2025参議院選挙 各分野の政策
45、気候危機
気候危機を打開する取り組みは、人類と地球にとって待ったなしの課題です
2025年6月
気候危機の打開は、いよいよ人類と地球にとって待ったなしの課題となっています。すでに世界各地で、異常な豪雨、台風、猛暑、森林火災、干ばつ、海面上昇などが大問題になっています。国内でも猛暑による熱中症の増加や、線状降水帯・ゲリラ豪雨など風水害による災害によって、国民の命が脅かされ、農業や水産業にも大きな被害を与えています。2024年の世界の平均気温は、1850年の気象観測開始以来、もっとも暑い年で、産業革命前に比べると1.55度上昇しました(世界気象機関)。このままでは、パリ協定の温暖化抑制目標である「1.5度目標」(20年平均)を超えて、後戻りできない破局的な事態に陥る危険があります。今後の10年間に、全世界の温室効果ガス(GHG)排出を6割削減できるかどうか、ここに人類の未来がかかっています。
国連のグテーレス事務総長は、この事態を「地球沸騰化」と表現し、各国に気候危機対策の強化を呼びかけています。2023年のCOP28(国連気候変動枠組み条約第28回締約国会議=ドバイ会議)や、昨年イタリアで開かれたG7では、気候危機打開のための取り組みの強化で合意しました。
COP28では、1.5度目標達成のためには、温室効果ガス(GHG)を2019年水準比で2030年までに43%、2035年までに60%の大幅削減が必要だという認識で、全加盟国が合意しました。さらに2030年までに世界の再生可能エネルギー容量を3倍にし、エネルギー効率改善率を2倍とするという目標で合意しました。2024年のG7気候・エネルギー・環境大臣会合では、二酸化炭素(CO2)の”排出削減対策のない”石炭火力発電を2030年代前半までに段階的に廃止することで合意し、共同声明に盛り込みました。イギリスは昨年9月末、最後の石炭火力を停止しました。
米トランプ大統領がパリ協定離脱を決定したことは、気候危機打開の国際的取り組みへの重大な逆流です。ところが石破政権は、何らの批判も行わなかっただけでなく、「LNG購入」約束というあからさまな協力姿勢を示しました。国際社会の厳しい批判はまぬかれません。
日本政府は2月に、2035年度までに2013年度比で60%削減するという目標を国連に報告しました。これは、2019年度比では53%削減にすぎず、国連が世界平均で求める水準を下回っています。
しかも日本は、国連が繰り返し「先進国は2030年までに石炭火力を段階的に廃止を」と求めたのに、G7で唯一、石炭火力からの撤退期限を示していません。大型石炭火力の建設を続けてきてただけでなく、アンモニア混焼(*)やCCS(**)で石炭火力を温存・延命しようとしています。さらに石炭ガス化複合発電など新たな石炭火力発電の開発をすすめています。
(*)“排出削減対策”とは9割以上の削減というのが国際的な理解です(IPCC第6次統合報告書政策決定者向け要約C3.2脚注)。アンモニア混焼によるCO2排出悪限は2割程度とされており、この程度では“排出削減対策”とは言えません。
(**)火力発電所のCCSは経済的合理性がないとされ、技術的にも疑問視されています。
今年の通常国会でGX推進法(2023年通常国会で成立)が改定され、CO2排出量10万トン以上の事業者には、排出上限を定めてその過不足を売買する排出量取引制度への参加が義務付けられました。しかし、総排出量(キャップ)の定めがないため実効性は疑問視されています。すでに排出量取引制度を導入したEU等では、「1.5℃目標」と整合する削減目標でキャップを定めています。日本の排出量取引制度では、キャップを定めないだけでなく、業種特性に応じて、また研究開発分野に、追加の排出枠を認めたり、化石燃料発電所の増設の際には無償で排出枠を追加割り当てします。産業界の要求丸のみで、排出削減どころか化石燃料延命を後押しするものです。
日本の「成長志向型カーボンプライシング」は、原発推進と化石燃料延命を含むGX経済移行債の償還財源が主目的です。炭素に価格をつけ排出削減を強力に推進することを目的とするEU等のカーボンプライシングは、似て非なるものです。とても排出削減策とは言えません。日本のGX経済移行債に対しては、国内外から不信感が示されています。
「GX(グリーントランスフォーメーション)」の実態は、経済界の要求をうけて、「脱炭素」の名のもとに、原発を推進し、石炭火発を延命しようというものです。これで「1.5度目標と整合している」といっても、「グリーンウォッシュ」(環境配慮をしているように装いごまかすこと)だとの批判の声があがるのは当然です。
➡エネルギー、原発については各分野の政策「43、エネルギー」「42、原発問題」をごらんください。
2023年9月にニューヨークの国連本部で開かられた「気候野心サミット」で、岸田前首相が準備していた同サミットでの演説が、日本の気候危機対策の遅れによって「(出席の)基準を満たさなかった」として国連によって拒否されました。文字通り、自公政権のGXをはじめ気候危機対策に、落第という評価を、突きつけられたものです。
