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赤旗

解説 科学技術・イノベーション基本計画 研究力低下への打開策なし

2021年3月28日


 菅政権は26日、2021年度から5年間の科学・技術振興策を定める第6期科学技術・イノベーション基本計画を閣議決定しました(27日付既報)。これまで政府は、目先の経済的利益につながる研究に投資を集中させる「選択と集中」政策を進めてきました。国立大学運営費交付金など基盤的経費が削減され、研究者の裁量で使える研究費が減り、若手研究者は任期付きの不安定雇用に置かれました。

 その結果、論文の量でも注目度でも、日本の国際的地位が下がり「研究力の低下」といわれる事態となりました。政府がイノベーション創出を重視するのは、米中を軸に技術開発競争が激化するもとで、日本は立ち遅れているとの危機感があるからです。

 今回決定された科学技術・イノベーション基本計画は、安全保障や大企業の利益に資する研究を求める一方で、研究振興策はほとんどありません。「研究力の低下」を招いた反省も原因分析もなく、打開策もありません。

 博士課程大学院生や若手研究者への支援を強調していますが、対象は限られ、産学連携や競争的資金に依存する不安定なものです。大学が出資する大学ファンドもつくられますが、ゼロ金利のもと収益の見通しは不確実です。安定的な財政支援に背を向けてきた政府の責任は棚上げして、大学だけに努力を押し付けるものです。

 気候変動問題をはじめ私たちが直面する課題の多くは、社会のあり方を問うものとなっています。人文・社会科学の知見を尊重し政策に生かすことが重要です。

 しかし、基本計画は、課題解決のために「総合知」の活用を強調するものの、人文・社会科学そのものの振興策はありません。直面する課題に科学を動員し、「役に立つ」研究にしか日が当たらないというのでは、研究現場は振り回されて疲弊し、学問の裾野が枯れかねません。

 大学等を軍事研究に動員する動きも重大です。基本計画には、「総合的な安全保障の基盤となる科学技術力を強化する」と明記されました。防衛省の委託研究制度について日本学術会議が指摘したように、軍事研究は必然的に秘密性をともない、学問の自由を脅かすものです。

 科学や技術の研究は、極めて創造的な活動であり、人類の知的資産となるものです。社会的要請にこたえる研究とともに、知的好奇心に導かれる多様な研究を振興することが重要です。創造性を支える環境があってこそ、独創的なイノベーションも生まれます。

 菅首相は、施政方針演説(1月18日)で「20年近くも続く研究力の低迷は、国の将来を左右する深刻な事態」だと述べました。であれば、「選択と集中」政策をやめ、基盤的経費を抜本的に増額し、研究現場を安定的に支える政策へと転換するべきです。

(学術・文化委員会事務局員 鈴木剛)

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