葉樹材の輸入困難から家具生産が減少しています。広葉樹材の自給率は、約1割(2015年)です。家具や建築などへの利用をすすめるため、広葉樹資源の調査をすすめ、素材生産や流通体制の整備などを支援します。

再造林は適地適木ですすめる―――近年、主伐面積が増加していますが、伐採跡地への再造林は、約3割にとどまっています。苗木の供給体制を強化するとともに再造林コストの引き下げにとりくみ、再造林未済地を早期に解消する対策を強化します。国有林・民有林を含め、土壌・適木調査が実施されており、再造林は適地・適木ですすめます。

国産材のカスケード利用にとりくみ、木質バイオマス発電のやり方を改める―――良質材から低質材まで、建築材や木製品、紙製品、エネルギーなど100%有効に利用するカスケード利用にとりくみます。

 固定価格買取制度で、木質バイオマス発電が一番高い価格がつけられたことに乗じて大型の木質バイオマス発電所の建設が相次ぎ、製材として利用できる木材まで燃やされています。これでは、木材資源の浪費です。国内材の活用となる林業の振興と森林の育成を基本に、それと合致したバイオマス発電を推進します。

災害による山地崩壊や施設被害の復旧に全力でとりくむ―――近年、全国各地で地震や豪雨による大量の流木や山地崩壊、施設などの被害が頻発しています。林野庁の災害情報によると、毎年1万ケ所以上にのぼります。荒廃林地や施設被害の全面復旧、流木による二次被害防止対策などにとりくみます。

 地域材を活用した仮設住宅や復興住宅の建設に力を入れるなど、地域の森林・林業の再生のとりくみを支援します。

シカ等の野生獣による食害や病虫害害対策にとりくむ―――シカなどによる食害やナラ枯れなどの被害は、年間8000haに及び生態系の破壊など人間生活にも影響を与えています。野生獣の防除と捕獲、個体数の管理や病虫害の効果的、効率的な防除技術の開発をすすめます。捕獲した野生獣の食肉流通対策を支援します。

特用林産物の振興や都市住民との交流などで就労機会の確保をはかります―――きのこや山菜など特用林産物の生産振興や加工・販売などにとりくみ、自然環境を活用したレクリエーション、保健・休養など都市住民との交流などのとりくみをすすめ、就労機会の確保をはかります。

市町村や森林組合への支援を強める―――市町村は、2019年に成立した森林経営管理法によって、森林・林業の基本となる「林野台帳」の整備や森林整備計画の樹立、民有林の経営管理権の設定などが義務化され、地域の森林管理のとりくみが求められています。何よりも森林所有者の意欲を引き出すとりくみが求められます。専任の職員を配置できないような市町村も多く、森林・林業行政全般の研修など、林務職員の育成・確保をはかれるよう市町村への支援を強めます。

 また、森林組合は組合員の所有面積は私有林面積の7割を占め、地域の森林整備の中心的な役割を担っています。森林組合は組合員の要求をくみ上げ、市町村や地域の素材生産や製材業などと連携し、地域林業の確立のために積極的な役割がはたせるよう支援を強めます。

森林のCO₂吸収力を評価した排出量取引で山村地域と都市部の連携を強める―――国内のCO₂排出量の削減を促進するために、森林の整備によるCO₂の森林吸収量と、化石燃料の木質バイオマスを使うことによるCO₂排出量の削減量を評価して、都市部の企業や自治体の排出削減のとりくみにおけるカーボン・オフセット(炭素排出量の相殺)に活用する制度を本格的に導入し、植林・間伐などの森林整備の資金を生み出します。

森林環境税・森林環境譲与税を見直す―――森林環境税は、森林経営管理法に基づき、地方自治体が新たに行う事務や事業の財源に充てるため森林環境譲与税として配分されます。

 この税金は、2023年度末で期限切れとなる復興特別住民税の看板を掛け替えて、取り続けるもので、森林の吸収源対策や公益的機能の恩恵を口実に、国やCO₂排出企業が引き受けるべき負担を、国民個人に押し付けるものです。

 2019年から森林環境譲与税は自治体への交付が始まっていますが、交付基準の人口指標が林業従事者の割合よりも高くされたことで、私有人工林がない都市部に多額に配分される問題等があります。

 森林を有する自治体が、体制整備や森林整備に活用できるように交付基準を見直します。森林環境税・森林環境譲与税は、森林整備に安定的な財源確保策としてふさわしいのかと林業経営者からも疑義が示されています。安定的な財源である国の一般会計における林業予算の拡充を求めるとともに、需要のある自治体への地方交付税の拡充を求めていきます。

放射能汚染の継続的な調査をすすめる―――東日本大震災の原発事故から11年、森林の除染は、住宅、農地の周辺部以外、対象にならないため、森林内の放射能セシウムの多くは土壌に分布しています。樹木の汚染は樹種や調査地点によって異なっています。汚染地域における適切な森林管理、安全な木材利用のため、放射能汚染の継続的な調査をすすめます。

国有林を国民の共有財産として持続的な管理経営にとりくむ―――国有林は、国土面積の2割、森林面積の3割を占め、奥地山岳地帯や水源地帯に広く分布し、9割が保安林に指定され、国土・環境の保全や林産物の供給、山村地域の振興など国民生活にとっても重要な役割を担っています。

 これらの役割を確実に実行していくため、国有林にかかわる情報や資料を公開し、事業の計画段階から、自治体・住民、国民との連携をはかり、地域の経済や雇用に配慮した、持続的な管理経営にとりくみます。

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