ジェンダー連続講座(第4回) 女性の労働と貧困~ジェンダー平等社会に向けた政策的探求

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党ジェンダー平等委員会では、10月31日、蓑輪明子さん(名城大学准教授)を講師に、「女性の労働と貧困~ジェンダー平等社会に向けた政策的探求」と題して、ジェンダー連続講座第4回を開催しました。
 講師は冒頭、「労働・貧困問題へのアプローチは、働くことを前提としない福祉的アプローチ、自立を保障する教育的アプローチなどさまざまあるが、今回の話は『労働市場健全化を通じたジェンダー平等というアプローチ』になる」と述べました。そして、「もともと日本共産党が持っている政策と重なるものであり、それを『ジェンダー平等』の旗印のもとで賛同してもらえる政策へと組み替えていくようなイメージでとらえてもらえばよいと思う」と語りました。講義の主な内容は以下。
 
労働におけるジェンダー平等に必要な施策についての基本的な考え方
 資本主義は労働力の再生産を不可欠とするため、そのために必要な労働=ケアを、家族(特に女性)に無償ないしそれに近い形で強制する。しかし、ケアを担うことは無制限な資本への忠誠の障害になるため、ケアを担う人々(特に女性)は労働者として差別されるという前提がある。そのうえで、ジェンダー平等を全階層的に実現するには、①労働市場の規制、②ケアと両立可能な施策、③子ども・高齢者など、ケアを受ける人の権利の確立が必要である。
 
安倍政権の経済政策における女性労働者の位置づけの分析
 安倍政権の特徴として、以下が挙げられました。①「強い国家と強い経済」のための「女性活躍」が、「出生力主義」と「労働力確保」の中に位置付けられている。その点では従来の保守派とは異なり、財界の要望に忠実である。②新自由主義が徹底され、それによる弊害への改善策も新自由主義的であるために不徹底に終わっている。そのため女性は規制緩和された労働市場に規制緩和された保育サービスを利用して参入している。③結果として、労働条件の底上げ政策の進展の遅れ、限定された給付制奨学金、両立支援の不徹底による女性非正規労働者の排除と保育・介護の人手不足などが問題となり、失業が潜在化している。
 
新自由主義における女性労働市場の実態
 女性労働力が「労働力浪費型雇用」(労働力消費型雇用は女性が労働力化したことで初めて可能となった)を生み出すテコとなった。女性の労働の実態としては、女性の雇用労働者の「主力化」(45.3%)、その一方での(特に女性の)雇用の非正規化、依然とした男性との賃金格差の大きさ、「フルタイム・非正規」雇用の増加、子育て世代の就労の主流化、家計における女性収入の比重増、特に非正規で顕著な妊娠出産による離職、時間外労働の常態化・女性超長時間労働層の形成、「サービス経済化」とこの分野での女性労働の増加などがある。「フルタイム・非正規」層の不満の高さへの対応は緊急の課題である。また、「サービス経済化」の実態は「公共サービスの経済化」である。中でも医療福祉分野が主であり、そこで女性労働(正規でも低賃金・時間外労働が多い)が増加していることが、女性労働の水準引き下げ要因となっている。
 
運動の課題と必要な政策について
 日本でのジェンダー平等実現のためには、賃金+社会保障で暮らせる新しい生活保障システムの構築と労働市場規制が不可欠である。必要な政策メニューとして、①女性が単身ですら生活できない賃金水準の克服、男女差別賃金を改善するために、最低賃金規制を重視すべきこと、②基礎的な所得保障と社会サービスの拡充(ケアされる側の権利の拡充を含む)、③労働時間規制+子育てにかかわる時短・休業補償の徹底、④公共サービス労働における職種別職業別の最賃・労働時間規制と、それを実現できる財政保障が挙げられる。
「運動の担い手をどうつくるか」については、これまで女性・若者が運動上「放置」されてきたことを踏まえての、労働運動におけるジェンダー主流化が不可欠である。移民や女性を中心とした周辺労働者の組織化にある程度成功したイギリスの例もある。ジェンダー平等を実現する組織化戦略は日本の運動の課題。アメリカではコミュニティ・オーガナイズを通しての組織化の例もある。日本ではAEQUITAS(エキタス)などの労働問題をイシューにした市民運動のもつ可能性が注目される。
 
