新型コロナ対策にジェンダーの視点を   UN Womenの提言全訳

安倍政権の場当たり的なコロナ対策のしわよせが、弱者に向かっています。その中には、非公式経済の主な担い手である女性、家庭に居場所がない若年女性たちが含まれています。

国や自治体のコロナ対策が女性を取り残したものになっていないか−−国連女性機関(UNWomen)は、各国政府へ向け、具体的な提言として『新型コロナ対策のためのチェックリスト』(3月20日)、『女性と新型コロナ:各国政府が今すぐできる5つのこと』(3月26日)を発表しました。

以下、提言の全訳を掲載します。

 

新型コロナ対策のためのチェックリスト

国連女性機関事務局次長 Asa Regner 2020.3.20.Fri.

国連本部と世界中の国連女性機関事務所は閉鎖もしくは厳しい勤務制限下にあります。しかし、国連は100%機能しており、新型コロナウィルスという、我々が備えてきた事態には、それ以上の対応をしています。現状における国連女性機関の大切な任務は、ウィルスへの政治経済的対応をフォローすることです。

私達は、女性達が各国の福利をその肩に背負っていることを認識しています。今、彼女らは昼夜、社会のまとまりを維持するために働いています。彼女らはそれを、ヘルスケア、老年介護、オンライン授業、保育、薬局、食料品店の現場、そして社会福祉士として働くことを通して行っています。いくつかの国々では、このリストにある仕事の全ては、伝統的に男性が担ってきた職業に比べて低賃金であるとはいえ、有償労働です。しかし、その他の国々では、女性のケアワークは無償です。

国連女性機関の仕事は、各国政府が女性と女子の権利を擁護できるよう支援することです。このことは、危機においても変わらないどころか、より真実です。各国政府は、迅速に行動を起こすべきという巨大なプレッシャーのもと、対策を講じています。しかし私たちは、決定や政策はジェンダーの視点があることでより良いものになることも知っています。実際、ジェンダーの視点なき決定や政策は劣るだけでなく大抵失敗します。

それが、この状況への対応において私たちが決定権者と協力する理由であり、それは女性と女子にとってだけでなく、全ての人にとってより良い結果をもたらすためです。

私たち全員が経験している日常生活の急速な変化は、女性と男性に対しては異なるインパクトを持ちます。家族全員が突然、狭い空間に常時集まり、経済的ストレスの下、子供達の教育はオンラインに移行してきています。このような状況が全員にもたらす制約の下においても、私たちが日々生きるジェンダーダイナミクスが、様々な人々にとって大きく異なる結果や経験をもたらす可能性があります。

そこで私は、政府、自治体、議会のリーダー達やその他の決定権者に対し、以下の10の質問をします:

第一に、私たちがエボラやジカやその他の状況で経験したように、なんらかの理由で行動が制限される状況のもとでは、女性に対する暴力が増加します。暴力的なパートナーを持つ女性にとって、四六時中家にいることは、潜在的に危険な状況です。資源、ホットライン、シェルターへの女性のアクセスを保障するために何をしていますか?

第二に、あなた方の経済対策は、何をターゲットに、誰の利益に対して行っていますか?男性の収入は女性の収入より高いのが一般的です。男性は終身もしくは長期雇用の仕事を過剰に代表し、不安定な仕事は過少に代表しています。結果として、健康保険、失業手当や他の社会的保護といった保障へのアクセスにおいて巨大な不平等があります。男性はまた、世界の政治的意思決定の過程も過剰に代表しています。女性の声や関心がどのように意思決定の過程やあなたの主導する結果に反映されているか考慮していますか?女性の政治家や意思決定権者の意見を取り入れていますか?女性の多い労働分野を代表する雇用主や労組が声をあげることができていますか?女性組織、女性シェルター、NGOなどの意見は聞かれていますか?非公式セクターで働く女性はどうですか?

第三に、女性は男性より貧困で、経済的力が弱いです。現金給付を考えている場合、それは家計ではなく、女性の男性への依存をやわらげるために個人に対したものになっていますか?

第四に、経済低迷もしくは停止が起きた場合の、その多くが女性であるシングルペアレンツに対する支援を準備していますか?

第五に、私たちは、現況においては高齢の女性と男性の健康リスクが高いことを知っています。しかし、世界的にも高齢者の過半数が女性で、特に80歳以上はそうです。しかし、彼女らの年金はあっても低いことが多く、ケアや他のサービスを購入する可能性が低い。あなたの政府は高齢者の状況をつかんでいますか?彼ら彼女らが一人なのか、サポートがあるのか知っていますか?もし彼らが一人暮らしで、外出しないように言われているなら、供給者を確保するための計画は立てていますか?皆が今必要としている情報がそもそも彼らに届いているのかどうか、知っていますか?