2035年までに温室効果ガスを75%~80%削減する―――日本共産党の提案
IPCCは2021年、地球の平均気温の上昇を産業革命前にくらべ1.5度以内におさえようとすれば、この「決定的な10年」に、思い切ったCO2の排出削減に各国が取り組まなければならないという強いメッセージを発しました。日本共産党は、この提起にこたえ、2021年9月に「気候危機を打開する日本共産党の2030戦略」を発表しました。2030年度までに、省エネと再エネを抜本的に強化して、CO2排出量を50%~60%削減するという提案です。気候危機の進行や国際的な取り組み強化を踏まえ、取り組みを加速させる必要があります。
いま各国は、COP28で日本を含む条約加盟国が全会一致で合意した目標や方針をふまえて、2035年を期限とする新たな温室効果ガスの排出削減目標を国連に提出することになっています。日本共産党は2013年度比で温室効果ガスの排出を75%から最大80%削減(2019年度比71~77%削減)するようめざします。エネルギー消費全体で6割減らし(電力消費量は3割削減)、再生可能エネルギーで電力を80%をまかなえば可能です。アメリカのエネルギー省のもとにある国立ローレンス・バークリー研究所が公表した「2035年日本レポート」(2023年)でも、日本の原発の再稼働が難航すれば(低原子力シナリオ)、2035年には再エネ電力比率が77%を占めるとしています。世界5位の温室効果ガス排出国であり先進国として、国連が求める「野心的な取り組み」に挑戦することで、2050年よりも前に「実質ゼロ」を達成する可能性を開きます。
市民参加で、専門家の英知を結集して、野心的な目標・計画を国会で決める
気候危機が進行する中で、若い人たちは将来に深刻な不安を感じています。削減目標と計画の策定を、市民参加、若者参加ですすめ、日本の立ち遅れを抜本的に打開します。
――気候危機打開基本法の制定などにより、専門家の英知結集、市民参加を保障し、閣議決定ではなく国会で審議・決定するようにします。
原発や石炭火力をやめることが本気度の試金石
世界有数の自沈国・津波国日本で、「脱炭素」と称して原発を稼働させることの無謀さは、東京電力福島第一原発事故の現実や能登半島地震などを見ても明らかです。
グテーレス国連事務総長は、先進国は2030年までに石炭火力の廃止をと求めています。日本は、G7で唯一、石炭火力の廃止期限を示していないばかりか、今後も温存・延命しようとしています。
各地の電力会社が再エネ発電への出力抑制を行っています。原発や石炭火力があるために、再エネ電力を「捨てる」など許されません。
――すみやかに原発ゼロ、石炭火力からの計画的撤退をすすめ、2030年度はゼロとします。
省エネの推進と純国産の再エネの大量普及で、CO2の大幅削減、さらに実質ゼロへ
CO2排出削減には、化石燃料の消費削減が不可欠です。省エネルギー(エネルギー効率向上)対策を、化石燃料から再生可能エネルギーへの転換をすすめることが重要です。
既存の省エネ技術と再エネ技術を普及させれば、CO2排出量を9割以上削減できます(未来のためのエネルギー転換研究グループ「Green Transition 2035」)。再エネの潜在量は、現在の電力使用量の7倍もあります(環境省「再生可能エネルギー情報提供システム(REPOS)に係る利用解説書」)。この可能性を本格的に活かすべきです。
エネルギー転換は、エネルギー自給率向上の観点からも急務です。日本のエネルギー自給率は10%程度と先進国で最低クラス(OECD加盟国38カ国中37位)です。原油価格の高騰、ロシアのウクライナ侵略、急激な円安の進行、中東情勢の緊迫など、エネルギーを外国に依存している経済の危うさが浮き彫りになっています。
――再生可能エネルギーの優先利用の原則を確立する 大手電力会社が原発や石炭火力を優先して再エネ電力の導入にブレーキをかける出力抑制を中止します。再エネを最大限活用できるよう東西日本レベルでの電力運営システムや、電力網などのインフラ整備を進めます。
――脱炭素と結びついた農業・林業の振興を進める 農地でのソーラーシェアリング(営農型太陽光発電)、小規模バイオマスの発電の普及などをすすめます。
――省エネの取り組みを産業、都市・住宅など、あらゆる分野ですすめる
大規模排出業界・事業所には、政府との協定で削減を義務化します
日本のCO2排出量の約6割は、電力、鉄鋼、セメント精製、化学工業、製紙の6業種に集中しており、特に百数十の大規模排出事業所だけで約5割にのぼります(気候ネットワーク調べ)。この大規模排出源での削減が、日本全体の削減にとって決定的です。
――二酸化炭素排出量が大きい業界、大規模事業所に、二酸化炭素削減目標と計画、実施状況の公表などを「協定」にして政府と締結することを義務化します。目標未達成の場合には課徴金を課します.
