党本部ジェンダー連続講座第2回 「日本におけるリプロダクティブ・ライツの現状と問題点」

6月15日(月)15時~17時、中絶問題研究者・塚原久美さんを講師に迎え、「日本におけるリプロダクティブ・ライツの現状と問題点 ~女性差別撤廃の観点より~」と題する講座を、Zoomにて行いました。党本部内の各部局、赤旗編集局、国会議員団事務局などから39人が視聴・参加しました。
 
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塚原さんは講義の導入として、今年5月7日に報道されたベトナム出身の技能実習生の女性が、日本では未認可の堕胎薬による堕胎をしたとして逮捕されたというニュースを紹介しました。「妊娠がバレたら帰国させられる」「言葉や文化の壁」「日本の中絶費用の高額さ」「日本の中絶方法への恐怖心」などが、この女性をこうした状況に追いつめたのではないかと塚原さんは問いかけ、日本の現状はベトナムと比べてもリプロダクティブ・ライツの点で大きな後れをとっていると問題提起をしました。
 
講義の本論では、①リプロダクティブ・ライツとは何か(成り立ち、基本理念、女性差別撤廃条約における位置づけ)②日本の中絶状況(海外から大きく後れをとった歴史的な背景、医療と法は現状どうなっているか)――が述べられました。


リプロダクティブ・ライツとは何か

1948年の世界人権宣言の後、1975年からの「国連女性の10年」で世界の女性運動のネットワーク化が進む中で、1979年女性差別撤廃条約で、「子どもの数を決めることは男女同一の権利」であると宣言されました。その後、1993年ウィーン人権会議で「女性の人権」が一つのカテゴリーとして確立し、世界の女性グループが「リプロダクティブ・ライツ」(以下RR)について活発に議論するようになり、1994年国際人口開発会議(カイロ会議)においてRRが国際文書で初めて明文化されました。
 
RRは広範な権利ですが、第一に、生殖に関する事項を自己決定する権利であり、子の数や出産間隔・時期だけでなく、避妊や中絶の選択、それにかかわる情報・手段へのアクセスも含む、「身体的自律」の権利です。第二に、リプロダクティブ・ヘルスケアへのアクセス権、つまり、月経、避妊、妊娠、分娩及び産後の期間中の適切なサービス、栄養確保の権利、安全な中絶と中絶前後のケアを受ける権利です。
 RRとは、子どもを産む・産まないを実際に自分の体をもって経験する女性が、その主体です。「中絶する権利」と狭くとらえられがちですが、そうではなく、世界人権宣言や女性差別撤廃条約などに根拠づけられた、多岐にわたる概念であることが強調されました。
 
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日本の現状

日本のRRの現状については、①経口避妊ピルの認可(1999年)が世界から大きく遅れ、世界ではもはや時代遅れで危険な中絶と見なされている「掻爬」が中絶手術の9割をいまだに占め、WHOでは安全性と効果が確認されているにも関わらず経口中絶薬の認可が進んでいないこと②刑法に堕胎罪という女性差別的条項がいまだに残っていること③国連女性差別撤廃委員会からの再三の勧告に日本政府がまともに対応していないこと④性教育・ジェンダーバッシングのバックラッシュの傷あとが大きく、まともな性教育・ジェンダー教育が行われていないこと―などが指摘をされました。
 
塚原さんは、女性差別撤廃条約第2条(g)「女子に対する差別となる自国のすべての刑罰規定を廃止すること」、女性差別撤廃委員会一般勧告19号第16条1(e)21「女性は子の数および出産の間隔に関して決定する権利を有する」、同一般勧告24条31(c)「妊娠中絶を刑事罰の対象としている法律…を廃止すること」―などの条文や勧告を紹介し、「これらの勧告内容を受けとめるなら堕胎罪は廃止しかない。改めて、刑法堕胎罪に関して、条約や勧告を吟味し、政治の光を当ててほしい」と強調しました。
 
そして、リプロ問題も含め、日本のジェンダーギャップの世界的な遅れを打ち破るために、意思決定機関への女性の参加の拡大や、性教育・ジェンダー教育の推進など、総合的な取り組みが必要であると述べました。
 