第六に、高齢者のケアがあるところ、供給者はしばしば女性です。これは有償の仕事であることもあれば、単に家族のメンバーがサポートしていることもあります。ケア提供者が感染から守られることを確保するために何をしていますか?彼らの労働が支払われることを保障していますか?それは十分ですか?

第七に、多くの国で、男性よりも女性の方が健康保険を持っている人が少ない。彼女らの、検査やヘルスケアを受ける権利を保障するために何をしていますか?

第八に、危機のもと、人々には食品への安定したアクセスが必要です。女性は、農業や食品店を含む、低賃金の食品生産労働を過剰に代表しています。彼女らの労働条件/環境、給与、土地へのアクセスなどを含む状況を保護するために何をしていますか?

第九に、学校が閉鎖になっている所があります。資源のある人はオンラインや遠距離授業に移行しているでしょう。男子が勉強を続ける一方、女子が兄弟や祖父母の世話をさせられることのないように、どんな手立てを講じましたか?

第十に、妊産婦のケアの、ケアスタッフと妊産婦にとって安全な状況下での継続を保障するために何をしていますか?ヘルスシステムへの重圧は決壊寸前まできています。だからこそ、母体の健康を含めた女性の健康をどのように守りますか?

国連女性機関は、女性と女子の権利を支持するため、各国政府、自治体、世界中の市民社会との日々の対話を続けます。この危機は私たちを試しますが、もし私たちが新型コロナその他への対応においてジェンダー平等を実現する対応に焦点を当て続けるなら、私たちはこれをより良く、より早く克服し、以前よりも良い状態に回復できるでしょう。□

 

女性と新型コロナ:各国政府が今すぐできる5つのこと

国連女性機関事務局次長 Anita Bhatia 2020.3.26.Thu.

世界の各国政府は新型コロナのパンデミックを収束させるために奮闘しています。いくつかの声が女性の受けるインパクトを強調しましたが、ジェンダーへの配慮はまだ、主に男性リーダーたちの意思決定を形作っていません。同時に、新型コロナによるインパクトの多くは女性を最も強く直撃しています。以下がその理由です:

第一に、経済的社会的インパクトは全員にとって深刻である一方、女性にとってはより深刻です。隔離や閉鎖によって直接的な影響を受けている公式経済−−旅行、観光、レストラン、食品生産−−の多くは、女性の労働力参加の非常に高い産業分野です。女性はまた、世界中で、非公式市場の中の非公式経済と農業の労働力の多くを構成しています。先進国と途上国経済の両方において、多くの非公式セクターの仕事−−家庭内労働者、ケア労働者−−のほとんどは、健康保険を持たず、頼ることのできる社会的セーフティネットを持たない女性によって行われています。

同時に、女性は概してより大きなケア負担を背負っています。新型コロナ以前でさえ、平均して女性は男性の3倍のケア労働を担っていました。現在、子どものいる公式セクターの女性労働者は、以下の一つかそれ以上のことのバランスを保っています:仕事(もしまだ持っていれば)、子どもの世話、ホーム・スクーリング(家庭学習)、高齢者介護、そして家事。女性が世帯主の世帯は特に脆弱です。

第二に、この危機は女性の健康と安全にインパクトを与えています。この病気の直接的インパクト以外にも、すべてのサービスが基本的な医療需要に向けられる中、女性にとって不可欠な妊産婦向けヘルスサービスへのアクセスが難しくなっているでしょう。避妊や他のニーズに対するサービスが入手しにくくなっているでしょう。女性の私的安全も脅かされています。この病気の克服に必要な条件そのもの−−隔離、人混みを避ける(外出を控える)、行動の自由の制限−−が、倒錯したことに、虐待を爆発させるためにテーラー仕立てされた国家承認の状況として虐待者の手に入ってしまうのです。

第三に、ヘルスワーカー−−特に看護師−−の最前線の過半数が女性であるために、彼女らの感染リスクが高いことです(世界のヘルスフォースの67%が女性という推定もあります)。そのため、すべてのケア提供者にとって安全な条件を確保することへの注意が払われなければならない一方で、女性の看護師とケア提供者へ特別な注意が必要です−−マスクなどの個人の防護用装備だけでなく、生理用衛生品その他のニーズ−−それらはうっかりと見過ごされやすいものですが、彼女らがしっかりと役割を果たすことができるために必要不可欠です。