――他の企業には、規制ではなく、第三者の認定機関が各企業の目標と計画、深緑状況を評価する制度をつくり、CO2削減の取り組みが正当に評価されるようにします。
データセンターの計画は、省エネ・再エネで気候危機対策との両立を
データセンターの建設計画が急増し、それによる電力消費の増加を口実に、原発の再稼働を進めようという動きがあります。
データセンターによる電力消費の増加は、国内だけでなく世界的な問題となっています。台湾、アイルランド、シンガポールでは新設が停止され、ドイツでは新設計画でエネルギー効率の上限を設定し省エネが義務化されています。国連貿易開発会議(UNCTAD)の「デジタル経済報告書」2024年版では、デジタル化は歓迎すべきものであり、世界の経済成長に必要な原動力だが、急速なデジタル化は環境への懸念を高めるため、包括的かつ持続可能なものでなければならないとしています。デジタル技術の地球環境への負荷を軽減するため、環境規制の強化と再生可能エネルギーへの投資を求めています。グテーレス国連事務総長はこの報告書の序文で「気候変動へのコミットメント(公約)を尊重するデジタル政策の枠組みを求めています」と明記しています。
これを考慮すれば、次のような条件を満たす必要があります。
(1)使う電力は、再生可能エネルギー電力とし発電時CO2を出さない
(2)立地は、冷房に要する莫大なエネルギーを節約するため、できるだけ寒冷な地域にする(ヨーロッパなら北欧)
(3)データセンターの省エネを徹底して、消費電力量や排熱量を減らすこと(ドイツの規制の例)
さらに立地の問題で、今ある立地計画の面積でみると、8割以上が東京圏・大阪圏に集中し、再生可能エネルギーが豊富に存在する場所ではありません(デジタルインフラ(DC等)整備に関する有識者会合第7回資料4)。また巨大な建物が居住地域に隣接して建設する計画など、住環境に悪影響を及ぼす恐れがあるものもあります。膨大な排熱でヒートアイランド化を促進することも懸念されます。自治体の気候危機対策を台無しにすることがないよう、企業に地球環境保全での責任を果たさせるルールをつくります。
自治体の「実行計画」策定へ市民の積極的参加を
地球温暖化対策推進法や政府の「地球温暖化対策計画」にもとづき、自治体は、区域内の「実行計画」(区域施策編)を策定することになっています。2050年のCO2排出「実質ゼロ」や35年までの思い切った排出削減を踏まえて、「脱炭素」社会に向けた計画を立案していく必要があります。
環境省によれば、「2050年までにCO2排出ゼロ」を表明した自治体は、東京都・京都市・横浜市を始めとする1,161自治体(46都道府県、644市、22特別区、389町、60村)に達しています(2025年3月31日時点)。この目標の達成のためにも、いよいよ自治体レベルでの具体的かつ計画的な取り組みが求められています。
全国の1,700余の自治体の多くは、大口排出事業所がなく、規模の小さな工場や農林水産業、建設業、オフィス・商業施設などの業務部門、運輸部門、家庭部門からのCO2の排出となります。これらの全体の省エネと再エネへの転換を進めることが課題です。CO2排出の相当部分が購入電力による場合が多く、区域内での再エネ発電所や建物・農地での太陽光発電の増設を図るとともに、住民・事業者がCO2排出の少ない電力を選んで購入することが大事となります。
省エネ・再エネの普及は、光熱費の削減とともに、地域外へのエネルギー費用の流出を削減でき、地域の事業者への受注や農業者の再エネ収入増による地域経済の底上げに寄与します。地域の住民・専門家・事業者の連携による新たな地域活動の創出にもつながります。
「実質ゼロ」の実現にふさわしい自治体の目標を、住民参加で策定する―――自治体の領域内の特徴を踏まえた野心的な削減目標の設定、住民の年齢や職種などの構成比に合わせくじ引きで参加者を選出して開く市民会議など、市民の意欲や知恵、協力が反映できる計画となるよう策定会議を工夫します。