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質疑応答

質疑応答では「海外では当たり前になっている経口中絶薬は、緊急避妊薬とは別の薬なのか。妊娠何週まで使えるのか」、「リプロダクティブ・ジャスティスというのはどういう考え方か」、「セクシュアル・リプロダクティブ・ヘルス&ライツという言い方もあるが、先生はなぜセクシュアルを使わないのか」、「日本の産婦人科医が掻爬を主流としているのは、中絶薬にすると収入が減るからか?それとも女性への差別意識のせいか?」などが出され、塚原さんからそれぞれ明快な回答が述べられました。
 

参加者の感想

参加者からは、下記のような感想が寄せられました。
 
●国際水準の医療技術さえ享受できていない現状に驚愕しました。
 
●たいへん面白く、勉強になりました。日本は生殖関連の女性の権利が圧倒的に遅れていることが、あらためてよくわかりました。堕胎罪もなくせるとよいですね。
 
●女性のみに課せられた重い負担(妊娠、中絶、出産、これらともかかわる性暴力。ときには罰をうけているような気さえする)を、どのようにして軽減していくのか、男性まかせ(コンドーム)ではなく、女性の権利としてどう確立していくのか、大変重要な問題と思います。教育だけでなく、政治の分野で、政策として発展させていくために力をあわせましょう。
 
●歴史的な経緯を含め、大変わかりやすいお話で勉強になりました。RRという言葉は、中絶という言葉を使わない…政治の妥協の産物か…との程度の理解だったのですが、権利として女性たちが獲得していく過程で、選択するためだけでなく、より幸せに生きていくための人々の権利として発展してきたことがよく分かりましたし、そういう視点でとらえていく大切さを学びました。
 
●ベトナムの事案にも詳しくふれて下さって、ベトナムでなら何でもなかったことが、来日したことで苦悩に陥れられてしまう、あまりに非人道的な日本の現状がより鮮明にイメージできました。この切り口は労働弁護団にもまったく知られていないので、リプロの視点を宣伝して、せめて女性弁護士には知ってほしいと思いました。国連機関からのたくさんの勧告を無視軽視する政府の姿勢を変えなければ!『堕胎罪全廃』に新しいインパクトを受けました。当面する中絶ピルの早期認可、薬価、さらに総合的なリプロの確立へ、今後も研究者の方々に教えていただきながら前へ進めたいです。
 
●すごく勉強になりました。そもそもリプロダクティブ・ヘルス&ライツというワードにであったのが、1月の党大会が初めてでした。今回の学習会で、おおよそのガイドラインがわかり、これからどんなことを学んでいったらいいか、ようやく入り口に立ったと感じています。
 
●とても濃い内容でした。1回では理解するのは難しいと思いましたが、自分にこんなに権利があると初めて知って衝撃です。過去の自分に教えたいです。色々なことが女性のせいにされていて、そんなにいっぱいできるわけない、と思いつつ、できない私は女として失敗なんだと思ってましたが、思考をうまくからめとられてたんだなあと思いました。
 
●全体として知らないことばかりで勉強になりました。特に今でも「堕胎罪」というのがあることや、女性に配慮がない「母体保護法指定医師必携」が指針として使われていること、中絶薬はWHOも安全で効果があると認めているのに日本では厚生労働省が「中絶薬は危険」とウソの警告をしていることなど。外国と比べると、日本ではこんなに窮屈な、人権が認められない中で人生を送らざるを得なくされているのかと驚きました。リプロダクティブ・ヘルスケア&ライツの問題については日本ではどれくらい国民的なレベルで認識されているのでしょうか。(特に男性の中ではほとんど認識されていないような気が…。自己批判も込めてですが。)外国に比べてあまり議論されていないような印象も持ちます。ニュージーランドのアーダーン首相とかは、女性特有の課題についても発言し、イニシアチブをとって政策をつくっているみたいです。やはり政治や社会の意思決定機関、政治家のなかで女性の割合が増えて、男性も巻き込んで議論しないといけないですね。
 
※当日の動画と資料は、一つ前の記事にてご覧いただけます。

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