最後に、このパンデミックへの対応を計画し実行する過程において、鍵となる意思決定権者のほとんどが男性であることは衝撃的です。世界のどこでも、誰かがテレビをつければ、男性の海を目にします。女性が未だ重要な意思決定機関−−政府、議会、内閣や企業−−で男性と同程度の参加ができていないことを考えれば、これは驚くに値しないでしょう。女性は世界の議員のたった25%で、国家や政府の首脳の10%以下です。国家や政府の首脳である少数の輝かしい女性の例もある一方、このパンデミックでの意思決定の場における女性の不在は顕著です。

以下、これらの課題に対処するために、各国政府が今すぐにできる5つのアクションを挙げます:

第一に、対応努力のすべての局面において、女性の看護師や医師が仲間入りできるよう保障すること。これは、最低でも、生理用ナプキンやタンポンなどの月経衛生用品を、個人防護用品の一部として、女性のケア提供者と最前線の対応者が手に入れられるようにすることを意味します。これにより、すでに困難な状況の中、彼女らが不必要な不快感にさらされずにすむことを保障できます。しかし、最も重要なのは、ケア提供者に話を聞き、彼女らのニーズを把握し、それに対応することです。彼女らは、私たちができる最大限の支援を受けるに値し、特に必要な重要な医療機器についての支援はその最たるものです。

第二に、すべての家庭内暴力の被害者のためのホットラインとサービスが「基本的(必要不可欠)なサービス」と位置付けられ、開かれ続けることと、法律の実施が被害者からの連絡に対応するためのニーズに敏感であることを保障すること。女性のサバイバーのためのシェルターを基本的サービスのリストに含めたケベックとオンタリオの例に倣うこと。そうすることで、女性の暴力による死の高い割合を親密なパートナーの犯行が占めることに照らしても、パンデミックによる隔離・封鎖期間中、(ジェンダー視点の欠如という)不注意のために、さらなるトラウマ、怪我、死が引き起こされないように保障することができます。

第三に、救済措置と刺激策は、女性特有の状況の理解とケア経済の認識を反映させた社会的保護措置を含むものでなければなりません。これは、健康保険の恩恵を最も必要とする人や、家にいる子どもや老人の世話のために仕事に来られない人のための有給休暇もしくは病気休暇を保障することを意味します。

発展途上経済では女性の労働力のほとんどがそうであり続ける非公式経済の労働者にとって、補償給付を行う特別の努力がされるべきです。非公式セクターの労働者への対応は挑戦であり、各国の特殊な状況を考慮する必要は理解しつつも、やはり結果の公平を確保する努力をすることには価値があります。

第四に、リーダーたちは、対策と回復へ向けた意思決定に女性を含める方法を見つけなければなりません。地域、市町村、国のレベルにかかわらず、意思決定に女性の声を取り入れることは、より良い結果につながります;私たちはさまざまな状況設定から、視点の多様性が最終決定を豊かにすることを知っています。これと同時に、政策策定者は、女性組織の可能性に投資するべきです。女性団体に協力を求めるべく手を差し出すことは、彼女らの注目に値するネットワークが(人混みを避けるという)ソーシャル・ディスタンシングのメッセージを広めるためのテコとなり、より強力な地域からの反応を確保する手助けとなります。エボラへの対応は女性団体の参加による利益を受けたのですから、今回もそうしない手はありませんよね?

最後に、政策策定者は、人々の家庭で何が起きているかに注意を払い、女性と男性の間のケア負担の平等を支持しなければなりません。世界各地の世帯内で行われているジェンダー役割を「非ステレオタイプ」化する好機です。各国政府ができる、特に男性のリーダー向けの具体的なアクションの一つは、私たちのキャンペーンHeForSheに参加して、私たちが男性・男子が家事の公平負担をすることへの協力を確保して女性に過重にのしかかっているケア負担を軽減するために彼らの協力を呼びかけているHeforShe@homeについての情報に注目し続けることです。

これらのアクションとそれ以上のことが急務です。女性のニーズを組み入れることは、私たちが「より良い状態への回復」を遂げる好機をもたらします。

より平等な世界をつくるための政策アクションを実行すること以上の、私たちの共有する人間性に対する敬意の表明はあるでしょうか?□

(訳/飯田洋子 日本共産党中央委員会・ジェンダー平等委員会)

 

 

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