 全体を通じて、詳細な統計分析と、講師自身も携わっている労働・保育・市民運動の実践とに裏打ちされた密度の濃いお話であり、多くの示唆を得ることができました。
とりわけ運動の課題として、「労働政策や運動は、どうしても『賃上げ』要求に焦点が置かれがちであるが、ジェンダー平等実現のためには、賃金+社会保障で暮らせる、新しい生活保障システムの構築と労働市場規制が不可欠」であるとの指摘は、非常に大切でした。
 また、「現代のジェンダー平等論は、新自由主義的な主体に回収されがちである」ことに注意を喚起し、「新自由主義的労働市場で働き、市場的社会サービスを使いこなし、出産して親責任を私的に果たす」という新自由主義的な女性の自立モデルではなく、「労働組合と市場規制を利用しながら働き、共同的な社会サービスを通じて子育てし、子育てに参加する」という新しい労働者女性の自立モデルを模索することが必要であること、「女性へのケア役割の強制批判が、ケアを手放す方向に行ってはならず、ケアの共同的なあり方をめざすことも必要だ」との指摘も重要でした。
 
 質疑応答では「保育の職場では、賃金と労働時間によって離職率がちがうのか。いわゆる民主園とそれ以外ではどうか」、「年功賃金は職務賃金に変えていく必要があると考えるか」、「家族ケアを担っている女性労働者から、『8時間働けば普通に暮らせる社会を』というスローガンに『8時間も働きたくない』との反応が寄せられる。労働時間規制について、ジェンダーの視点に立った訴え方はどうあるべきだろうか」などの質問が出されました。それぞれについて「残業含め賃金労働条件が職務継続意欲を決める大きな要素。民主化された職場ほど意欲が高いが、〝やりがい搾取〟につながらないよう注意する必要はある」、「年功賃金については学問的には結論が出ていない。まずは賃金全体を底上げし、実践的に解消していくしかないのではないかと思う」、「8時間を基本としつつ、“6時間で食える”程度にケア手当を現金給付するか、最低賃金を上げるか、手当込みでの支給などがあり得る」との回答がありました。
 
 参加者からは、
従来から大事にしてきた女性労働問題のとりくみをどうジェンダー視点でバージョンアップしていくか―について、とても深い示唆をいただいたと思いました。とりわけ、ジェンダー論が充分視野に入れてこなかった最賃強化(ある意味ユニバーサルな課題)の問題、またケアされる側の権利保障をジェンダー論、運動がもっととりこんでいくことが大切だと刺激されました。
統計により客観的に女性労働者のおかれた状況がよくわかりました。またどこに分断のタネがあるかも、みえました。今の子育て世代が生きづらい、子育てしづらいのは、新自由主義によってイデオロギー的にもシステム的にも自己責任がおしつけられているからだと思いました。課題としては、賃金にプラスして社会保障の拡充は必須ですが、それが企業の利潤増大にならないよう、また社会保障を実効性をもって実現させるためにも、税制の改正(大企業からの適正な徴税)も必須と思いました。
韓国でフェミニストが非正規雇用労働者の組織化に成功しているというお話が興味深かったです。日本の#MeeToo 運動が労働運動に飛躍する可能性を感じました。ジェンダー平等がオルタナティブな世界構築のカギだということがよくわかりました。
講師の方の『新自由主義社会の中で女性が働き、子育て、介護と頑張る人はできるが多くの人はできない』その言葉が大変納得です」、「労働者女性の自立像はもっと違ったものであっていいのではないか、という提起に大変共感しました。
などの感想が寄せられました。
                                   以上
 

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