省エネを推進する―――断熱に優れた住宅・建物の普及、省エネに優れた機器への買い替え、EV車の普及や、公共交通などの利用による省エネ交通システムの整備を図ります。
再生可能エネルギーの導入拡大を進める―――地域の条件をいかした多様な再生可能エネルギーの導入、排熱の地域利用、地域の企業や家庭が再エネ比率の高い電気を選ぶように助言する仕組みを導入します。
都市の貴重な緑を守る――猛暑のなかで都市部のヒートアイランド化が深刻化していますが、その抑制のための貴重な緑が、風の流れを遮りエネルギーの消費増となる高層化などの再開発によって犠牲にされています。欧米では植樹を取り入れたまちづくりが進められており、気候危機対策の観点から都市のあり方を見直します。
対策の立案に専門家の知見を生かす―――自治体と地域の専門家、実務者が協力し、省エネの診断、ひも付きでない中立の立場での紹介・アドバイスを実施しできるよう、支援組織の設立を進めます。
脱炭素を地域発展につなげる―――地元企業が省エネ対策や再エネ導入で仕事を受注し、雇用が増えるよう協力や支援の体制を整備します。
自治体施設・事業での脱炭素計画を重視する―――建物の断熱や省エネ設備の導入、再エネ100%を追求するなど、地域の模範となるような計画を推進します。
気候危機への本気の取り組みが新しい投資と雇用を生み、持続可能な成長を実現する
産業構造の脱炭素化は世界の流れです。自動車工業会は、電力の脱炭素化が遅れれば、製造時の CO2の排出量が減らず、日本の車は海外に輸出できなくなり、最大で約100万人の雇用が失われ、経済影響はマイナス26兆円との試算を公表しています(2021年10月「カーボンニュートラル 自工会発信メッセージ」)。日本経済の新たな成長のためにも、石炭火力など化石燃料にしがみつくことは許されません。
再エネは、密度が低いものの、日本中どの地域でも存在します。この特徴を生かして、地域と住民の力に依拠して活用をすすめてこそ、多様で大規模な普及が可能になります。そうすれば地域経済の縮小に悩むところでも、地域おこしの貴重な資源となります。地域のエネルギーとして、地域が主体になって開発・運営することで、エネルギー費用の域外流失が減り、地域での資金の新たな循環を生み出されます。住宅や小規模工場での省エネの普及・改修、その屋根への太陽光パネルの設置、自治体主導や住民の共同による事業、屋根貸し太陽光発電事業などを推進することで、地域に仕事と雇用を生み出せます。
研究者等の試算(前出「Green Transition 2035」)では、省エネや再エネの推進を柱に2035年までに民間と公的な投資は累積258兆円となり、GDP押上効果は累積288兆円、雇用創出も年間平均で315万人になります。省エネん・再エネに必要な投資は小さくありませんが、大企業内に滞留している564兆円の内部留保を積極的に活用することで、日本経済の新たな成長の力となります。
気候危機打開のための経済・社会の大転換は、文字通り日本経済の構造的な大改革を意味します。その達成のためには、広範な国民の参加と共同が必要です。脱炭素化への大転換では、目先の利益にとらわれ国民に分断をもたらす新自由主義から、中長期の展望をもった環境的にも持続可能な経済への転換も求められます。地球環境を犠牲にした大量生産・大量消費・大量廃棄型から、持続可能な地域循環型経済への転換、大都市集中から地方の強化、非正規の不安定な雇用から安定した雇用の拡大と労働者の権利の保障へ――こうした転換が同時に取り組まれてこそ、省エネ・再エネなどによる新たな仕事と雇用の創出の効果が、地域経済にも波及し、パリ協定にも盛り込まれた「公正な移行」による「雇用の移動」もスムーズに行われます。